日本の文芸映画 泉鏡花 「瀧の白糸(1933)」 泉鏡花の小説を映画化した初期作品! | 人生・嵐も晴れもあり!

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「瀧の白糸(1933)」

 

滝の白糸 溝口健二監督 入江たか子 岡田時彦 村田宏寿 菅井一郎 見明凡太朗 浦辺粂子 1933年制作 - YouTube

 

「瀧の白糸(1933)」 全編

 

キネマ旬報ベスト・テン日本映画第2位。

当時大人気となったメロドラマ。

 

原作:泉鏡花「義血侠血」

脚本:東坊城恭長、 増田真二 

監督:溝口健二 

 

キャスト:

  • 入江たか子:瀧の白糸=水島友
  • 岡田時彦:村越欣彌
  • 村田宏寿:南京出刃打
  • 菅井一郎:岩淵剛蔵
  • 見明凡太郎:新蔵
  • 滝鈴子:撫子
  • 浦辺粂子:お銀

 

瀧の白糸(1933) 作品詳細 | シネマNAVI

 

あらすじ:

瀧の白糸は北陸一帯を巡業する見世物師の中でも、一際優れた水芸の大夫(たゆう)だった。

或年の初夏、金沢での興行の折、白糸は、馬車会社の馭者しているが、志堅く高い理想を持った青年・欣彌(きんや)と知り合い、恋を語るようになった。

そして彼を立派に仕上げるために東京に送り、興行から得る金を仕送って法律を勉強させた。

欣彌を想う情の厚いように、欣彌のために白糸は金を大切にしなければならなかった。

だが一座の若者・新蔵と南京出刃打の看板娘・撫子との儚い恋を見ては、欣彌に送る金さえ投げ出す侠気の白糸だった。

撫子を苦しめていた親方の南京はこのことから白糸を憎むようになり、やがて秋が来て白糸が欣彌に仕送る金に窮し、高利貸岩淵から血の出るような思いで貰った金を、帰り道の暗闇に待ち伏せて強奪した。

金を奪われて昂奮した白糸は意識を失い、夢遊病者のように或る家に入り、己が意識を取り戻した時はその家の主人を殺していた。

愕然としたが、欣彌に送る金の事のみを考えて、その場に有った金を掴んで飛び出し、東京に奔った。

しかし求める欣彌は東京に居なかった。

白糸は犯した罪の恐ろしさに良心の呵責をうけ、両国橋から投身しようとしたが、若い男と馳落ちした南京の女房が通りかかり、白糸に生きよと励ました。

そして欣彌が今では立派になって金沢にいることを教え、なけなしの財布をはたいて白糸を金沢に旅立たせた。

その頃白糸の上には金沢での殺人事件容疑者として官憲の手が伸びていた。

白糸はせめて一度欣彌に逢うまでと、懸命に逃げ回ったが、遂に未決監につながれる身となった。

そして皮肉な運命は白糸を裁く検事として欣彌を起たせた。

恩愛と法律のジレンマに堕ちて欣彌は悩み苦しんだが、法は歪められず白糸に死刑を宣した。

その時白糸は舌をかみ切って覚悟の自殺を遂げた。

あまりの悲惨事に欣彌もまた白糸の後を追って死んで行った。

 

瀧の白糸』(1933年 日本) - カトリーヌの「朝1日1映画」

 

コメント:

 

名匠・溝口健二監督による、泉鏡花の小説「義血侠血」の映画化作品。

 

「義血侠血」の初出は、『読売新聞』1894年11月1日号-11月30日号。

 

1933年のこの映画が最初の作品かと思うと、さらに古い1915年の作品があるようだが、まぼろしと化している。

なので、視聴可能なものではこれが泉鏡花の最初の映画化作品となる。

1956年までに同名映画が6作品製作されている人気作なのだ。

 

サイレント映画。88分。

佐渡ヶ島、木曾街道等にロケーションされた。

第10回キネマ旬報ベスト・テン日本映画第2位。

5つプリントが現存するが、ラストシーンが欠落したものや、ラストシーンを含むものの欠落や傷が多いものなど、不完全なプリントしか残されていなかった。

このため、フィルムセンターにより欠落部分を補い、ラストシーンを修復したデジタルリマスター版が作成されている。

 

溝口メロドラマの極みである。

金沢での恋物語だ。

若い男女が知り合って、一人は「瀧の白糸」として活躍する芸人で、相手は苦労人、学問をして法曹界で身を立てようとする苦学生。

北陸・金沢の巡業先から東京の学生に仕送りをする。
今でいえば、「押しメン」へ金銭的な援助をする。

一人前になった時晴れて結ばれることを夢見て。

 

しかし、同じ芸人仲間の脱走、駆け落ちに援助する白糸。

金銭感覚がないというよりも、人情厚く、気風がいい座長であるがゆえの行動だ。

一座は冬枯れになり、金銭的に苦しくなる。

そこで、白糸は不本意ながら高利貸しから金を借りるも、仲間の男からその金を脅し取られるという悲劇に。

仲間と高利貸しがグルだとにらんで、もう一度高利貸しのもとへ行く。

もう一度弄ぼうと襲い掛かる高利貸し男。

正当防衛ではあるが、白糸はその男を刺してしまう。

そして、白糸は殺人犯に。

それから逃亡劇と相なる。

 

かつて助けた駆け落ち夫婦に助けられるも、一時しのぎで結局は捕まる。

その裁判が始まるが、東京から新任の検事がくる。

これが、自分が支援していた恋人・欣彌が偉くなった姿だった。
さて、法廷の行方はいかに、どんな裁きが待っているか。

金銭的にも精神的にも支援を受けた恩人の罪を新任検事はどう裁くのか。

いやぁ、メロドラマの極致。

無声映画の弁士の語りも激しさを増す。

二人の運命のラスト。

 

ヒロイン・白糸を演じた入江たか子は、貴族出身のお嬢さま。

東京市四谷区(現・新宿区)に生まれる。

子爵東坊城家(菅原氏)の出身。

父の東坊城徳長は子爵、貴族院議員。生母は北村キミで、徳長の庶子として生まれる。

1922年(大正11年)、その父が亡くなり生活に困窮するも文化学院中学部に入学。

油絵を習っていたが、関東大震災で家は半壊し、手放さなければならなくなった。

1927年(昭和2年)、文化学院を卒業後、日活京都撮影所の俳優で兄の東坊城恭長(後に監督・脚本家)を頼って京都に移る。

同年、兄の友人で「エラン・ヴィタール小劇場」の主宰者野淵昶に請われて女優として新劇の舞台に立つ。

それを観た内田吐夢の目に留まり、その勧めに従い同年、日活に入社。

同年、内田監督の『けちんぼ長者』で映画デビュー。

華族出の入江の突然の映画界デビューは、当時の世を騒然とさせた。

以後、村田実の『激流』、内田の『生ける人形』、溝口健二の『東京行進曲』などに主演し、たちまち日活現代劇人気ナンバー1女優の地位についた。

 

ヒロインの恋人・欣彌を演じているのは、岡田時彦。

美人女優の岡田茉莉子の実の父である。

戦前は人気俳優だったようだ。

戦前の多くの作品が残されておらず幻に消えた中で、よくも残っていたものだ。

本作冒頭にこのフィルムを守り抜いた人への賛辞が記されている。

まあ、それだけ人気作だったということだろう。

 

泉鏡花の原作「義血侠血」は、青空文庫に掲載されている。

中編小説なので少し長いが、興味ある方はこちらから:

 

 

 

金沢市の浅野川の梅ノ橋のすぐそばに、美人の水芸人・滝の白糸の銅像が建っているようだ。

 

瀧の白糸像

 

 

この映画は、今ならYouTubeで全編無料視聴可能。