「ダブル・クラッチ」
1978年4月29日公開。
姉の敵討ちを演じる郷ひろみを描く異色作。
今は死語になった「ダブル・クラッチ」。
原作:五木寛之
脚本:ジェームス三木
監督:山根成之
キャスト:
- 早田彰彦 - 郷ひろみ
- 早田真紀 - 松坂慶子
- 平岩和子 - 森下愛子
- 木島巧 - 地井武男
- 細井 - 河原崎長一郎
- モモ子 - 一氏ゆかり
- パブのマスター - 木村元
- 竹下 - 青木卓司
- 試験官 - 吉田豊明
あらすじ:
早田彰彦(郷ひろみ)は、昼は鉄道の売店の売り子、夜はキャバレーに勤務する姉・真紀(松坂慶子)と二人暮しであった。
彰彦は姉から小遣いをせびっては、毎日パチンコ屋に入りびたっている。
真紀には、高校時代の恩師で木島(地井武男)という恋人がいた。
木島の援助で真紀と彰彦はスナックを開店する。
だが、店で真紀がチンピラにからまれるのを見た彰彦は、派手に相手を殴ってしまう。
意気消沈する彰彦を木島は信州へのドライブに誘った。
快適なドライブは続き、いつしか彰彦と木島は打ち溶けていく。
信州から帰ると、木島は夜明け前の埋立地で、彰彦に車の運転技術を教える。
教習所では乱暴な運転のため、なかなか免許を取得できなかった彰彦も、木島の指導のかいがあって免許を手にする事ができた。早速、彼は教習所で知り合った和子(森下愛子)を乗せ、ドライブする。
和子は、木島と自分の姉が結婚していることを彰彦に話す。
ドライブから帰った彰彦は、和子から聞いた事を真紀に話すが、真紀は意外にもその事実を知っており、さらに彼の子供を宿していると、彰彦に告白するのだった。
数日後、木島と甲府に旅に出た真紀は流産し、危篤状態となった挙句、死んでしまう。
連絡を受けた彰彦は医者から、木島が車でひどい山道を走ったのが流産の原因であると聞かされ、激怒する。
彰彦が血相を変えて怒る姿を見て、木島は車で逃げ出す。
甲州街道を舞台に、姉の命を奪おうとした男への復讐に燃える彰彦は、壮烈な闘いを挑もうとしていた。
真紀のおもかげを胸に、木島に立ちむかう彰彦は車のエンジンを始動させた。
コメント:
原作は五木寛之の同名短編小説である。(「オール讀物」1970年1月号所収)
苛酷な労働にたえながら、親代りになって優しく育ててくれた姉を殺された青年が、犯人に復讐する姿を描いている。
タイトルの「ダブル・クラッチ」とは何か。
「DCT(デュアルクラッチトランスミッション)の別名?」と思うかもしれないが、これは古典的なドライビングテクニックのひとつ。
ダブルクラッチとは、昭和のカーマニアに人気のあったテクニックだ。
シフトチェンジの際、クラッチを切り、シフトレバーをニュートラルの位置に動かし、そこでいったんクラッチをつないでアクセルをひと吹かしして回転を合わせ、それから再度クラッチを踏んで、ギヤを入れ、クラッチをつなぐ作業のこと。
オートマが当たり前になった現代ではもう死語になっているが、ギヤチェンジが通常だった昭和の時代では、この言葉はカーマニアには気分の良いテクニック・ワードだったのだ。
一気にギヤを上げて、ターゲットに迫る時には使いたい技なのだ。
主人公・彰彦と姉の真紀との強い兄弟愛を描いている。
真紀の恋人・木島は、彼女の子供を堕ろすために、薬で眠らせ、オフロードを走ったのだ。
そのために真紀は死んでしまう。
彰彦は姉の仇をとるために、逃げる木島を追いかけ、崖から落としてしまう。
地井武男が、優しい高校の先生といういやに良い役をやっていると思いきや、なんと不倫をしていて子まで孕ませるという不良先生だった。
彼の描き方も徹底していて本当に悪い奴なのかそれともいい先生なのか分かりにくくしてある。
地井もうまく演じている。
郷ひろみは主役だが、キャンキャンわめくばかりで芯がない。
映画としては、主人公のキャラクターの役不足で大コケとなっている。
この映画のクライマックスシーンはこちら:
だが、この作品は、アイドル映画ではない。
当時22歳だった郷ひろみは、アイドル歌手として人気抜群ではあったが、このまま可愛いアイドルのままでは将来に不安があると、さまざまな新たなキャラクターに挑戦し始めていた。
映画もその一つだ。
本作ではまだぎこちなさがあるが、努力の甲斐あって、本作の7年後に公開された「聖女伝説」(1985年)では、岩下志麻を相手に、見事なまでに残酷で冷淡なピカレスクの権化の役をこなしている。
この作品に到るまでの郷ひろみの影の努力に拍手を送りたい。
聖女伝説のレビュー記事はこちら: