「図々しい奴」
1964年1月15日公開。
柴田錬三郎の人気作品を映画化。
佐久間良子の上品な美しさが際立つ作品。
原作:柴田錬三郎
脚本:下飯坂菊馬 、 瀬川昌治
監督:瀬川昌治
出演者:
谷啓 、 佐久間良子 、 長門裕之 、 杉浦直樹 、 浪花千栄子 、 西村晃 |
あらすじ:
旧岡山城主伊勢田家の当主・直政(杉浦直樹)が不思議な少年・戸田切人(谷啓)に出会ったのは、切人が六年生の時であった。
ニヒルな生活を送る直政にとってこの城を造る事を夢みる怪童との出会いは痛快なことであった。
直政にひきとられた切人は直政の紹介で羊羹糞の老舗虎屋に奉行した。
虎屋の娘・美津枝(佐久間良子)は、直政が愛する唯一の人であったが、自分の素直な心にも従いえぬ直政の性格から、美津枝は大学教授・園田のもとに嫁いだ。
華族に似つかわしくない直政の奔放な生活は廃嫡問題に及び、その代償としてヨーロッパへ旅立つ事になった。
この間に切人は、持前のねばり強さで離婚して帰っている美津枝の励ましのもと皇室御用の虎屋の商人根性を学びとっていた。
そんな彼に独立するチャンスが訪れた。
直政が渡欧に際し、残してくれた事業の資本金一万円と豪華なアパートの一室だ。
はりきった切人は、陸軍大臣に体あたりで、たのみこみ、羊羹を陸軍の酒保に納める事に成功した。
元来の図太さとアイデアの斬新さでヌード羊羹は、評判となった。
だが、酒保から赤痢患者が出て、隊内の出入り差止めとなった。
返品滞貨の中に自失している切人に、追いうちをかけるように、召集令状が来た。
直政が帰国するのと入れちがいに、切人は、美津枝に送られて帰郷していった。
コメント:
原作となった柴田錬三郎の小説は、1950年代後半に『週刊読売』に連載された。
戦時中から終戦直後を舞台とし、作者・柴田の私小説的要素も含まれているという。
同名にて、1963年6月から3か月間TBSで放送されたテレビの連ドラで、丸井太郎という俳優がこの主人公を演じて人気となった。
それを受けての劇場版である。
谷啓が演じる戸田切人という類いまれな商売熱心な男の立身出世物語である。
岡山から城を建てることを夢見て上京した主人公が、羊羹の店を大成功させるものの、赤痢を出した疑いで無一文になる。
そこに召集令状も来て、彼の運命は如何にというところで前編終了。
5か月後に公開された後編がある。
作品中のマドンナには佐久間良子。
主人公を支える岡山の殿様に杉浦直樹。
主題歌の作詞が青島幸男。
バイタリティーだけは人一倍という主人公は、谷啓のキャラクターに合っている。
谷啓演ずる戸田切人は、遠慮の無い性格だが、実はすべてに図々しいという雰囲気ではない。
世話になった人には義理を欠かさず、若様、美津江様と敬い、常に自分は一歩引いた立ち位置をキープする。
だが、商売に関しては図々しい。
喜劇ではあるものの、切人、直政、美津江を巡る人間模様が感動を呼ぶ一篇となっている。
浪花千栄子、西村晃、長門裕之らのわき役陣も印象に残る好演。
麻理耶役の上原ゆかりが可愛い。
さすがに当時大人気だつた子役だけある。
この前篇は、谷啓演じる切人が上京して羊羹屋を始め、上田吉二郎扮する陸軍大臣に日参して軍御用達を果たし、成功を収める。
しかし、羊羹から赤痢患者を出してしまい、一から出直そうとする中で、兵役にとられるところまでとなっている。
佐久間良子が、こんなに意地らしく可愛い女優さんであったかと感動する作品。
瀬川監督の演技指導とカメラマンの優しさが生みだした美しさだろう。
最初、モダンな谷啓では岡山弁は似合わないかと心配したが、どうしてどうして、背広を着る頃から役になってくる。
羊羹の「虎や」さんが実名で出てくるのも面白い。
その羊羹のようにどこにも嫌みなものや下品なものが無く実にすがすがしい作品である。
「無法松」と同様、純愛で通すところも泣かせる。
本作で主演している谷啓という俳優。
この人は、知る人ぞ知る、お笑いバンドのクレージーキャッツのメンバーの一人。
クレージーキャッツ主演の映画を含めて、100本近くもの映画に出演しているのだ。
本作はその中でも、谷啓個人の魅力が発揮されている秀逸な作品だ。
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