「熊座の淡き星影」
(原題: Vaghe stelle dell'orsa)
1965年9月16日公開。
ギリシャ悲劇のエレクトラの物語をイタリアに置き換えたミステリアスなドラマ。
巨匠ルキーノ・ヴィスコンティの中期を彩る家族劇。
第26回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞。
脚本:ルキノ・ヴィスコンティ、スーゾ・チェッキ・ダミーコ、エンリコ・メディオーリ
監督:ルキノ・ヴィスコンティ
キャスト:
- サンドラ・ドーソン:クラウディア・カルディナーレ
- ジャンニ・ワルト=ルッツァッティ:ジャン・ソレル
- アンドリュー・ドーソン:マイケル・クレイグ
- アントニオ・ジラルディーニ:レンツォ・リッチ
- コリンナ・ジラルディーニ:マリー・ベル
- フォスカ:アマリア・トロイアーニ
- ピエトロ・フォルマーリ:フレッド・ウィリアムズ
あらすじ:
サンドラ(クラウディア・カルディナーレ)と夫のアンドリュー(マイケル・クレイグ)はジュネーヴからニューヨークへ向かう前にサンドラの故郷ヴォルテッラに立ち寄る。
ナチスの強制収容所で非業の死を遂げたユダヤ人科学者の父を記念して像をつくり、家の庭を市に寄贈して除幕式が行われる予定なのである。
そこへサンドラの弟のジャンニ(ジャン・ソレル)が現れ、2人は姉弟とは思えないほど親密な抱擁を交わす。
ジャンニは少年時代を題材にした自伝的小説を出版することを告げ、2人の過去に何かあったらしいことをアンドリューに仄めかすが、はっきりとは言わない。
かつてはピアニストで今は精神を病む母親(マリー・ベル)と再婚相手のジラルディーニ(レンツォ・リッチ)は、姉弟が子どもの頃から姉弟と憎しみあっていた。
サンドラは、実父がアウシュビッツに送られて死に至ったのは、母親とジラルディーニの密告によるものだと信じていたのだ。
アンドリューは和解のためにジラルディーニを夕食に招待したが、口論になってしまい、激怒したジラルディーニは、姉弟の近親相姦を仄めかしてしまう。
アンドリューはショックのあまりジャンニを殴り、一人でニューヨークに旅立ってサンドラの気持ちを試す。
ジャンニは出版する予定だった小説「熊座の淡き星影」を燃やしてしまい、サンドラを激しく求めたが、彼女は拒否して夫のもとに出発することを決意する。
除幕式が始まり、母親の主治医ピエトロとメイドのフォスカがジャンニを呼びにいくと、彼はすでに薬を飲んで息絶えていた。
コメント:
ルキーノ・ヴィスコンティ監督の代表作のひとつ。
原題の「Vaghe stelle dell'orsa」は、「大熊座の星々のきらめき」という意味。
日本語タイトルにある「熊座」は誤りである。
「熊座」という星座はありえない。
近親相姦的な雰囲気が全編を包む不思議な作品。
クラウディア・カルディナーレが野性味あふれる肉感で、圧倒的な存在感を示している。
彼女の化粧は、まるで舞台劇を思わせる。
古代エトルリア文明の痕跡を色濃く残す中部トスカーナ地方のヴォルテッラを舞台に、呪われた一家の忌まわしい過去をサスペンスタッチで描いている。
(古代都市があったヴォルテッラの現在の風景)
古代ギリシアの三大悲劇詩人の一人・ソポクレスのギリシア悲劇『エレクトラ』を下敷きにしているという。
ギリシャ悲劇「エレクトラ」とは、トロイア戦争後のアルゴスの街を舞台とし、エレクトラとその弟オレステースが、母であるクリュタイムネーストラーと継父アイギストスに対して父アガメムノーン殺害の復讐を果たす物語である。
タイトルは、19世紀のイタリアの詩人・ジャコモ・レオパルディの『追憶』から引用された詩句だという。
テーマのピアノ曲はセザール・フランクの『前奏曲、コラールとフーガ』。
エトルリアとは、紀元前8世紀から紀元前1世紀ごろにイタリア半島中部にあった都市国家群のこと。
各都市国家は宗教・言語などの面で共通点があり、統一国家を形成することはなかったものの、12都市連盟と呼ばれるゆるやかな連合を形成し、祭祀・軍事で協力することもあった。
古代ギリシアとは異なる独自の文化をもっていたとされる。
当時としては高い建築技術をもち、その技術は都市国家ローマの建設にも活かされたという。
王政ローマの7人の王の最後の3人はエトルリア系である。
鉄を輸出し古代ギリシアの国家と貿易を行っていた。
紀元前5世紀からカンパニア地方の原住民の自立とサムニウム人の侵入、ポー川流域からはガリア人の侵入を受けて勢力圏を縮小すると、更に紀元前396年に共和政ローマの攻撃により主要都市ウェイイが陥落、
その後150年かけてエトルリアの諸都市はローマの支配下に入り、紀元前91年からの同盟市戦争によってローマ市民権を得た。
許しを得るには過去から学べ、というメッセージを姉弟の禁断の愛に封じ込めたミステリアスな物語に引き込まれる。
そして、モノクロームの濃淡豊かな瑞々しい映像美が光るヴィスコンティ監督の耽美的な語り口に魅せられる。
とにかく、そんな物語や語り口よりも、この映画でやはり目を引くのは妖艶な魅力を漂わすC・カルディナーレだ。
ヴィスコンティ作品と言うよりは、カルディナーレの映画と言ったほうがよりシックリくる禍々しい人間ドラマである。
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