「異邦人」
(原題:Lo Straniero)
1967年10月14日公開。
「死」とは何かというテーマを描く異色作。
フランスの作家であり哲学者・カミュの名作を映画化。
原作:アルベール・カミュ「異邦人」
脚本:スーゾ・チェッキ・ダミーコ、エマニュエル・ロプレー、ジョルジュ・コンション
監督:ルキノ・ヴィスコンティ
キャスト:
ムルソー:マルチェロ・マストロヤンニ
マリー:アンナ・カリーナ
レイモン・サンテ:ジョルジュ・ジェレ
あらすじ:
第二次大戦前のアルジェ。
平凡な一市民であり、サラリーマンであるムルソー(マルチェロ・マストロヤンニ)の母が養老院で死んだ。
養老院は、アルジェから六十キロほど離れたマレンゴという町にある。
暑い夜だった。
ムルソーは、母の遺骸のかたわらで通夜をしたが、時間をもてあまし、タバコを喫ったり、コーヒーを飲んだりした。
養老院の老人たちが、悔みの言葉を述べにきたが、ムルソーには、わずらわしかった。
養老院の主事が最後の対面のために棺を開けようといったがムルソーは断った。
その日、葬式をすませ、彼はアルジェに帰って来た。
その翌日、彼はかつて同じ会社にいたタイピストのマリー(アンナ・カリーナ)と会い、フェルナンデルの喜劇映画をみて一緒に帰宅した。
毎日、単調な生活をくり返しているムルソーにとって、唯一の変っていることといえば、レイモン・サンテ(ジョルジュ・ジェレ)とのつきあいだ。
彼は売春の仲介をやっているという噂もある評判のよくない男だが、だからといってムルソーには、この男とのつきあいをやめる理由はない。
ある日、レイモンが自室でアラビア娘をなぐる、という事件が起きた。
警官が来て、ムルソーはレイモンに言われた通り質問に答えた。
一方、マリーは、ムルソーと逢びきを続けていたがある日、結婚してほしいと言った。
ムルソーは、どちらでもいい、と答えるのだった。
ある日曜日、ムルソーとマリーは、レイモンと一緒に彼の友人が別荘を持っている海岸に出かけた。
三人が海岸を散歩している時、三人のアラビア人に会った。
そのうちの一人は、かつてレイモンに殴られた娘の兄だった。
けんかが始まり、レイモンは刺された。
ムルソーは、彼を病院に運び、再び海岸にもどった。
暑さが激しく、太陽がまぶしかった。
そこへ再び、さっきのアラビア人がきた。
ムルソーは、あずかり持っていたピストルに手をかけ、二発、三発……。
太陽が、ことさらに強い、夏の日のことだった。
ムルソーは捕えられた。
予審判事の尋問に、ムルソーは母の死んだ日のことからすべてを正直に話した。
法廷でも、葬式の翌日、喜劇映画を見たことや、マリーと遊んだことを話した。
検事も陪審員も、母親の死の直後の彼の行動を不謹慎と感じたのだろう。
絞首刑の宣告をした。
獄舎にもどったムルソーは、神父の話を聞くことを拒んだ。
神の言葉が一体なんなのだろう。
母の死が、アラビア人の死が一体なんなのだろう。
誰れもがいつかは死ぬ--彼はそう叫んだ。
ムルソーは、こうして死を受け入れることによって、自由な存在の人間になったのである。
コメント:
フランスのアルベール・カミュの代表的小説『異邦人』の映画化である。
フランス語が堪能だったルキノ・ヴィスコンティが念願の映画化を実現した意義深い作品。
母の死にも、美人の彼女にも、自らの衝動的な殺人にも、全く心を動かさないうつろな人間像を描いている。
仏植民地時代のアルジェリアが舞台で、辺境感、人種差別、性差別が克明に描かれる。
背教者として彼を敵視する判事など、裁判の不条理に対する皮肉も痛烈だ。
「太陽のせいで殺した」という有名なセリフに傍聴者から笑いが出る。
主人公の人生背景について全く語られない。
それが観る者にとっては理解の妨げとなるのだが、だからこそ、どんな時代にも、どんな国にも、あてはまる物語なのだろう。
彼はこの世界そのものへの「異邦人(ストレンジャー)」なのだ。
原作の「異邦人」(仏: L'Étranger)は、1942年刊行のアルベール・カミュの小説。
カミュを一世風靡させた、世界的に知られている小説である。
人間社会に存在する不条理について書かれている。
カミュの代表作の一つとして数えられる。
1957年、カミュが43歳でノーベル文学賞を受賞したのは、この作品によるところが大きいと言われる。
日本語訳としては、新潮文庫版の窪田啓作訳が広く知られ、冒頭1行目の「きょう、ママンが死んだ。」という訳も有名である。
小説のあらましは以下の通りとなっている:
第一部
アルジェリアのアルジェに暮らす主人公ムルソーの元に、母の死を知らせる電報が、マランゴの養老院から届く。
母の葬式のために養老院を訪れたムルソーは、涙を流すどころか、特に感情を示さなかった。
アルジェに戻ったムルソーは、海水浴場で会社の元タイピストであるマリイに再会する。
その後、二人はコメディ映画を見て、親密な関係を持ち始める。
これはすべて、母の葬式の翌日に起こっている。
ある週末、レイモンドはムルソーとマリーを友人のヴィラに招待する。
第二部
ムルソーは逮捕され、裁判にかけられることになった。
裁判では、母親が死んでからの普段と変わらない行動を問題視され、人間味のかけらもない冷酷な人間であると糾弾される。
裁判の最後では、殺人の動機を「太陽のせい」と述べた。
死刑を宣告されたムルソーは、懺悔を促す司祭を監獄から追い出し、死刑の際に人々から罵声を浴びせられることを人生最後の希望にする。
この映画も、舞台はアルジェリアだ。
カミュは仏領時代のアルジェリアに生まれた。
フランスの植民地だったこの土地は、多くの映画の舞台になっている。
ジャン・ギャバン主演の名作「望郷 (1937)」もそうだ。
おそらくイタリア人の映画人から見ても異端の土地という印象があるのだろう。
この映画は、YouTubeで全編無料視聴可能。
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