「天と地と」
1990年6月23日公開。
角川春樹が監督した大ヒット時代劇。
興行収入:92億円。
原作:海音寺潮五郎「天と地と」
脚本:鎌田敏夫、吉原勲、角川春樹
監督:角川春樹
キャスト:
- 上杉謙信 - 榎木孝明
- 武田信玄 - 津川雅彦
- 乃美 - 浅野温子
- 八重 - 財前直見
- 武田太郎義信 - 野村宏伸
- 武田典厩信繁 - 石田太郎
- 柿崎和泉守景家 - 伊藤敏八
- 直江大和守実綱 - 浜田晃
- 大熊備前守朝秀 - 成瀬正孝
- 北条丹後守高広 ‐ 南雲佑介
- 村上周防守義清 - 大林丈史
- 小島弥太郎 - 須藤正裕
- 高坂弾正 - 沖田浩之
- 飯富兵部少輔虎昌 - 室田日出男
- 山本勘介 - 夏八木勲
- 宇佐美定行 - 渡瀬恒彦
- 奈弥辰蔵 - 野崎海太郎
- 戸倉弥八郎 - 五島拓弥
- 初鹿野源五郎 ‐ 山田明郷
- 昭田常陸介 - 伊武雅刀
- 秋山源蔵 - 貞永敏
- 橘屋又三郎 - 大滝秀治
- 昭田常陸介の正室 - 風祭ゆき
- 帝よりの勅使 - 風間杜夫
- 侍女 - 岸田今日子
あらすじ:
天文十七年(一五四八年)。
時は戦国下克上、家臣が主人を倒し、内親同士で相争う乱世の只中、遠く都を離れた北国・越後でも新たな戦いが始まろうとしていた。
守護代の位にありながら政務をおざなりにした兄・長尾晴景を討つべく、弟・景虎(榎木孝明)が兵を挙げたのだ。
仏教、特に刀八毘沙門天を厚く信仰する景虎は、戦場では軍神の如き冷徹な攻撃ぶりをみせる一方、内心では血を分けた兄に弓をひいた事に対する後悔の念に捉われていた。
幼少時より景虎に仕えてきた軍師・宇佐美定行(渡瀬恒彦)は、その迷いを見抜き「乱世の運命からは遁れられぬ」と説くのだった。
ある日、景虎は宇佐美の娘であり幼なじみの乃美(浅野温子)と十年振りに再会する。
日々合戦にあけくれる景虎にとって、乃美とすごす時は安らぎであった。
乃美も景虎の身を案じて『龍』の文字の入った陣羽織を贈る。
互いに思慕の情が湧くが、乃美の嫁入りという運命がふたりを引き裂いていった。
同じ頃、険しい山々に囲まれた甲斐の国で上洛を果たさんと野望を胸に抱く武将がいた。
守護大名・武田晴信(津川雅彦)、後の信玄である。
息子の太郎義信(野村宏伸)、側室で女騎馬隊を率いる八重(財前直見)、軍師・山本勘介(夏八木勲)をはじめ屈強の家臣を持つ晴信は、着実に勢力を拡大していた。
肥沃な奥信濃は、土地のやせている甲州にとって是非とも手中に収めたい土地だった。
晴信は北上し攻撃を開始する。
追われた信濃の領主達は、隣国越後に失地回復を嘆願し、景虎との対決がそう遠くない事を予感していた。
景虎はかつての主であった長尾家を裏切り、武田軍の役立てで越後を侵略しようとした昭田常陸介(伊武雅刀)を倒すために兵を挙げる。
昭田妻子を捕慮として捉え、城を包囲し降伏を迫るが、昭田は景虎の使者を斬り捨て篭城する。
宇佐美は覚悟のほどを見せるために妻子を討てと進言するが、景虎は非情になり切れずにためらう。
いら立つ宇佐美が首をはね、昭田を陥落させたが、景虎の心には一国の主としての己のありかたに対する疑念が湧く。
毘沙堂で真言を唱えながら苦悩する景虎。
数日後、景虎は城を捨て、修行僧に姿を変え放浪の旅に出る。
後を追う家臣達と雪深い信濃峠で再会するが、偶然にも晴信一行に出くわす。
修行僧の姿で頭を下げる景虎たちのもとへ木の枝から落ちた雪の音に驚いた八重の馬が暴走し、杖で制しようとした景虎を成敗しようと斬りかかる太郎義信。
その刃から主人をかばい馬廻りの戸倉弥八郎が殺されてしまう。
武田側の無礼になすすべもなかった景虎は憤怒に震えながら、武田陣を討たんと決意するのだった。
早春の夜、琵琶島城の宇佐美を二人の男が訪ねてきた。
甲斐に走った大熊朝秀(成瀬正孝)と武田の名軍師・山本勘介だった。
こうした会談の場をもったこと自体が、すでに武田に款を通じた証拠と、強弁する勘介の気迫に宇佐美は圧倒されるのだった。
そのころ武田勢が甲府を進発したという報が春日山城に届いた。
こうして景虎は川中島で死守する態勢をとるのだった。
決戦の場、川中島で両雄はついに陣を構えた。景虎側と武田側とが激突し、乱戦を展開する。
景虎はそこで武田の士気を挫き、戦国武将として成長してゆくのだった。
無念の武田軍団が戦場を去って行く中、衝撃的な報が景虎の本陣に入った。
武田の間者が宇佐美の謀叛を示す書状を持って捕まったのだ。
心の隙を衝かれた宇佐美は自らの落ち度を認めて景虎と槍で果たし会い、討たれるのだった。
永禄四年秋、景虎は上杉謙信と改名し、晴信も武田信玄となった。
そして両者は再び川中島にて、鬼神のごとく激突するのだった。
コメント:
海音寺潮五郎原作の同名小説の映画化。
波乱万丈のキャスティングとなった作品である。
プロデューサーの角川春樹自らが監督を務め、上杉謙信役には1987年の大河ドラマ『独眼竜政宗』でブレイクし、当時最も期待されていた若手男優渡辺謙を抜擢、巨額の制作費を投入し、合戦シーンはカナダ・カルガリーで大規模ロケを行うなど、海外進出も見据えた文字通りの「大作」となるはずであった。
キャッチコピーの「この夏、赤と黒のエクスタシー」の通り、上杉軍を黒一色、武田軍を赤一色に統一し川中島の合戦を描アイデアが公開前から注目された。しかし、1989年のカルガリー・ロケ中に渡辺が急性骨髄性白血病に倒れ降板、角川が代役にと望んだという松田優作もドラマ『華麗なる追跡 THE CHASER』のスケジュールの都合を理由に起用できず(膀胱癌を患っていた松田は同年秋に死去)、緊急オーディションで榎木孝明を代役に立て、何とか撮影続行・公開に漕ぎつけた。
歴史で有名な川中島の戦いを描いた作品、
武田信玄の赤に対して上杉謙信の黒。
当時”赤と黒のエクスタシー”というキャッチコピーがついた角川映画の傑作である。
この頃の角川作品はとにかくスケールが大きく大画面のスクリーンで観たいと思わせてくれる。
戦いの部分はもちろんラストの謙信の黒の軍団が信玄の赤の軍団の真ん中を割って進軍していくシーンは鳥肌ものだ。
渡瀬恒彦は、上杉謙信の軍師だった宇佐美定行を演じている。
だが、武田信玄との総力戦の前に。武田方に寝返ったという噂が起こり、そのために謙信に打たれて命を失ってしまう。
若い頃から、さまざまな役柄を演じながらも、途中で死んでしまう悲劇の若者を演じ続けていた渡瀬だが、この作品でも同じ運命だ。
残念だが、こういう日陰者の姿を演じる渡瀬恒彦には哀愁を秘めたその横顔が似合う。
この映画は、今ならYouTubeで全編無料視聴可能。