「終戦のエンペラー」
(原題: Emperor)
2013年7月27日日本公開。
昭和天皇とマッカーサーとの会見を巡る米国映画。
世界興行収入:$14,858,240。
企画:奈良橋陽子
原案:芥川保志
原作:岡本嗣郎『陛下をお救いなさいまし 河井道とボナー・フェラーズ』
脚本:ヴェラ・ブラシ、デヴィッド・クラス
監督:ピーター・ウェーバー
キャスト:
- ボナー・フェラーズ - マシュー・フォックス
- ダグラス・マッカーサー - トミー・リー・ジョーンズ
- 島田あや - 初音映莉子
- 鹿島 - 西田敏行
- 高橋 - 羽田昌義
- 昭和天皇 - 片岡孝太郎
- 木戸幸一 - 伊武雅刀
- 関屋貞三郎 - 夏八木勲
- 近衛文麿 - 中村雅俊
- 東条英機 - 火野正平
- 鹿島夫人 - 桃井かおり
あらすじ:
1945年8月30日。第二次世界大戦で降伏した日本にGHQを引き連れたマッカーサー(トミー・リー・ジョーンズ)が降り立つ。
直ちにA級戦犯の容疑者たちの逮捕が命じられ、日本文化の専門家であるボナー・フェラーズ准将(マシュー・フォックス)は“名誉”の自決を止めるため、部下たちを急がせる。
その頃、前首相東條英機(火野正平)は自ら胸を撃つが、心臓を外して未遂に終わる。
マッカーサーはフェラーズに、戦争における天皇(片岡孝太郎)の役割を10日間で探れと命じる。
連合国側は天皇の裁判を望み、GHQ内にもリクター少将(コリン・モイ)を始めそれを当然と考える者たちがいたが、マッカーサーは天皇を逮捕すれば激しい反乱を招くと考えていた……。
大学生の頃、フェラーズは日本人留学生アヤ(初音映莉子)と恋に落ちるが、彼女は父の危篤のため帰国。
あれから13年、フェラーズは片時もアヤを忘れたことはなかった。
だがアヤの捜索を頼んでいた運転手兼通訳の高橋(羽田昌義)から、アヤが教員をしていた静岡周辺は空襲で大部分が焼けたという報告が届く。
そんな中、フェラーズは開戦直前に首相を辞任した近衛文麿(中村雅俊)に会い、開戦の3ヶ月前、戦争回避のため秘密裏に米国側と接したが、国務省がそれを拒否したという事実を知る。
調査が行き詰まり、宮内次官の関屋貞三郎(夏八木勲)に狙いを定めたフェラーズは、マッカーサーの命令書を楯に強引に皇居へ踏み込む。
関屋は開戦前の御前会議で、天皇が平和を望む短歌を朗読したと語る。
説得力のない証言に腹を立てて立ち去るフェラーズだったが、深夜、天皇に最も近い相談役である内大臣、木戸幸一(伊武雅刀)が現れ、天皇が降伏を受諾し反対する陸軍を封じるために玉音放送に踏み切り、千人の兵士から皇居を襲撃されたという経緯を聞かされる・
だがその話を証明する記録は全て焼却、証人の多くも自決していた。戦争を始めたのが誰かはわからない。
だが終わらせたのは天皇だ。
フェラーズはマッカーサーに、証拠のない推論だけの報告書を提出する。
マッカーサーは結論を出す前に、天皇本人に会うことを希望。
異例の許可が下り、社交上の訪問としてマッカーサーに会うという建前に沿って、ついに天皇がマッカーサーの前に現れる。
しかし、天皇は周りの誰も知らない日本の未来を決めるある一大決意を秘めていたのであった。
会談は赤坂の米国大使公邸で行われた。
天皇は側近の制止を振り切ってマッカーサーの握手に応じ、タブーとされていた間近での写真撮影も受ける。
そしてまず、全責任は自分にあり、懲罰を受けるのは日本国民ではないと述べる。
これを聞いたマッカーサーは、懲罰の話をするのではなく、日本の再建のためにあなた(天皇)の力を貸してほしいと応じ、会話は和やかに進んでいく。
亡きあやの祖国の将来に明るい兆しを感じフェラーズは、満足げに会見室を後にするのだった。
コメント:
企画・奈良橋陽子、監督・ピーター・ウェーバーによる2012年のアメリカ合衆国の歴史映画。
原作は岡本嗣郎『陛下をお救いなさいまし 河井道とボナー・フェラーズ』(ホーム社、のち集英社文庫)。
第二次世界大戦終戦直後の連合国軍占領下の日本を舞台に、昭和天皇が戦犯として裁かれることをいかにして回避したかを、フィクションを交えながら描く。
主な撮影はニュージーランドで行なわれたが、日本国内でのロケも行われ、商業映画としては初めて皇居敷地内での撮影も許可された。
愛あればこそ、救えたものがある。
支配者としてではなく
勝利者としてではなく
一人の隣人として、一人の友人として、一人の恋人として…
心穏やかに、優しく。
たった一人の小さな思いでも、愛し、敬う気持ちが戦後の日本を確かに支えた。
焼け野原となった日本に確かにあった愛の姿。
天皇陛下はその責任を一身に受けとめようとし…
東條元首相は敬愛する天皇陛下へ戦争責任が及ばないように敗軍の将としての責任を全うし…
フェラーズ准将は日本人の精神世界を正しくマッカーサーへ伝え…
ひとり一人の小さな愛があったからこそ
再生への一歩を踏み出すことが出来ただろうし
その心が日本を支え続けたのだと感じる。
英国人が監督し、ハリウッドが製作した本作品。
その精神世界は日本人プロデューサーが細やかに説明しただろうし
多く残された資料が、隠された歴史をしっかりと浮かび上がらせる。
その複雑な日本人の心の有り様を
この作品を通じて世界中の人に知って貰えたなら…
これを日本映画として製作したなら、『手前味噌な作品として』批判も受けるかもしれないが、戦勝国による作品であるという事で、そのような色眼鏡で見られることもなく広くあまねく鑑賞してもらえる作品になっていると思われる。
他国の人には理解の難しい日本人の精神世界。
現代の日本ではその多くが忘れ去られようとしてはいるが、それでも場面場面で世界から称賛される日本人の行動原理の一端をキッチリと描いて見せてくれている。
フェラーズ准将の親日家としての理由に日本人女性とのロマンスがあるというのは素敵な演出ではないだろうか。
愛する人が生まれ育った国を大切にしたいと思っての行動であれば尚更親しみがわくというものだ。
もちろん戦争のさなかには多くの残虐な行為があちらこちらで行われていて、被害者であり、加害者であるという事は歴史の闇に隠されてしまっていて、もっともっと知らねばならぬ事実や真実は多々ある事だろう。
しかし、それらを可能な限り知る事で、自分なりの考えを醸成していく事が大切なのだろう。
世界初の皇居での撮影が話題になった作品。
「日本のいちばん長い日」と共に見るのが良いかも。
桃井かおりは、西田敏行扮する鹿島大将(フィクション)の妻を演じている。
終戦時に生き残って静岡で隠居生活をしている日本軍の大将というのはあり得ない。
「サイパン島と沖縄の司令官を務めた」という設定らしいが、大方の日本人ならサイパンも沖縄も玉砕の島での指揮官は全員自決したことを知っている。
こういった細かい部分は史実を無視しているようだ。
だが、天皇がマッカーサーと直接会って、そこから日本の戦後が始まったのは事実なので、まあ良しとすべきかも。
奈良橋陽子は、国際的に活躍する日本人俳優の育成や作詞業など多岐にわたる活動をしている人物。
『セサミストリート』のビデオ日本語版解説の監修、ミュージカル『ヘアー』の演出(1980年)、ハリウッド映画への日本人のキャスティング(スティーヴン・スピルバーグ監督の『太陽の帝国』、トム・クルーズ主演の『ラストサムライ』ほか)など、英語圏と日本国の文化の橋渡し・裏方として手広く活躍中。
この映画は、TSUTAYAでレンタルも購入も動画配信も可能: