菊田一夫の戦後初の大ヒット作といえば、知る人ぞ知る「鐘の鳴る丘」である。
1947年(昭和22年)7月から1950年(昭和25年)12月までNHKラジオで放送。
初年は毎週土曜日と日曜日の午後5時15分から15分間の放送だったが、翌年からは月曜日から金曜日の連日放送へと変更された。
NHKのラジオドラマで一世風靡し、映画化作品も3作公開された。
それは、以下の3作品である:
鐘の鳴る丘 㐧一篇 隆太の巻(1948年(昭和23年)11月23日公開)
鐘の鳴る丘 㐧二篇 修吉の巻(1949年(昭和24年)1月25日公開)
鐘の鳴る丘 㐧三篇 クロの巻(1949年(昭和24年)11月17日公開)
まずは、第一編からレビューしたい。
「鐘の鳴る丘 㐧一篇 隆太の巻」
1948年(昭和23年)11月23日公開。
菊田一夫の名前を日本中に知らしめた大ヒット作品。
原作:菊田一夫
脚本:斎藤良輔
監督:佐々木啓祐
キャスト:
- 加賀見修平:佐田啓二
- 加賀見修吉:本尾正幸
- 加賀見勘造:井上正夫
- 加賀見かね:英百合子
- 秦野由利枝:高杉妙子
- 秦野豊:菅井一郎
- 秦野芳枝:平野郁子
- 泉沢万次:山口勇
- 隆太:野坂頼明
- 俊二:前田正二
- 留男:芝田幸雄、松岡正憲
- 謙一:小野寺薫
- みどり:伊藤和子
- 桂一:鈴木豊明
- 俊春:徳大寺伸
- 源吉:山路義人
- しの:飯田蝶子
- 昌夫:江原達怡
- 立花:笠智衆
あらすじ:
終戦直後。
東京にはいたるところに浮浪児がいた。
昭和二十一年の夏も終わるころ、復員姿の青年・賀々見修平(佐田啓二)は、弟の修吉を尋ねて新橋駅にたたずんでいた。
父も母も亡い兄弟二人は、信州の伯父にあたる賀々見勘造の家に引き取られたが、兄・修平がやがて戦地に征った後、弟の修(吉本尾正幸)はどうしてもなじむことが出来ず、ついに伯父、伯母との折合も悪くなって、罪ならざる罪を着せられ、感化院に入る身となってしまった。
間もなく終戦となって、兄・修平は忘れ得ぬ弟・修吉を感化院に訪れたが、弟の姿は見えなかった。
脱走したというのだ。
もしや修吉はこの浮浪児の中にいるのではないかと尋ねるが、修吉ならず隆太(野坂頼明)という名前の少年が彼のふところに飛び込んできた。
修平は、隆太に弟のおもかげを抱きながら、何とかこの浮浪児を救わねばならぬと救済方法を決心する。
社会の経済的な圧迫、周囲の人々の冷たさ、等が彼の誠実な努力をさまたげる。
だが可愛い子供たちは、修平の偽りのない心に次第に親しみ、なついて来た。
修平は信州に浮浪児たちの家を作ることを彼らに話し、隆太に協力を願う。
一方、修平の弟・修吉は、感化院を抜け出しては見たものの、暖かい愛情の家もなく浮浪児の仲間にいつのまにか入っていた。
修吉は兄に会いたい気持ちが日増しにつのり汽車に乗るが、信州行きではなかった。
汽車から飛び降りて足をけがした修吉だが、身も知らぬ人(笠智衆)に助けられていた。
その人・立花は強盗ではあったが、親身になって修吉を悟してくれた。
やがて東京に帰った修吉だったが・・・。
コメント:
「鐘の鳴る丘」とは、子供たちの共同生活の施設が丘の上にあり、とがった屋根の時計台に鐘を備えているというドラマの設定によるタイトルである。
空襲により家も親も失った戦災孤児たちが街にあふれていた時代に、復員してきた主人公が孤児たちと知り合い、やがて信州の山里で共同生活を始め、明るく強く生きていくさまを描く。
日本全体が苦しかった時代、大人子供を問わず多くの人の共感を呼び、大ヒットとなった。
戦後の混乱期。生き別れの兄弟のすれ違い譚である。
1948年頃の銀座の様子が写っている。
修平(佐田啓二)が隆太(野坂頼明)を捕まえたのは外濠川の山下橋。
修吉(本尾正幸)が靴磨きしていたのは三原橋のたもと。
三十間堀川は埋め立て工事中だった。
作られた時代が時代だけに、登場している役者たちも全員若い。
主役を演じている佐田啓二は、痩せた甘いマスクで、いかにも子供たち思いで優しそうな青年を好演している。
その主役を助ける婆や役の飯田蝶子も、「若大将シリーズ」の頃に比べるとはるかに若い。
当時はまだ、老婆と言う感じではないが、入れ歯を外して老け役を演じているように見える。
叔父の家の長男役を演じているのは、何と江原達怡らしいが、まだ、小学生くらいの子役であり、全く気づかなかった。
分からないと言えば、殺人強盗犯の立花を演じているおじさんも、最初は誰だか分からないが、しゃべり始めると、笠智衆だと気づく。
信州の山里の丘の上に作られる施設のモデルとなっているのが、有明高原寮(ありあけこうげんりょう)。
これは、長野県安曇野市に所在する法務省東京矯正管区所属の男子少年院だという。
開放的施設における処遇を旨とし、犯罪少年の短期処遇を目的とした。
主題歌「とんがり帽子」(作詞:菊田一夫、作曲:古関裕而、歌:川田正子、ゆりかご会)も広く歌われ、1948年(昭和23年)の選抜高校野球の入場行進曲にもなった。
歌の題名は「とんがり帽子」だが、ドラマの名前から「鐘の鳴る丘」と呼ばれることも多い。
作曲家の古関裕而は、NHK朝ドラ「エール」の主人公のモデルである。
(菊田一夫と古関裕而)
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