「魂のジュリエッタ」
(原題:Giulietta degli spiriti)
1965年10月23日公開。
フェリーニ監督初のカラー作品。
ゴールデングローブ賞最優秀外国語映画賞受賞。
脚本:フェデリコ・フェリーニ、トゥリオ・ピネリ、エンニオ・フライアーノ、ブルネロ・ロンディ
監督:フェデリコ・フェリーニ
キャスト:
- ジュリエッタ・ボルドリーニ:ジュリエッタ・マシーナ
- スージー/イリス/ファニー:サンドラ・ミーロ
- ジョルジョ:マリオ・ピス
- ヴァレンティナ:ヴァレンティナ・コルテーゼ
- ピジマ:ヴァレスカ・ゲルト
- ジョルジオの友人:ホセ・ルイ・ド・ビラロンガ
- 霊媒:フリードリッヒ・フォン・レデブール
- ジュリエッタの母:カテリーナ・ボラット
- エリザベッタ:ミレーナ・ヴコティッチ
- シルヴァ:シルヴァ・コシナ
あらすじ:
ローマ郊外の閑静な住宅地に住む中年の夫婦ジョルジョ(M・ピス)とジュリエッタ(G・マシーナ)の結婚記念日。
ジュリエッタは着飾って、夫の帰宅を待ちわびていた。
夫婦だけで静かにすごしたいと考えていたジュリエッタだったが、夫は招かざる多勢の客をつれて帰ってきた。
彼女はあたりの賑やかさとはうらはらに、だんだん気が滅入っていく自分をどうすることもできなかった。
ジュリエッタは献身的で貞淑な妻だった。
夫に対する気持は、結婚当座と少しも変わってはいなかったが、その夜の気持は、いつもと少し変っていた。
もうあまり若くない自分。初めて、あせりのようなものを感じた。
そして、もしかしたら、夫に愛人がいるのではないか……などとさえ考えた。
彼女は鏡にむかい、自分の顔と対話しているうちに、いつしかとめどない妄想が拡がっていく。
そして夢幻の世界をさまよい、子供の頃の記憶がよみがえり、時に寓話の世界が現出する。
その幻は、夫を誘惑するであろう色々のタイプの女性の姿をとるときもある。
それは残酷で脅迫的だったり、あるものは、荒唐無稽だったり、異常ですらあった。
そして、ふとわれにかえる時、夫への疑惑は耐え難いほどにふくれ上がり、心の傷はますます深くなっていった。
彼女は心霊術師を訪ねて悩みをうちあけ、興信所に夫の素行調査をたのんだりした。
一方彼女は、女ともだちのスージイを訪ね、男性遍歴が生き甲斐だという彼女から、浮気のお膳立てをととのえてもらったりした。
しかし、浮気のできるジュリエッタではない。
興信所の調査で、夫の不貞の証拠をみせられたジュリエッタは、完全に見捨てられたことを感じた。
彼女にとっては、夫の愛がすべてだったのだから。
夫が出張で出かける日、ジュリエッタは涙をいっぱいうかべて、見送った。
これが最後かもしれない。
ジュリエッタは再び幻想の世界へ入る。
しかし誰も彼女を救ってくれはしない。
そして幻との対話をやめた時、傷ついたジュリエッタの心の中に、かすかな希望がよみがえってくるのだった。
コメント:
夫の浮気に悩むヒロインが、現実と夢の世界を行き来した末に心の安らぎを得るという内容の異色作。
フェリーニ監督ならではの、繊細な映像が光る作品。
結婚15周年を祝うパーティーを皮切りに貞淑な美人妻(ジュリエッタ・マシーナ)の夫への猜疑心や浮気願望を描きつつ、さらに少女時代の記憶の断片があふれ出してからはサーカスやキリストといったフェリーニ特有の世界観が外連味たっぷりに展開していく人間ドラマ。
まあ、日本でもよくある更年期症状の中年女性の被害妄想を描いている作品である。
だが、鬼才フェリーニの手にかかると、立派な映画になってしまうのだ。
学芸会で火刑されるキリストを演じたヒロインを祖父が激高しながら舞台に上がり、連れ戻される。
フェリーニ作品にキリストはつきものだが本作でもどこか懐疑的な視点を感じた。
サーカスの踊り子に夢中になった祖父が飛行船に乗って逃避行に出かけたり、赤いガウンを着た黒い帽子の男が海から上がってくると太いロープで檻のようなものを引き上げる。
中には様々な人種の人間たちがヒロインを見つめていた。
交霊術や夫の浮気調査といった通俗的なエピソードも絡めながら、ヒロインの心の葛藤がアーチスティックに描かれていく。
ヒロインの友人で15歳の時に失恋が原因で自殺した少女が死の世界へ誘ってくる場面は強烈。
時折登場する紫の衣装をまとった修道女たちの集団も不気味だ。
人生の走馬灯を描いた145分間と言えよう。
ヒロインの顔をなかなか見せてくれないファーストシーンの焦らし方も最高。
この映画はYouTubeで全編無料視聴可能。