「狼よ落日を斬れ」
1974年9月21日公開。
幕末の時代、剣豪たちに訪れる非業の最期を描いた時代劇。
原作:池波正太郎『その男』、『人斬り半次郎』
脚本:国弘威雄、三隅研次
監督:三隅研次
キャスト:
- 杉虎之助関連
- 杉虎之助:高橋英樹
- 礼子(虎之助の妻):松坂慶子
- 山口金五郎(虎之助の叔父):佐野浅夫
- 池本茂兵衛(虎之助の師):田村高廣
- 杉平右衛門(虎之助の父):内藤武敏
- 中村半次郎関連
- 中村半次郎(桐野利秋):緒形拳
- 法秀尼(半次郎の愛人):太地喜和子
- 村田以喜蔵(半次郎の配下):藤岡重慶
- 西郷隆盛:辰巳柳太郎
- 伊庭八郎関連
- 伊庭八郎:近藤正臣
- つや(八郎の妻):本阿弥周子
- 相沢伝七郎(八郎の道場を破門された侍):峰岸隆之介(峰岸徹)
- 沖田総司関連
- 沖田総司:西郷輝彦
- 近藤勇:和崎俊哉
- その他
- 東郷直二:今井健二
- 平五郎:安部徹
- 早川英助:福田豊土
- 長太郎:西川ヒノデ
- 新井忠司:神太郎
- お浜:青木千里
- 狂女:笠原玲子
- お峰:谷口香
- 床屋の客:坂上二郎
あらすじ:
杉虎之助(高橋英樹)は御家人の総領として生まれたが、十四歳の時に家出、池本茂兵衛(田村高廣)に捨われ、無外流に似た実戦的な剣術使いとなった。
八年後、江戸に戻った虎之助は屈強の勤番侍にからまれている叔父の旗本・山口金五郎(佐野浅夫)を偶然救ってやる。
その時の、侍数人を川の中に叩き込んだ虎之助の早業に、幼年時代、虎之助の親代わりだった金五郎は目を見張った。
またもう一人虎之助の働きに瞠目した青年武士がいた。
門弟千余人をかかえる江戸屈指の心形刀流伊庭道場の後継ぎ、伊庭八郎(近藤正臣)である。
時に、国中は勤王、佐幕の抗争が続き、京都では近藤勇(和崎俊哉)、沖田総司(西郷輝彦)ら新選組が池田屋騒動で勤王の志士を大量殺戮した頃である。
虎之助の腕を見込んだ八郎は、自分の友人が隊長をしている洛中見廻り組に力を借してくれ、と熱心に口説いた。
その夜、虎之助は恩師茂兵衛の使いの僧から、礼子(松坂慶子)という女を連れて京都に来いとの伝言を受けた。
品川宿で会った礼子は男装の美女だった。
道中、箱根で二人は薩摩藩々士に襲われるが、虎之助は全員斬り伏せる。
以来、若い二人の間に愛情が芽生えた。
京の町は騒然としていた。
その中で虎之助の目を惹く使い手がいた。
薩摩の中村半次郎(緒形拳)である。
その攻撃一途の示現流も迫力があったが、半次郎の情婦の法秀尼(太地喜和子)という尼僧は、虎之助が江戸にいる時、やくざの手から救ったお秀だったのだ。
数日後、虎之助は乞食に身をやつした茂兵衛と再会した。
茂兵衛は、自分は幕府の密偵で薩摩藩を探索する身であることを明かし、「お前だけは今の時の流れに巻き込まれず、次の世の中を見つめてくれ」と諭すのだった。
礼子も親の代からの公儀隠密で、女ながらに幕府の為に身を挺してきた礼子の話を聞き、虎之助の血は騒いだ。
やがて、上洛して来た八郎にすすめられて見廻り組に参加した虎之助は、副隊長格として勤皇の士を斬りまくった。
杉虎の異名は京の都にとどろくが、心は空虚感にうちひしがられる日々だった。
祇園祭の夜、茂兵衛が薩摩藩士に襲われ死んだ。
仇、東郷直二を斬った虎之助に対する茂兵衛のいまわの言葉は「礼子と共に江戸へ帰れ、無駄死するな」だった。
鳥羽伏見の戦いで、八郎、沖田総司ら幕軍は、半次郎らの官軍に破れた。
その頃虎之助は、師・茂兵衛の遺志を守り、礼子と二人で江戸で愛の日を送っていた。
京から逃れて来た沖田総司が胸の病で死んだ。
数日後、八郎が虎之助を訪れ、上野の彰義隊に加わり幕臣として最後の一戦を交えよう、と誘った。
虎之助は断ったが、それは上野で斬り死にするより辛いことだった。
上野の戦いは幕臣側の惨敗に終った。
虎之助と、八郎の義妹で八郎とは相思相愛のつやが、上野の山に八郎を求めて彷徨うが生死不明だった。
数日後、彰義隊の残党狩りでごった返す町中で、虎之助は片腕を失った八郎を発見した。
八郎は虎之助に、柳生新陰流--本心流を受け継ぐ、心形刀流の奥儀である二十四の組太刀を伝えた後、再起をはかるのだ、と函館へ去った。
そんなある日、残党狩りを続ける薩摩藩士村田以喜蔵が、虎之助の留守を襲い礼子を惨殺した。
怒り狂った虎之助は、官軍の一隊を襲い、以喜蔵を斬った。
明治六年。
虎之助のところへ桐野利秋と名を替え陸軍少将となった半次郎が、遊びに来るようになった。
全てが恩讐の彼方に流れ、二人の間に友情が復活したかのように見えたが、茂兵衛殺害の真犯人が実は半次郎であった、と知った虎之助は、西南戦争勃発で、鹿児島にいる西郷隆盛に従った半次郎を追って、鹿児島へ向かった。
殺気をはらんで二人は対決したが、西郷の仲裁と、互いの憎悪が自然に消えていたこともあって、どちらからともなく刀を捨てた……。
西南戦争は終った。
東京のとある橋の上で、流れる川を眺める虎之助の耳に号外の鈴の音--号外には西郷が自刃、半次郎戦死、との記があった。
コメント:
時代劇十傑を選んだとき、必ず上位に入るといわれる名匠・三隅研次監督渾身の時代劇。
原作は池波正太郎の『その男』および『人斬り半次郎』。
無外流の使い手・元幕臣の杉虎之助(高橋英樹)、天然理心流の使い手・新撰組の沖田総司(西郷輝彦)、心形刀流の使い手・幕臣の伊庭八郎(近藤正臣)、示現流の使い手・薩摩藩の中村半次郎(緒形拳)の4人は、幕末の京都で知り合い、友人となる。
しかし、時代の流れは彼ら4人に悲しい運命を辿らせていく。
主人公・杉虎之助は御家人の総領として生まれたが、14歳の時に出奔し、池本茂兵衛に捨われ、無外流に似た実戦的な剣術を学ぶ。
八年後、江戸に戻った虎之助は屈強の勤番侍にからまれている男を救う。
激動の幕末維新の中、必死に動乱を生きぬいた剣客、英雄たちの生きざま、死にざまを描いた長編時代劇。
伊庭八郎、沖田総司、桐野利秋(中村半次郎)など実際の剣豪を絡ませることで激動の幕末を、幕府、薩摩、新撰組と個々の視点で深めているところは秀逸。
特に序盤の伊庭vs.虎之助の道場内の真剣勝負、桐野vs.虎之助の荒野の激闘は身震いさえ覚える。
十傑として名高い由縁はここなのであろう。
また、過去の自己作品の集大成のような殺陣や、視覚的な面白さを集大成していることも忘れてはいけない。
主人公の高橋英樹が近藤正臣と真剣で渡り合う道場の殺陣がすごい。
京都の狭い路地を舞台にした田村高廣と薩摩藩士の斬り合い、英樹と薩摩藩士が山道で展開する殺陣なども、剣の映画としての魅力はたっぷりである。
松坂慶子は、虎之助の師匠・茂兵衛の娘でありながら男装して働く公儀隠密を演じている。
後に、後に虎之介の妻となる礼子である。
しかし、残党狩りを続ける薩摩藩士により、虎之助の留守中に惨殺されてしまう。
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