「血ぬられた墓標」
(原題:La maschera del demonio、英語タイトル:Black Sunday)
1960年8月11日公開。
イタリアンホラー映画の代表的作品。
原作:ニコライ・ゴーゴリ
脚本:エンニオ・デ・コンチーニ、マリオ・バーヴァ、マルチェロ・コスチア、マリオ・セランドレイ
監督:マリオ・バーヴァ
キャスト:
- アーサ・ヴァイダ/カティア・ヴァイダ:バーバラ・スティール(二役)
- アンドレイ・ゴロベック:ジョン・リチャードソン
- ヴァイダ:イヴォ・ガラーニ
- クルヴァヤン医師:アンドレア・ケッキ
- ヤヴティッチ公:アルトゥーロ・ドミニチ
あらすじ:
17世紀。
バルカン地方の某国の王女アーサ(バーバラ・スティール)は、魔術を行なったかどで処刑されたが、その際に実兄の王をはじめとする一族に永劫の呪いをかけてやるという恐ろしい言葉を遺した。
それから約200年後。
医師のクルヴァヤン(アンドレア・ケッキ)とその助手ゴロベック(ジョン・リチャードソン)は医学会に出席するため馬車でモスクワに向かっていたが、道中で車輪が外れるアクシデントに見舞われ、立ち往生する。
修理を待っていた2人は、何やら狼の鳴き声のような音に誘われて、その奥にある古びた館の中へ入っていく。
2人はそこで石棺を発見、中を見ると生きているかのような美しい美女が横たわっている。
その時、突然大きなコウモリが飛び出してきた。
驚いたクルヴァヤンは思わずピストルを発砲する。
その拍子に棺の上の十字架が倒れて棺ののぞき窓が割れ、クルヴァヤンは手を負傷し、その血が棺の中の美女の唇に滴り落ちる。その瞬間、棺の中の美女が甦った。
その美女こそ、200年前に処刑されたアーサであった。
急いで逃げようとした2人は、屋敷の入口でアーサにそっくりの美女と出会う。
彼女はアーサの曽孫でカティア(バーバラ・スティール)と名乗る。
アーサの死霊はカティアになりすまし、自分を処刑させた一族に次々と復讐していく。
ゴロベックはカティアをアーサの魔手から助け出そうと立ち向かう。
コメント:
これは、世にも恐ろしいイタリアのホラー映画だ。
若い医者(ジョン・リチャードソン)が、王家の血筋の娘・カティア(バーバラ・スティール)に恋をする……という物語に200年前の吸血鬼の呪いを絡めたドラマとなっており、とても怖くて楽しい作品である。
原題の「La maschera del demonio」とは、「悪魔のマスク」という意味。
英語のタイトルは「Black Sunday」となっている。
カティアと200年前に処刑された女性・アーサの二役を演じたバーバラ・スティールが、とても綺麗だ。
1960年代のイタリア・ゴシック・ホラー映画の絶叫クイーンとして知られる。
だがこの人は、イギリス出身の女優で、アメリカ、カナダ、ドイツなど世界中のホラー作品に出演している。
映画は冒頭、17世紀の吸血鬼狩りで捕まった男女が、顔に「悪魔の鉄仮面」を打ち付けられて処刑されるシーンで始まる。
この鉄仮面が、仮面の内側に針が多数あるので、仮面を顔に付けるだけで多くの釘が顔に向く作りになっているが、これをハンマーで顔に打ち付けられて殺されるあたりは「とっても痛そう…」である。
そして200年後、馬車に乗った医者二人が呪われた屋敷に向かう。
その屋敷では過去処刑された悪魔の呪いがあるのだが……といって、医者二人は事件に巻き込まれていく。
「カクテルに浮かび上がる鉄仮面」、「墓の中のドクロの顔に、白目が浮き上がる」など名場面が多数あるだけでなく、物語も「先祖の呪い」・「秘密の通路」・「突然迎える死」・「200年経っても吸血鬼は十字架が苦手」など内容盛りだくさんで、名場面と楽しい物語展開が楽しめる。
見応えのある傑作だ。
監督のマリオ・バーヴァは、イタリア・ホラー映画黄金時代を築いた1人として知られている。
本作は、イタリア・ゴシック・ホラー映画の初期作品として名高い。
この映画はバーバラ・スティールを一躍スターにしたばかりでなく、白黒フィルムの光と影の使い方で高い評価を受けた。
続く『ブラック・サバス 恐怖!三つの顔』(1963年)、『白い肌に狂う鞭』(1963年)ではカラー映画での高い評価を得た。
バーヴァ作品は後の映画に大きな影響を与えたとされる。
たとえば、『知りすぎた少女』(1963年)はイタリア・ジャッロ映画の最初の1本と呼ばれ、SFホラー『バンパイアの惑星(恐怖の怪奇惑星)』(1965年)は『エイリアン』(1979年)に大きな影響を与えたと言われている。
ハリウッドでは漫画を原作にした子供向けのシリーズものが作られたが、バーヴァは『黄金の眼』(1968年)で、漫画原作でも大人向けの映画が作れる可能性を示した。
これまで男女の色恋か戦争ものが殆どだったイタリア映画界で初めて「ホラー」という新しいジャンルが誕生した画期的な作品である。
とにかく存在感では世界トップクラスのイタリアならではの、突出した恐怖映画になっている。
「ネオ・レアリズモ」という分野の真逆ともいえる作品で、恐怖の歴史を感じさせる。
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