日本の文芸映画 井上靖 「千利休 本覺坊遺文」 ヴェネツィア映画祭銀獅子賞受賞!  | 人生・嵐も晴れもあり!

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「千利休 本覺坊遺文」

 

 

1989年10月7日公開。

井上靖の小説『本覺坊遺文』の映画化。

萬屋錦之介の遺作。

ヴェネツィア映画祭銀獅子賞受賞作。

平成元年キネマ旬報ベストテン第3位。

 

井上靖:『本覺坊遺文』

脚本:依田義賢

監督:熊井啓

 

 

 

キャスト:

  • 本覚坊:奥田瑛二
  • 千利休:三船敏郎
  • 織田有楽斎:萬屋錦之介
  • 古田織部:加藤剛
  • 太閤秀吉:芦田伸介
  • 山上宗二:上條恒彦
  • 東陽坊:内藤武敏
  • 古渓:東野英治郎
  • 前田玄以:長塚美登
  • 織田信長:小林功
  • 松井佐渡:真実一路
  • 玉甫:小池栄
  • 徳川家康:熊田正春
  • 千宗旦:川野太郎
  • 大徳屋:牟田悌三
  • 大徳寺春屋和尚:有馬昌彦
  • 細川三斎:今井耕二
  • 石田三成:岩下浩

 

 

あらすじ:

千利休(三船敏郎)が太閤秀吉(芦田伸介)の命で自刃してから27年後、愛弟子だった本覺坊(奥田瑛二)は心の師と語らうのみの生活を送っていた。

ある日、本覺坊は、利休がなぜ秀吉の怒りを買って死んだのか、その理由を解明しようと情熱を傾ける織田有楽斎(萬屋錦之介)に会って感動を覚えた。

そして一年後、本覺坊は有楽斎に、利休の晩年山崎の妙喜庵で催された真夜中の茶会について話した。

客は秀吉と、後に小田原落城で秀吉に刃向かって切腹した山上宗二(上條恒彦)だったが、もう一人がわからなかった。

さらに一年後、有楽斎は残る客の一人は利休の弟子の古田織部(加藤剛)だと見抜いた。

織部も大坂夏の陣で豊臣方に内通したかどで、利休や山上宗二と共に自刃したが、実は三人とも死を誓い合っていた。

翌年有楽斎は体が弱り危篤となったが、なお利休の最期の心境を知りたがっていた。

本覺坊は夢にみた利休と秀吉の最期の茶事の光景を語り始めた。

秀吉は一時の感情で下した利休に対する切腹の命を取り消したが、利休は茶人として守らなければならない砦のために切腹すると言い切った。

本覺坊の話が利休の切腹に及ぼうとするところで、有楽斎はもうろうとした意識の中で刃を取って切腹したのだった。

 

 

コメント:

 

原作は、1981年11月に講談社より発刊された、 井上靖の「本覺坊遺文」である。

「千利休は何故死を賜ったのか?」が、この本のテーマ。
大徳寺の山門事件、法外な値段での茶器の売買問題、愛娘を側室として差し出すよう命じられたこと、秀吉の恩寵に甘えその限度を越えたこと、茶匠として力を持ちすぎた堺衆の代表として見られたこと、半島出兵に対する自重派と通じていたということ等々、賜死事件の原因は諸説あるが、どれも憶測にすぎず、今なお「謎」とされる。


利休は、何故何の申し開きもせず、命乞いもせず、切腹して果てたのか?
本作は、利休の弟子である三井寺の本覚坊が、師ゆかりの人々との対話を通し、「利休の死」を考えるフィクションだ。

 

井上靖の74歳の時の作品。

利休を描いた小説だが、正面から扱わず、本覚坊という半ばは架空に設定されたような弟子が遺した文書を通して利休の謎に迫るという手法をとっている。
しかもその文書をたまたま見出した著者が、適宜、手を入れ、読みやすくしたという恰好をとった。

全編が本覚坊の喋り言葉にもとづいた告白小説になっている。

 

そのため、複雑に輻湊する利休の周辺の出来事が、淡泊ではあるが、滋味深い味に仕上がった。

もはや日本桃山の謎を濃い味で綴る気にはなれなかったということなのだろうか。


本覚坊は実在していた。

天正16年と18年の茶会記に名前だけは見えている。

ただし、本覚坊の手記のようなものはいっさい遺ってはいない。

つまりはこの作品は井上靖の晩年の幻想が生んだ想像の時代記なのである。

 

 

千利休没後400年を記念してこの小説を熊井啓監督が映画化した作品が「千利休 本覺坊遺文」である。

 

利休の没後27年、利休のそばに仕えた本覺坊が織田有楽斎に請われて、秀吉に切腹を命じられた理由を解き明かそうとする。
歴史上の謎を解くことにより、戦国時代を生きた茶人と武将の死生感を丁寧に描いている。

 

女優が一切登場せず、合戦は馬の疾走する場面だけという構成や四季の自然を俯瞰で撮る映像美は、熊井監督が尊敬する黒澤明作品ではと思わせる程素晴らしい。


豪華キャストで同一画面に登場するシーンはないが、利休役の三船敏郎と有楽斎役の萬屋錦之助の存在感が画面を圧倒している。今では、あらゆる点でこんなに贅沢な時代劇は作れそうもない。

 

熊井啓監督による時代劇の傑作として知られる作品である。

千利休を三船敏郎が演じている。

その愛弟子の本覺坊を奥田瑛二が演じている。

そして、利休がなぜ秀吉の怒りを買って死んだのかを解明しようと情熱を傾ける織田有楽斎を萬屋錦之介が演じている。


春夏秋冬の季節をダイナミックに描きながら「茶の世界」の静謐さを描き、合戦シーンでも馬の疾走合戦が見られる。

 

 

 

 

線の細いイメージがあった従来の茶人像とは程遠い、三船敏郎の千利休や萬屋錦之介の織田有楽斎や上條恒彦の山上宗二など、武張った俳優陣のキャスティングに驚かされる。

時の権力者に正面切って対峙し、毅然と立ち向かうためには並々ならぬ気迫を漂わせ、一騎当千の強者にも引けの取らない堂々たる存在感が当時の茶人には必要だったのだろうと思うと、その重厚な配役にも大いに納得する次第。


特に、余命いくばくもない有楽斎の最後の姿を熱演する萬屋錦之介の姿はすさまじい。

これが、映画作品における、萬屋錦之介の最後となった映画である。

 

 

 

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