中村吉右衛門最大のヒット作品と言えば、「鬼平犯科帳」。
フジテレビでの長期シリーズとなった、池波正太郎原作の同名小説の時代劇である。
火付盗賊改方長官・長谷川平蔵を主人公とする捕物帳で、あらゆる難事件を鬼の平蔵こと長谷川平蔵を中心に火付盗賊改方の役人と密偵たちが解決していくというものである。
吉右衛門の実父である八世松本幸四郎の当たり役であり、父子二代で演じ継がれることとなった 。
第1シリーズから第8シリーズまでフジテレビで毎週水曜20:00 - 20:54に放送。
第9シリーズは毎週火曜19:59 - 20:54に放送。
同シリーズを最後にレギュラー放送は終了。
1989年(平成元年)から13年間の第9シリーズまでで、全138話放送。
その後、スペシャルドラマが2005年から2016年まで、『金曜エンタテイメント』→『金曜プレステージ』→『赤と黒のゲキジョー』→『金曜プレミアム』→『土曜プレミアム』で定期的に放送されて、2016年12月2日、3日に前後編2本で放送の『鬼平犯科帳スペシャル』をもってシリーズ終了となった。
テレビドラマシリーズとして、総計150本となった。
映画でも、1995年に「鬼平犯科帳 劇場版」が公開された。
この作品の時代背景と場所を、まず確認しておこう:
主人公は、長谷川平蔵という、江戸幕府の役人・火付盗賊改方長官である。
長谷川宣以(はせがわのぶため)という名前の実在の人物がモデルになっている。
火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)の長である火付盗賊改役を勤めたというのも実話だ。
長谷川宣以は、延享2年(1745年)、400石の旗本である長谷川宣雄の長男として、江戸赤坂築地中之町(現・東京都港区赤坂6-12)の拝領屋敷で生誕。
寛永3年(1764年)に鐵砲洲築地湊町に移り、さらに明和元年(1764年)に本所三ツ目通り菊川町に移った。
幼名は銕三郎(てつさぶろう/銕は鉄の旧字)、あるいは銕次郎(てつじろう)で、「本所の銕(ほんじょのてつ)」と恐れられたというのも記録にある実話だという。
明和5年(1768年)12月5日、23歳の時に江戸幕府10代将軍・徳川家治に御目見している。
父・長谷川宣雄は火付盗賊改役の時、目黒行人坂の放火犯を捕らえるなど活躍し、京の西町奉行へと栄転したが、わずか10ヶ月で急逝。
長谷川宣以は江戸に戻り、安永3年(1774年)、31歳で江戸城西の丸御書院番士(将軍世子の警護役)に任ぜられたのを振り出しに、出世街道を歩む。
そして、天明7年(1787年)9月9日、42歳で火付盗賊改役に就任したのであった。
長谷川宣以(はせがわのぶため)は、家督を相続してからは、長谷川平蔵と名乗っていたという。
その菩提寺が四谷寺町の戒行寺。
境内に長谷川平蔵供養碑が立っている。
さて、小説の上でも、物語が進んでゆく。
長谷川平蔵が火付盗賊改方長官であったのは、1787年(天明7年)から1795年(寛政7年)まで。
1783年(天明3年)の浅間山大噴火や折からの大飢饉による農作物の不作により、インフレが起こる。
各地で打ち壊しが頻発し、世情は酷く不穏であった。
田沼意次の失脚(1786年(天明6年))を受けて1787年(天明7年)に松平定信が老中に就任。
寛政の改革が始まったが、このような経済不安から犯罪も増加し、凶悪化していった。
長谷川平蔵が火付盗賊改の長官となったのは同年10月であった。
長谷川平蔵が住んでいた火付盗賊改方の役宅(今で言う官舎)があったのは、現在の千代田区役所・九段第3合同庁舎ビルが立つ場所で、現在の住所は、千代田区九段南1あたりのようだ。
皇居北の清水門から望めるため、小説では「清水門外の役宅」と呼ばれ、物語の主舞台となっている。
(皇居北の清水門)
そして、この人気シリーズにはたくさんのキャストが登場している。
長期シリーズの中核となったレギュラー出演者は以下の通り:
火付盗賊改方(主人公)
- 長谷川平蔵:二代目中村吉右衛門
- 与力
- 佐嶋忠介:高橋悦史(第1シリーズ〜第6シリーズ、劇場版、以後代役なし)
- 天野甚造:御木本伸介(第1シリーズ〜第6シリーズ、劇場版、以後代役なし/萬屋版でも同じ役を務めている)
- 小林金弥:三代目中村歌昇(現・三代目中村又五郎)(第7シリーズ〜)
- 同心
- 酒井祐助:篠田三郎(第1シリーズ)→柴俊夫(第2シリーズ第2話から登場)→勝野洋(第3シリーズ〜)
- 木村忠吾:尾美としのり
- 小柳安五郎:香川照之(第1シリーズ〜第2シリーズ)→谷口高史(スペシャル版 『雨引の文五郎』〜)
- 沢田小平次:真田健一郎(第1シリーズ〜スペシャル版 『引き込み女』、以後代役なし)
- 山田市太郎:小野田真之(三ツ矢真之→辻政宏と改名)
- 竹内孫四郎:中村吉三郎
- 山崎国之進:中村吉次(現・二代目中村吉五郎)
- 村松忠之進:沼田爆(第1シリーズ第3話から登場、劇場版には未出演)
- 松永弥四郎:宮川不二夫(不破三四郎→不破龍彦と改名)(第2シリーズ〜)
- 原田一之進:木村栄(第5シリーズ〜)
- 三井忠次郎:中村吉之助(現・三代目中村吉之丞)(第7シリーズ〜)
- 同心:中村吉弥(第7シリーズ〜)
- 同心:中村吉六(第7シリーズ〜)
密偵
- 伊三次:三浦浩一(劇場版には未出演)
- 相模の彦十:三代目江戸家猫八(第1シリーズ第2話〜第9シリーズ)→長門裕之(スペシャル版 『一本眉』〜スペシャル版 『高萩の捨五郎』、以後代役なし)
- 小房の粂八:蟹江敬三(第1シリーズ第4話〜スペシャル版『見張りの糸』、以後代役なし)
- おまさ:梶芽衣子(第1シリーズ第5話〜)
- 大滝の五郎蔵:綿引勝彦(第1シリーズ第21話〜)
親族・知人
- 親族
- 長谷川久栄(平蔵の妻):多岐川裕美
- 長谷川辰蔵宣義(平蔵の嫡男):長尾豪二郎(第1シリーズ〜第5シリーズ)→東根作寿英(劇場版)
- 三沢仙右衛門(従兄):北村和夫(第1シリーズ〜第4シリーズ)→橋爪功(スペシャル版『山吹屋お勝』)
- 知人ほか
- 京極備前守高久:仲谷昇(第1シリーズ〜第8シリーズ)→橋爪功(ファイナル『五年目の客/雲竜剣』)
- 岸井左馬之助:江守徹(第1シリーズ第2話〜第2シリーズ)→竜雷太(第5シリーズ〜第6シリーズ)
- 五鉄の亭主・三次郎:藤巻潤(藤巻は、萬屋版で小房の粂八を演じている)
- 笹やのお熊:北林谷栄(第1シリーズ)→五月晴子(第4シリーズ〜第6シリーズ)
- 井関録之助:夏八木勲(第2シリーズ第4話〜第7シリーズ)
- およね:池波志乃(第2シリーズ第9話〜第7シリーズ)
- おとき:江戸家まねき猫(第3シリーズ〜)
長谷川平蔵:二代目中村吉右衛門は、ドラマスタート時、すでに45歳だった。
妻・久栄(ひさえ)を演じた多岐川裕美は、当時38歳だった。
この二人の夫婦としての心の温かさを感じさせる会話が素晴らしい。
平蔵の手下として常に平蔵の手となり足となって活躍したのは、密偵たちだ。
密偵たちは、それぞれ曰くがあって平蔵の手下となり、情報収集や敵との戦いに粉骨砕身の活躍を見せている。
町方の与力、同心もさることながら、このドラマの一番の魅力は、平蔵と密偵たちの命がけの戦闘シーンだ。
密偵のキャストを確認すると、主に以下の5人が重要だ。
伊三次:三浦浩一
![三浦浩一 と 最終回スペシャル - エルペディア【Wikipedia】](https://i.rubese.net/twisoq/wiki_img/ea65fe39df6b1938f9e90f6a70d8c661.jpg)
相模の彦十:三代目江戸家猫八(第1シリーズ第2話〜第9シリーズ)
![中井寛一 on Twitter: "ウルトラマンの「小さな英雄」にはピグモンが再登場する。実はこのピグモンの鳴き声は、江戸家猫八 (3代目)が担当している。中村吉右衛門の『鬼平犯科帳』の「相模の彦十」がピグモンの鳴き声を担当していたのだ! ノンクレジットだからわから ...](https://pbs.twimg.com/media/Dv3XMSvUcAA7Hdd.jpg)
小房の粂八:蟹江敬三(第1シリーズ第4話〜スペシャル版『見張りの糸』)
おまさ:梶芽衣子(第1シリーズ第5話〜)
![梶芽衣子 と 鬼平犯科帳 - エルペディア【Wikipedia】](https://i.rubese.net/twisoq/wiki_img/cfd9306d9dcf81f3dd0909d5c6e83269.jpg)
大滝の五郎蔵:綿引勝彦
第1シリーズで、名作と言われているひとつが、第5話である。
梶芽衣子が初登場している。
彼女が平蔵の密偵になるきっかけの事件が描かれています。
梶芽衣子がこの5話から女密偵として活躍することになるのだ。
あらすじ:
平蔵の屋敷に、おまさという娘が訪ねて来た。
おまさは、平蔵が若い頃通った居酒屋の娘である。
酔いつぶれた平蔵を何かと面倒みてくれた。
今では、札差・大月に住み込みで働いているが、それは、盗賊・仁三郎一味を引き込むためであった。
だが、一味の計画があまりにも凶悪であることを知り、足を洗おうと決意するおまさ。
全てを聞かされた平蔵は、その日からおまさを密偵として使う。
おまさは、火盗改の密偵であることが盗賊に知られてしまい、乱暴されたうえで殺されそうになる。
平蔵はおまさを救い出すために、盗人宿に単身乗り込み、盗賊たちを怒り狂ったように次から次へと斬り倒していく。
その場面で、盗賊・仁三郎が、平蔵に向かって、「頭に血が上ったおまさの色(情を交わした相手)だ」とからかう。
それに対して、平蔵は一言「貴様ら外道の刀で、あの女の色が斬れるか」と啖呵を切る。
コメント:
平蔵とおまさの関係が単なる上司と部下に過ぎなければ、「貴様ら外道の刀で、火付盗賊改・長谷川平蔵が斬れるか」と答えるのが普通だろう。
しかし、一度は盗賊の仲間に堕ちていき、地獄の底のような辛い日々を送ってきた、おまさの心の奥底を信じる平蔵はちがう。
それを象徴する一言が、「貴様ら外道の刀で、あの女の色が斬れるか」なのだ。
これには見ている者も、グッとくる。
28年間もの間、シリーズを通して「おまさ」という密偵を演じた梶芽衣子。
彼女は、フジテレビが新たに中村吉右衛門を主役に、「鬼平犯科帳」を制作する予定であると聞いて、矢も楯もたまらず、どんな役でも良いから使ってほしいと自ら志願してきたという。
そして、このおまさという格好の配役を勝ち取ったのだ。
おそらく梶芽衣子にとっても、この鬼平犯科帳シリーズは生涯の代表作品になっているであろう。
梶芽衣子は、吉右衛門の死去に際して、以下のようなコメントをしている:
「鬼平犯科帳」のおまさ役で28年共演した梶芽衣子さんが吉右衛門さんの思い出を語った。
吉右衛門さんが「鬼平」に主演されるという記事を新聞で読み、「何でもいいから出してくれ」とプロデューサーにお願いしたのが出演のきっかけです。
とにかく真面目で誠実な方でした。
ただ、とてもシャイな方で、自分の意見をなかなかおっしゃらないんです。
最初は取り巻きの人も多くて近寄りがたい雰囲気がありましたが、私は普通に接したいと思い、撮影の待ち時間に話しかけると、普通に答えてくれました。
お好きな果物のお話などもしました。
「今日は機嫌が悪いんですか」などと平気で聞いたりしましたが、いつも笑って答えてくれました。
芝居については「ああしろ、こうしろ」といったことは全くおっしゃいませんでした。
でもこちらから質問すると、本当に何でもご存じで、とても丁寧に教えて下さいました。
おまさが夜鷹(よたか)に扮した時、手ぬぐいのかぶり方について「先をくわえた方が色っぽい」とか、「髪結い」の読み方は「かみゆい」ではなく「かみいい」が良いといったこともうかがいました。
現在、フジテレビのウェブサイトでは、「鬼平犯科帳」全作品を個別に検索して、あらましをチェックできるようにしている:
現在このテレビドラマを動画配信しているサイトはないようだ。
今後に期待したい。
BSフジが、毎週月曜日18時から放映している。
現在は、第5シリーズを上映しているようだ。
TSUTAYAでは、第1~第9シリーズをそれぞれレンタル・購入可能:
「鬼平犯科帳 劇場版」も、TSUTAYAでレンタル・購入可能: