「マークスの山」
1995年4月22日公開。
バイオレンス・サスペンス映画。
1995年 第8回 日刊スポーツ映画大賞 助演女優賞受賞(名取裕子)。
R-15指定。
原作:高村薫「マークスの山」
脚本:崔洋一 、 丸山昇一
監督:崔洋一
出演者:
中井貴一 、 名取裕子 、 萩原聖人 、 古尾谷雅人 、 小林稔侍 、 西島秀俊 、 萩原流行 、 小木茂光 、 岸部一徳、遠藤憲一、松岡俊介 、 岸谷五朗、大杉漣 、角野卓造、井筒和幸
あらすじ:
東京・目黒区八雲で、暴力団吉富組元組員の畠山宏が殺害される事件が発生した。
遺体の頭部には、直径1センチ程の特殊な穿孔が認められ、それは事件の異常性を物語っていた。
この事件には、有能ではあるが少々強引なところもある合田雄一郎警部補(中井貴一)をはじめとする警視庁捜査一課七係が担当となり、捜査が開始された。
畠山のアパートなどから、シャブと30口径のカートリッジ、分不相応な大金を押収する。
さらに、それに関連するような人物が畠山宅を訪問していたというタクシー運転手からの証言を得た合田たちは、畠山の住所を正確に知っている人物を洗うのだった。
数日後、今度は北区王子で法務省の刑事局刑事課長の松井浩司が殺される事件が起こった。
頭部の傷が畠山のものと酷似しているとの報告をうけた合田は、大塚監察医務院に急行すると、独断で解剖を許可してしまう。
ところが、それを知った王子北署の須崎靖邦警部補(萩原流行)が、合田の勝手な行動に怒りをぶつけてきた。
彼は本部からの連絡で、解剖を引き延ばすよう指示されていたのだ。
情報を流さない互いの捜査の仕方に、ライヴァル意識剥き出しの合田と須崎。
しかし二人は、この事件の裏に潜む得体の知れない者からの圧力を感じずにはいられないのだった。
青山斎場での松井の葬儀は厳しい管理の下で執り行われ、彼らの動きは封じ込められてしまう。
辛うじて有沢が入手した式次第から松井の経歴などが明らかにされ、畠山と松井を結んだ線上に林原雄三(小林稔侍)という弁護士が浮ぶ。
林原は畠山の弁護士であり、松井とは修學院大学螢雪山岳会の同期という人物だった。
この男が事件の鍵を握っていると睨んだ合田は、接触を禁じられた須崎と密会。
修學院大学螢雪山岳会という名を須崎に流す。
だが、それについて調べを進めていた須崎は、皇民憂国の会の片桐義勝(大杉漣)と名乗る男に刺されてしまった。
一方、林原の留守に聞き込みを行った合田と有沢(遠藤憲一)は、事務員と銀行員の会話から林原が恐喝されている疑いを持つのだった。
またその頃、高木真知子(名取裕子)という金町病院に勤める看護婦がチンピラの銃弾に倒れ重傷を負うという事件が発生していた。
その犯人が畠山と同じ吉富組の人間だったことから、合田たちは彼女の身辺を洗い、彼女が以前勤務していた精神病院の元患者で、今は同棲相手の水沢裕之(萩原聖人)という若者の存在を知る。
精神病院時代に浅野剛という患者と肉体関係にあった裕之は、浅野から“MARKS”の秘密を聞かされていた。
MARKSとは、学園闘争中に起こった内ゲバ殺人事件の実行犯・野村久志殺害・死体遺棄事件に関与したメンバー(松井浩司、浅野剛、林原雄三、木原郁夫、佐伯正一)の頭文字を取った暗号だった。
エリート集団のMARKSたちは、生活ランクの違う野村から内ゲバ事件が世間に漏れることを恐れ、野村を北岳で殺害したのであった。
しかし、その後も野村殺害事件の恐怖に脅える浅野は、精神に異常を来して入院。
何食わぬ顔をしてハイソな生活をしている松井や林原らに同じ苦しみを味わそうと、恐喝を開始したのである。
ところが、その浅野が病院の監視員に暴行を受けて死亡した。
浅野の愛人だった裕之は、事件の模様を綿密に綴った浅野の日記を受け継ぐことにより、彼に代わって林原らをゆすり続け、それが今回の殺人事件の発端ともなったのである。
裕之は、林原によって送り込まれた刺客・畠山(井筒和幸)を反対に殺害。
さらに自分の恐ろしさをアピールするために松井をも殺したのであった。
そして、一度は大金をせしめることに成功した裕之だったが、真知子を傷つけられたことにより再び精神錯乱状態に陥り、林原に接近して、佐伯(角野卓造)を殺害、木原を自殺へ追い込むのだった。
裕之に関する真知子の証言から、大金と凶器と見られるアイスハーケンを押収した合田たちは、林原による捜査への圧力を交わし、裕之を林原恐喝、及び畠山、松井両名殺人事件の犯人と断定。
北岳に逃亡したとされる裕之を追跡する。
雪の残る山頂で、誰よりも早くそこへ辿り着いた合田は、真知子の白衣を抱きかかえ凍死している裕之を発見するのだった。
コメント:
原作は第109回直木賞を受賞した高村薫の同名長編小説。
南アルプス夜叉神峠で起こった親子心中事件で生き残った少年が、その後成長して「マークス」を名乗り、連続殺人を犯す。
「マークス」には、ある事件に関係するキーワードが隠されていた。
連続殺人事件とその裏に潜む大きな影の存在に、真っ向から戦いを挑む捜査員たちの姿を描いたサスペンス。
小説は、第109回(1993年上半期)直木賞を受賞、1993年に「このミステリーがすごい!」1994年版国内編第1位を獲得した。
映画化された作品は、露骨な性描写や同性愛表現、バイオレンス表現が含まれており、R-15指定での公開となった。
元暴力団員の死亡によって幕を開けるこのドラマ。
敏腕刑事を演じる中井貴一と、ライバルの萩原流行の捜査を巡る激しい争いの中、次々と新たな殺人事件が起こる。
この緊張感一杯の展開が素晴らしい。
その後、萩原流行が殺され、中井貴一は同僚の遠藤憲一らとさらに捜査を進めるが、小林稔侍扮する弁護士が捜査に圧力をかけてくる。
この辺りから事件の闇が次第に深まって行く。
そして登場するのが、萩原聖人が演じる水沢裕之という若い男だ。
彼は、子供のとき両親が無理心中を図りひとり生き残ったのだが、そのときの後遺症で精神を病み、入院中にMARKSのメンバーのひとりの浅野に出会う。
裕之は浅野と男色の関係になり、浅野からMARKSの秘密が書かれた日記を譲り受ける。
その後、浅野は病院内での看護師からのリンチで死亡し、裕之はその看護師を殺害する。
のちに裕之は退院し、入院時の担当看護師のひとりである真知子(名取裕子)の家に転がり込む。
裕之は、男女ともにいける、いわゆるバイセクシュアルだったのだ。
名取裕子と萩原聖人が繰り広げる濡れ場は、なかなかのもの。
名取裕子にとっては久方ぶりのヌードである。
その後、浅野の手記を元に裕之は林原を脅し、金を要求する。
結局、連続殺人の犯人は水沢裕之だったのだ。
金を手にし、一瞬成功したように見えたが、数時間後真知子と一緒にいるところで銃撃を受ける。
真知子がかばったことで裕之は助かるが、真知子は重症を負い、その後息を引き取る。
完全に理性を失った裕之は、林原を呼び出すが、返り討ちにあい、フルボッコ。
にもかかわらず、その足で裕之は佐伯(角野卓造)を殺害。
そのあと、真知子と行こうと言っていた北岳に登る。
跡を追う合田がそこで目にしたのは、真知子の白衣を抱きかかえ凍死している水沢裕之の姿だった。
最後は悲しいエンドになっているが、ようやく事件の全容が明らかとなり、犯人はすでに死亡という結果になる。
とにかく、本作後に映画やテレビドラマで大活躍することになる俳優たちがあまりにも多く出演していることに驚く。
中井貴一・西島秀俊・遠藤憲一・萩原聖人・岸谷五郎などなど。
すでに映画監督として結果を出していた井筒和幸も、やくざの殺し屋として出演している。
手前の死体は井筒監督。
正面が、中井貴一。
左側の若手刑事は若き日の西島秀俊。
きっと当時見てもわからなかっただろう。
殺される人間が多すぎて、どういうことなのか状況が把握しにくい面があるが、サスペンス性は十分伝わってくる。
警察内部のリアルな描写、グロ過ぎる死体など引き付けられるが。
名取裕子の体当たり演技が良い。
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(ただし、VHSのみ)