「太平洋のGメン」
1962年4月22日公開。
片岡千恵蔵主演のギャング対Gメンの戦いを描くサスペンス映画。
監督・脚本:石井輝男
出演者:
片岡千恵蔵、江原真二郎、丹波哲郎、沖竜次、八名信夫、山の内修、佐久間良子、吉田義夫、梅宮辰夫、佐々木孝丸、小野透、山形勲
あらすじ:
玄界灘で夜釣を楽しんでいた流れ者の健次(江原真二郎)は、奇妙なブイを釣り上げた。
その帰り途、彼は二人の男に襲われ、ある屋敷につれ込まれた。
そこへ現れた水原(丹波哲郎)と名乗る男は他人に口外しないことを条件に健次に五十万円を与えた。
だが出された酒を口にした健次はそのまま意識を失ってしまった。
気を失ったまま走るモーターボートへ乗せられていた健次は、広上(片岡千恵蔵)という男に救われた。
翌朝、屋敷へ金を取り戻しに行った健次は、そこが新歌舞伎の中村枝雀の別荘で、水原などという男は居ないことを知った。
土地のボス・藤村(吉田義夫)をあたれという広上の言葉にキャバレー・クインピーを訪ねた健次は、ホステスの朱実(佐久間良子)からその男が福岡へ行ったことを聞かされた。
福岡で巡業中の枝雀を訪れた健次は、偶然そこで若い男が枝雀を刺し殺すのを目撃した。
だが、彼は犯人とまちがえられ危ういところを広上に救われた。
五十万円出しても手に入れたい品物とは一体何か。
神戸が臭いとにらんだ二人は、神戸へとんだ。
健次に一目惚れの朱実もこれに加わった。
推定通り、水原は取引のため神戸に来ていた。
水原の取引相手の影山と陳は、水原から品物を横取りしようと企てた。
それを知った広上は自分を加えろと強要した。
取引の当日、広上の前に現れたのは水原ではなく子分の松本だった。
水原は広上らの企みを感づいたのだ。
陳の子分の拳銃が火をふき、松本の手にする袋から宝石が散乱した。
その時、玄界灘から水原をずっとつけて来た宗方一味が乱入し混戦となった。
逃げようとする松本は、そこへ駆けつけた健次の拳銃に肩を射抜かれ、虫の息で枝雀殺しを自供した。
ボスは横浜の松野……と言い残してこときれた松本。
一方、本物の宝石を持った水原は横浜へ向かった。
松本のもっていたものはにせものだったのだ。
水原を尾行して健次も横浜へ向かう。
だが横浜で水原を待っていたのは、宝石を一人占めしようとするボス・松野(佐々木孝丸)の銃口だった。
翌日、単身南米行きの船に乗ろうとした松野は、健次に助けられた水原の銃弾を浴びて息をひきとった。
船上では松本の子分と広上の壮烈な銃弾戦が始まった。
近づく海上保安庁の巡回船。
一味はついに一網打尽にされた。
広上は密輸取締り官だったのだ。
次の仕事で対馬へ向かう広上を見送る健次と朱実の顔は明るかった。
コメント:
本作の3年後に『網走番外地』で大ブレイクする石井輝男監督が、独特の男性目線で演出した娯楽映画。
石井輝男東映移籍後の5作目で三本目のギャング映画になっている。
大泉での千恵蔵御大映画の例に漏れず、派手なドンパチが何度も繰り広げられる。
話の筋立ては通っているのか、いないのかよくわからない荒唐無稽な映画ながら、キャバレーでエロティックな踊りを披露する女性を出すなど、大人の味付けをするところが監督の石井輝男流だ。
お話は、対馬を皮切りに、長崎、神戸と舞台を移してゆくので、どこが“太平洋のGメン”やねんと突っ込みたくなる。
だが、神戸の次の舞台が横浜で、そこでクライマックスのドンパチが展開し、千恵蔵御大の実の姿が密輸Gメンであることが明かされるので、ようやくタイトル通りの“太平洋のGメン”ということになる。
神戸の繁華街がゴチャゴチャした迷路のようなセットで表現したあたりは、新東宝時代の「黄線地帯」のカスバを思い出させる石井輝男独特の世界だ。
漁船船長に見せかけて実は密輸Gメンという千恵蔵御大。
物語の水先案内役である江原真二郎。
その江原と行動を共にするキャバレー・ホステス佐久間良子。
このメイン3人に加え、丹波哲郎扮する密輸シンジケートの男とその子分・沖竜次、八名信夫、さらには、梅宮辰夫・小野透・亀石征一郎らが結成している海賊団が登場する。
それだけでなく、神戸には山形勲扮する華僑の貿易会社社長、伊沢一郎扮するギャングのボスが登場する。
横浜ではなんと丹波哲郎を裏切って大ボス佐々木孝丸に寝返った南廣、沢彰謙が丹波を撃ち、丹波が命を落とすことになる。
まさに波乱万丈とも呼べる展開だ。
石井輝男得意のスピード感で、観る者をグイグイ引っ張るというスピード感あるサスペンス映画になっている。
石井の軽快なコメディ・アクションの中で、佐久間良子が明るいノリでキュート。
いつもの暗さがないのが良い。
佐久間良子は、『五番町夕霧楼』などの文芸もので大ヒットを飛ばしたため、真面目な人生を男たちに翻弄される不幸を絵に描いたような暗いイメージが定着してしまっているが、実際の彼女本人は、明るくほがらかで美しい女性だったのだ。
その辺りを良く理解して見て行きたい。
当時東映の大御所的存在だった片岡千恵蔵が主演している。
この俳優は、当時すでに59歳だった。
時代劇、ギャング映画、ミステリー映画などありとあらゆる映画に主演している東映を代表するスター俳優。
初の映画化となった金田一耕助シリーズにも主役で7本出演している。
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