「肉体の悪魔」
(原題:Le Diable au corps)
1947年9月12日公開。
年上の女性との肉欲に溺れる青年を描いた作品。
原作:レイモン・ラディゲ
脚本:ジャン・オーランシュ、ピエール・ボスト
監督:クロード・オータン=ララ
キャスト:
- ジェラール・フィリップ:フランソワ・ジャベール(マルトに思いを寄せる17歳の青年)
- ミシュリーヌ・プレール:マルト・グランジェー(戦時下の臨時病院に勤める篤志看護師)
- ジャン・ララ:ジャック・ラコンブ(マルトの婚約者)
- ジャン・ドビュクール(ジャン・ヴァラス):エドァルド・ジャベール(フランソワの父)
- ジェルメーヌ・ルドワイヤン:(フランソワの母)
- ドゥニーズ・グレイ:マルトの母
- ジャック・タチ:バーの給仕
あらすじ:
第一次大戦も終りを告げようとしていた頃、パリ近郊のリセに通学するフランソワ・ジャベール青年(ジェラール・フィリップ)は学校に開設された臨時病院の見習看護婦マルト(ミシュリーヌ・プレール)と知り合った。
彼女は出征兵ラコンブ軍曹と婚約の間柄であったが、フランソワの強気な情熱に惹かれて動揺した。
しかしこの恋はフランソワの自制とマルトの母の牽制で中断され、フランソワが田舎へ逃避している間にマルトはラコンブと結婚した。
ところがその半年後、再び学校でめぐり合った二人の心は再び燃え上ってしまう。
フランソワは家人にかくれてマルトのアパートを訪れ、のっぴきならぬ関係が生れた。
恋を成就するため、すべてを戦線の夫に知らせようというフランソワと、それを肯じないマルトの意見が食違いながらも、二人は肉体の悪魔にひきずられつづけたが、この恋が戦争の終結と共に断ち切らなければならぬという想いは同じであった。
こうしてマルトは妊娠してしまった。
それがかくせなくなった時、ついにマルトは夫にすべてを任せる気になった。
フランソワには、それに抗う実力も勇気もなかった。
別れの宴を思い出のレストランで過した二人は、はじめてデートしたカフェに出かけ、そこで終戦を知った。
そのショックでマルトは倒れ、駆けつけた母によってフランソワは引き離されてしまった。
凱旋した夫に手をとられつつ、産褥のマルトはフラソソワの名を呼びつつ、恋の結晶を残して死んで行った。
コメント:
原作は、レイモン・ラディゲの処女作であり、一世風靡した同名の小説である。
タイトルは日本語、原題ともに同じ意味である。
年上女の肉体に溺れてしまう青年の姿を描いている。
だが、肉体の・・・というタイトル名から想像できるように、エロエロのアダルト映画、と言うのは、嘘だ。
異色のフランス人作家・レイモン・ラディゲの同名タイトル小説の映画化。
簡単に言ってしまえば、男子高校生と10歳以上も年上の人妻の不倫映画だが。
今となればストーリー性に大して意外性があるとも思えず、ありふれた不倫映画のように思える。
しかし、原作者であるレイモン・ラディゲは20歳で夭折し、しかも本作の小説が17歳の時に書かれた処女小説だったと知ると、そのみずみずしい感性には驚き、スキャンダラスなストーリー展開は恐ろしさを知らない若さを感じさせる。
第一次戦争末期において、パリ近郊のリセの高校に通うフランソワ(ジェラール・フィリップ)は、学校内に建てられた臨時病院に看護婦助手としてやってきたマルト(ミシュリーヌ・プレール)に一目惚れ。
フランソワはマルトをナンパしようとするのだが、マルトには現在のところ戦地へ出征しているラコンブ(ジャン・ララ)という婚約者がいた。
そんなことでは諦めがつかないフランソワはマルトに情熱的にアタックし、デートに引きずり出そうとする。
マルトもフランソワの行動は非常にはた迷惑に感じながらも、次第にフランソワの情熱と若さに惹かれてしまい約束のデート場所まで行く。
だが、マルトの母親の妨害、そしてフランソワ本人もいけない恋だと理解して、デートの待合場所へ向かうのを止め、彼女を忘れるために田舎へ逃避する。
半年後、偶然にもフランソワとマルトはまた出会ってしまう。
マルトは今ではラコンブ(ジャン・ララ)と結婚していた。
それでも2人はラコンブが出征していて帰ってこないことを良い事にして、マルトの部屋で愛し合う。
その恋愛も第一次世界大戦が終了するまでの期間限定だとお互いに覚悟するのだが、あろうことにマルトは妊娠してしまい・・・
この映画は、ジェラール・フィリップとミシュリーヌ・プレールのラブシーンが非常に美しいと、公開当時から超人気となった。
雨に濡れたフランソワを暖かく包み込むマルトを演じたミシュリーヌ・プレールが実に良い。
これだから年上の女性って良いんだよと言いたくなる。
露骨なラブシーンなど無くても充分に官能的で、愛し合っている2人を描きだしているのだ。
約束のデートの場所で1人で待っているマルトのシーンも非常に印象的だ。
このシーンがあるからこそ2人の恋愛が燃え上がる。
戦争の終わりが恋愛の終りというエンドは、哀愁を感じさせる。
戦争の終わりが希望の始まりにはならないというラストシーンは、淡い理想を抱いていた観る者の心を打ち砕くのだ。
17歳の少年の視点は大人達の厳しい現実の更に上を行く結末を用意していることに誰もが驚く。
フランスの映画の魅力はいろいろあるが、ひとつには、日本が男女差別や身分違いの悲しさといった暗いテーマの作品に明け暮れているのに対して、個人の欲望をおおらかに描く自由闊達な文化がしっかり根付いていて、その表現が常に先進的だったということだろう。
もうひとつは、男女の性愛に限らず、ゲイやレズといったLGBTの許容度も世界一であることは、フランスの自由・平等・博愛の精神の現れなのだ。
そして、俳優たちの魅力度も、ずば抜けているのが、フランスの映画界と特徴といえよう。
女優の美しさはフランスだけではないが、男優の美しさは、フランスがトップだろう。
驚くような展開ではないのだが、この映画の魅力は、何といっても主役を演じたジェラール・フィリップの魅力がハンパない。
この人は、カンヌ出身の超美男子。
1940年代後半から1950年代のフランス映画界で、二枚目スターとして活躍、1950年代のフランスの美としてその人気を不動のものとした。
この人の代表作は、『花咲ける騎士道』、『夜ごとの美女』、『しのび逢い』、『赤と黒』、『モンパルナスの灯』。
ちなみに、1940年代の美は、あのジャン・マレーであり、1960年代の美はアラン・ドロンである。
とにかく、20世紀のフランス映画のスターになった男優のカッコよさと美男子ぶりは、世界一のレベルにあったと言えるだろう。
フランス映画に興味がある人や、フランス文学に興味がある人にとって、この映画『肉体の悪魔』は絶対にお勧めだ。
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