「河内カルメン」
1966年2月5日公開。
今東光の同名小説を原作にしたドタバタ喜劇。
原作:今東光「河内カルメン」
脚本:三木克巳
監督:鈴木清順
キャスト:
- 武田露子(つゆこ):野川由美子
- 武田仙子 :伊藤るり子
- 武田きく :宮城千賀子
- 武田勇吉 :日野道夫
- 坂田彰:和田浩治
- 高野誠二:川地民夫
- 雪江:松尾嘉代
- 鹿島洋子:楠侑子
- 源七:野呂圭介
- 不動院の良厳坊:桑山正一
- 斎藤長兵衛:嵯峨善兵
あらすじ:
河内のドン百姓勇造の娘露子(野川由美子)は、美しく豊かな肉体で村中の男を悩殺していた。
中でも刷毛工場の息子で大学生の彰(和田浩治)は、露子に夢中であったが、露子もまた彰に強く魅かれていた。
だが、村祭の夜、露子は悪童らに処女を奪われ、母のきく(宮城千賀子)が悪坊主・良巌坊(桑山正一)と関係するのを見た露子は、家出同然に大阪にとび出した。
さて大阪に出た露子は同級生雪江(松尾嘉代)の世話でバーに勤めた。
いやらしい沢山の男の中で、同郷人だという勘造は露子に惣れこみ、露子のアパートに同居した。
そのうち露子は鹿島洋子(楠侑子)の誘いでフアッションモデルとして生計をたてることになった。
鹿島洋子の家に移って、コーチを受ける露子は、洋子のセックスフレンドである経理士誠二(川地民夫)から、洋子はすごい同性愛者で露子は狙われていると聞かされ驚愕した。
そしてある夜寝室を襲われた露子は、とうとう洋子のもとを逃げ出して、誠二の家にころがりこんだ。
デパートのマネキンになった露子は、偶然彰にめぐり会い、誠二と別れて彰のアパートに移った。
生駒山に温泉を掘ろうと野心を抱く彰のため、露子は誠二の力を借りて金貸し・斎藤長兵衛(嵯峨善兵)のメカケとなった。
長兵衛に気に入られた露子を縁に、彰は長兵衛に借金を頼んだが断わられ、あげくに、長兵衛の趣味とするブルーフィルム製作のスターにかり出される始末。
露子はそんな彰に半ば呆れ果てるのだった。
そして数日後、長兵衛は事故死した。
露子はマンションの権利をもらいうけ、一躍金持ちになった。
彰が金のことでやくざに殺されたあと、露子は河内に着飾って帰って来た。
だが母のきく、妹の仙子(伊藤るり子)が良厳坊と寝る仲なのを知った露子は、良巌坊を呼び出し、詰問する間、良巌坊は足をすべらして谷底に落ちた。
家のゴタゴタを片づけた露子は、再び都へと飛び出していった。
コメント:
原作は、1965年に刊行された今東光の同名小説である。
映画は、野川由美子のヒロインぶりがきらきらしている元気の出る作品になっている。
この人は、1944年に京都市で生まれた。
1961年に、ミス着物コンクールで準ミスとなり、1963年にはNET(現在のテレ朝)の『孤独の賭け』で俳優デビューし、1964年には『肉体の門』で映画デビューして、その2年後に主演した作品がこれだ。
田舎で不良たちに純潔を汚され、大阪に出てきたヒロイン(野川由美子)の波乱万丈の人生を描いた風変わりなサクセスストーリーだ。
冒頭で一輪のバラの花をくわえ自転車で山道を走るヒロインの姿が登場、エンディングでは同様にバラを口にした彼女が東京の雑踏で満面の笑みを浮かべている。
カルメンという名前やバラの花は、情熱的な女性を連想させるアイテムとして実に効果的であった。
ヒロインはつくづく男運に見放されていた。
飲んだくれの父親は母親の浮気にもヒロインにも無関心、
温泉堀りに夢中の初恋のボンボンは暴力団に殺され、金持ちのパトロンは飛行機事故で亡くなる。
キャバレーの踊り子になったヒロインにのぼせた中年サラリーマン(佐野浅夫)は気のいい優男だが、芸術家で友人の男(川地民雄)同様に物足りないままであった。
本作は、様々な男と巡り会い、別れを繰り返すことで逞しさを増していくヒロインのバイタリティに最大の魅力が感じられた。
ヒロインの妹が母親公認で母親の元愛人と関係をもつエピソードは、どこか今村昌平作品のようなドロドロした欲望を感じさせる。
この作品は、どう見ても、これは今東光の身近に起こった事件の顛末を小説にしたものだと思えてならない。
もちろん、ワル和尚・良巌坊が今東光だろう。
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