「大奥絵巻」
1968年11月16日公開。
大奥に上がった三姉妹の悲劇を描く異色映画。
脚本:成沢昌茂
監督:山下耕作
キャスト:
- お阿紀(本名)→阿紀江の方(家斉側室時)(三姉妹二女、藤尾局付部屋子→家斉側室):佐久間良子
- 徳川家斉(十一代将軍):田村高廣
- お町(三姉妹三女、御台所付部屋子、御台所派):大原麗子
- 飛鳥井(中臈、御台所派):宮園純子
- 萩乃(御台所):桜町弘子
- 勝山(中臈、御台所派):阿井美千子
- 掛川(浅岡局付中臈、阿紀江派):しめぎしがこ
- 五月(浅岡局付中臈、阿紀江派):岡田千代
- 家斉の側室:小島恵子
- 和泉屋十兵衛(三姉妹の父):清水元
- 中村紅雀 (歌舞伎役者)大谷ひと江
- やえ(中臈、阿紀江派):野添ひとみ
- 妙心(御坊主):荒木道子
- 藤尾局(若年寄→大年寄、御台所派):木暮実千代
- 松島局(大年寄→隠居→上臈御年寄、御台所派):三益愛子(東宝)
- 志乃(本名)→浅岡局(若年寄、大年寄時)(三姉妹長女、若年寄→大年寄、阿紀江派):淡島千景
あらすじ:
江戸中期・寛政二年の春。
十一代将軍家斉(田村高廣)は、三十歳を迎えてお褥辞退をした、御台所・萩乃の方(桜町弘子)の代りに、若年寄浅岡の部屋子・お阿紀(佐久間良子)を望んだ。
お阿紀は浅岡(淡島千景)の義理の妹で、浅岡はこの幸運に野心を大きくふくらませた。
一方、町家育ちのお阿紀に家斉は優しかった。
彼女に野の花のようないじらしさを感じたのである。
それからというもの、将軍はほかの愛妾を一切遠ざけてしまった。
この前例のない出来事に、御台所はもとより、大奥一の権力者大年寄・松島(三益愛子)、若年寄・藤尾(木暮実千代)は、激しく憤った。
浅岡と松島の確執は、いちだんと激しいものとなった。
松島が浅岡とお阿紀を呼び、嫉妬のあまり松島が浅岡の顔を扇子で打った。
これを見た家斉は即座に松島を免職、浅岡に大年寄の職を与えたのである。
その年の江戸祭りの夜、家斉とお阿紀は忍び姿で城を抜け出し、祭の夜を楽しんだ。
お阿紀はそんな将軍の身分を越えた愛を受けて、しみじみと自分の幸せをかみしめるのだった。
しかし、このお忍び行が露見すれば浅岡は大奥追放、お阿紀は謹慎という沙汰になることは必定だったのだ。
そして、これは復讐に燃える松島の知るところとなった。
松島は将軍と会ったお阿紀の妹・お町(大原麗子)を生き証人に引き出したのである。
対する浅岡は好計をもって松島方の中頭飛鳥井(宮園純子)と女形紅雀の醜聞を起こした。
そのために飛鳥井は自害、紅雀は浅岡の手で殺された。
一方、松島は自供しないお町に拷問を加えたが、姉を思うお町は黙したままだった。
お阿紀には、しかし、こうした大奥女中たちの権力争いに巻き込まれることに、耐えられなかった。
浅岡がお町の口から事実が露顕するのを防がなければならないと、彼女を亡き者にしようとした時、お町の悲鳴を聞きつけたお阿紀は急いで駆けつけ、浅岡を懐剣で刺し貫いてしまったのだった。
この一件で、松島は上月葛に出世し、大奥は再び御台所派一色に塗りつぶされた。
お町は浅岡殺しの罪を着て捕えられたが、御台所は家斉にお阿紀をも罰するよう要求した。
しかし、家斉はお阿紀の罪は許した。
お阿紀の父・和泉屋はこのため、家を取り潰されて甲府に所払いになった。
当のお阿紀は、お町をこっそり父の許に逃げのびさせ、御台所より贈られた南蛮酒を毒と知りつつ、自ら仰いで果てたのだった。
コメント:
大奥に上がった町家の娘・お阿紀が将軍・家斉の寵愛を受ける。
そんな彼女を利用して、義姉は権力を握ろうとし、一部の女中はお阿紀の妹を擁する。
淡島千景、佐久間良子、大原麗子らの豪華女優たちの共演で描く大奥の愛憎劇。
「大奥(秘)物語」(1967/7/30公開)に続く佐久間良子主演、中島貞夫監督の大奥映画。
淡島千景が長女、佐久間が次女、大原麗子が三女で、3人が大奥勤めをする中、大奥内の派閥争いから姉妹間で愛憎が絡み合うというお話。
脇は桜町弘子、三益愛子、荒木道子、木暮実千代、宮園純子と豪華。
将軍は田村高廣。
本作は、第1作の「大奥(秘)物語」とはだいぶ趣が異なる展開となっている。
任侠映画の山下耕作監督の演出なので、美人女優が華麗な衣装と濃厚メイクを披露し合うだけの、中身のない昨今の祝祭風の大奥ものとは違う。
「御台派」と「有力側室派」との激しい対立、抗争。
御台さまと秋の方様が親分、それぞれに有力お局連中がついて「組」同士が激突するかのような筋書きになっている。
裏切り、密告、讒言、証拠捏造、拷問、刺殺あり、毒殺あり、男性映画と見まがうばかりの荒々しさだ。
木暮美千代がきせるを使って大原麗子に行う拷問はリアルに痛そうだ。
主人公・淡島千景のセリフがこれ:
「大奥には大義も名分もない、女の見栄の張り合いばかり、やるかやられるかじゃ!」
こんなセリフを言わせて、ドスもどきの懐剣を振るわせる場面は、任侠映画そのままといってもよい。
やはり東映が創るとこういう感じになる。
特筆すべきは将軍家斉(田村高廣)の描かれ方。
権力の頂点にいるはずなのですが、大奥にあってはまったく無力なのだ。
愛する秋の方(佐久間良子)を守ってやれない。
純情だが、ふがいない男という設定になっている。
それに引き換え、三益愛子や桜町弘子、木暮美千代、荒木道子などの大奥を牛耳る女性たち。
こんな政治力のあるおつぼね様たちに囲まれたら、一対一でもかないそうにない。
文字通りの“お局様”たちが一致団結したら、向かうところ敵なしなのだ。
『極道の妻たち』シリーズの約20年前の映画だが、「女たちの仁義なき戦い」といっても良い映画である。
佐久間良子と大原麗子の廊下をはさんでの別れも、対角線の美しい構図だ。
立ちこめる霧と鈴の音もよかった。
権力闘争は大奥の定番だが、ここまで生々しく荒々しく描くという方向は、のちの大奥ものには継承されなかったようだ。
中年女たちの濃い情念にクラクラする。
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