「あした来る人」
1955年5月29日公開。
若い人たちへの期待を描く中間小説の映画化。
原作:井上靖「あした来る人」
脚本:菊島隆三
監督:川島 雄三
キャスト:
山村聰:梶大助
三橋達也:大貫克平
月丘夢路:八千代
新珠三千代:山名杏子
三國連太郎: 曾根二郎
小沢昭一:三沢
あらすじ:
実業家・梶大助(山村聰)のホテルへ彼の娘・八千代(月丘夢路)の紹介で、曾根二郎(三國連太郎)という青年がカジカの研究資金を出して貰うためにやって来た。
心よく迎え入れた梶だったが、決して金を出すとは云わなかった。
八千代は夫・大貫克平(三橋達也)に不満を持っていたが、その夜も遅くなって一匹の小犬をかかえて帰ってきた彼と冷い戦争をはじめ、八千代は大阪の実家へ戻ってしまった。
克平は八千代がいなくなってから、相棒の三沢(小沢昭一)やアルさんとカラコルム山脈征服の計画を実行しようとしていた。
ある日例の小犬を見ず知らずの女性が連れているのを見つけた。
なつかしさに近寄ると、それは洋裁店に働く杏子(新珠三千代)だった。
八千代は父の梶に叱られて東京に戻ってきたが、克平の登山計画をなじった。
梶の世話を受けていた杏子は、それが克平の義父とも知らず、克平と結婚したい旨打ち明けた。
だが、杏子が相手の名前を云わなかったため、梶も色々と杏子を励ますのであった。
克平は鹿島槍登山に出掛けたが、直後新聞がその遭難を伝えてきた。
早速杏子は遭難現場に急行したが、克平は無事で、思わず二人は抱き合った。
克平が帰宅したとき曾根が来ていた。
その後八千代が余りに曾根をほめるのと、遭難のことに冷淡であったため、克平も感情を害したが、八千代は杏子と彼の仲をすでに知ってのことであった。
曾根の取持ちも空しく、克平の心も最早八千代にはなかった。
その頃杏子は偶然八千代に会い、克平が梶の娘の夫であったことを知って悩んだ。
克平は遂に山の征服の雄途に乗り出すべく羽田を出発した。
結婚のことは最後まで云い出せなかった杏子だった。
コメント:
原作、脚本、演出、役者と一流が揃った名作である。
映画は、川島雄三の日活移籍後2作目の作品となった。
原作は、1955年3月27日~11月3日に朝日新聞に連載された井上靖の同名小説で、のちに筑摩書房から出版された。
登山に生きがいを見出だしている夫をもつ美貌の女性・八千代は、夫の心を得られない淋しさの中、カジカの研究に全精力を傾けている男に出会い、惹かれていく。
彼女の父親・梶は関西の大実業家であり、地位も名声も教養もある「昨日」の人である。
彼はデザイナーを志望する杏子という若い女性を援助している。
これら5人が、研究書の出版、登山のための資金調達、デザイナーへの夢等々、それぞれの夢の実現の努力の過程で、微妙な糸が繋がり始める。
明日の可能性を秘めた若い人たち4人を、昨日の人と絡ませながら、それぞれが背負っているものが「明日」を作っていく様が描かれた井上靖の新聞小説としての代表作。
仕事と、趣味と、男女のもつれが描かれている佳作であり、連載当時も面白いという声が多かったようだ。
実業家・梶大助(山村聰)の許へ、カジカ研究家の曾根(三國連太郎)が資金援助を頼みにやってくる。
列車の食堂車内で知り合った梶の娘・八千代(月丘夢路)の紹介なので会うが、梶はビジネスにならない援助はしない主義。
その代わり思お当たる筋を紹介する。
八千代の夫・克平(三橋達也)は、山登りに夢中で妻を蔑ろにする傾向があり、それを不満に思っている八千代は、飾らない人柄の曾根に好意を持った。
その夜も梶が勝手にかかえてきた子犬を切っ掛けに口論となり、夫婦仲は冷めきつている。
梶は杏子(新珠三千代)と云う娘(雑誌「VOGUE」を抱えるおしゃれな女性)に洋裁店を経営させ、面倒を見ていた。
杏子は梶に愛を告白するのだが、梶は彼女を娘のような気持ちで付き合っているのだと諭す。
すると杏子は、「自分は単なるアクセサリーだったのか」と傷つく。
その後彼女は、偶然知り合った克平と懇意になる。
克平は鹿島槍へ登山に出かけるが、夕刊に彼の遭難が報じられる。
心配した杏子は現地に向かったが、遭難は誤報で克平は無事だった。
二人は抱き合い唇を重ねる。
その後、克平と八千代の仲はさらに悪化を辿り、遂に離婚話が持ち上がる。
その話を聞いた曾根は留まるやうに説得するが、八千代の決意は固い。
その曾根は梶が紹介した藤川社長(小沢栄)が研究書出版の資金援助してくれる事になったが、ロシアの研究者と内容がバッティングしたようで取りやめる事に。
結局彼は八千代の遠回しな告白に困惑し、九州へ帰つてしまう。
克平は予てより計画していたカラコルム山脈征服に出発し、羽田へ見送る人の中には、八千代も杏子もいなかった......
豪華キャストが展開する恋愛模様。
誰一人として想いを成就する事無く終り、そんな若者たちを慮る山村聰の背中で幕は閉じる。
再び「完成された人間として」戻って来る事を期待して。
それが「あした来る人」なのだろうか。
従来の夫婦像、女性像から脱却しようとする女を月丘夢路に演じさせているが、当時の観客は感情移入出来たのだろうか。
何かと「わたしはイヤです」を連発するのが気になるが。
カジカ研究の三國連太郎が爽やかな若者を演じていて、儲け役になっている。
朴訥な青年ながら、カジカの話になると熱が入り止まるところを知らないのが可笑しい。
とにかくこの役者は若い頃からしっかりと役にはまり込んでいてすばらしい。
この映画は、明確な主演はいない感じだ。
だが、月丘、三橋、山村、三國、新珠の五人が織りなす人間模様を見るだけで堪能する作品といえる。
やはり、川島雄三という名匠の手にかかるとこんなに楽しい映像になるのだ。
本作は、月丘夢路が出演した日活移籍後1作目の映画である。
のちに月丘は、原作者の井上靖本人から「(小説を)書いてるうちに、また月丘さんみたいな人が出てきちゃったの」、と月丘のイメージで原作を書いたことを告白されたと語っている。
月丘夢路が井上靖の好みの女優だったようだ。
本作では、新珠美千代が若くて美しい。
当時25歳。
ヒロイン・月丘夢路の対局にいる若い女性の姿を華麗に演じている。
将来性を感じさせる存在感が印象に残る。
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