「木曜組曲」
2002年10月12日公開。
4年前に謎の薬物死を遂げた女流作家を巡る推ミステリードラマ。
脚本:大森寿美男
監督:篠原哲雄
出演者:
鈴木京香、 原田美枝子、 富田靖子、 西田尚美、 加藤登紀子、竹中尚人、浅丘ルリ子
あらすじ:
4年前、謎の自殺を遂げた耽美派女流作家・重松時子(浅丘ルリ子)。
時子を偲び、5人の女たちが今年もまた集まった。
長年の時子の担当編集者で、同居して身の回りの世話をしていたえい子(加藤登紀子)、
時子の異母妹で編集プロダクションを営む静子(原田美枝子)、
静子のいとこでノンフィクション・ライターの絵里子(鈴木京香)、
時子の姪で人気ミステリー作家の尚美(富田靖子)、
尚美の異母姉妹で純文学作家のつかさ(西田尚美)。
彼女たちはそれぞれ、時子の死に割り切れないものを感じていた。
その日、送り主不明の花束が届き、添えられていたカードには“皆様の罪を忘れないために、今日この場所に死者のための花を捧げます”というメッセージが。
時子の死を他殺と思わせる内容に、各自が独自の推理を展開する……。
コメント:
1999年11月に徳間書店から刊行された恩田陸の同名小説の映画化。
4年前に謎の薬物死を遂げた女流作家・重松時子。彼女を偲んで毎年5人の女たちが時子の館に集っていた。
しかし、今年は謎の花束が届いたことにより、いつもと雰囲気が変わってしまった。
そして、彼女たちは時子の死について自らの推理を語りだす。
冒頭で、浅丘ルリ子が演じる重松時子が口から血を流して倒れているシーン。
それがあっただけで、特に激しく言い争う訳でもなく、淡々と物語が進行して行く。
その後は、時子が死んだ時に来る刑事(竹中直人)を除いては、絵里子(鈴木京香)、静子(原田美枝子)、尚美(富田靖子)、つかさ(西田尚美)、えい子(加藤登紀子)の五人だけだ。
時子の死は、遺書があったことから自殺として片付けられた。
しかし、五人の女たちは納得していなかった。
ここからミステリードラマが展開して行く。
この映画は奥行きがある。
女流作家の住まいとして田舎の古い屋敷を想定している点に魅力がある。
小さなトンネルとそこに滴る水、それはいかにも女性である。
濡れるという感触。
この映画は全般に濡れた映画。
エロスをも思わせる濡れ方である。
全く卑猥さはない。
これだけの大女優を集合させ、それなりの個性をぶつけあい、そして二転三転させる、息をもつかせないストーリー展開に悪意を持つことなどありえない。
全く退屈しなかった。
この映画は勿論浅丘ルリ子の存在感が象徴的に全般を満たしている。
ファーストシーンの死んだ姿然り。見事な演技と存在感だ。
美しさとは似て異なるこのシーンにほれぼれするのだ。
推理する女たちの中心者、加藤登紀子。
この人は女優ではないが、この人の演技には素人っぽさがない。
風格が漂う見事な演技。
見事な演出。素晴らしい存在感。
ある意味浅丘ルリ子をも凌駕する存在感だ。
ここには冒頭に登場する刑事役の竹中尚人を除いて男性が出演しない。
女性の香り、女性の艶が全面を覆う映画なのである。
この雰囲気こそが篠原監督の狙いであろう。
この映画は女性の輪廻。
女性の戯言である。
井戸端会議であり執念であり、そして美しさと才能を競い合うこの他愛もないこの会話の中にこそ、この映画の美しさがかいま見える。
原作の魅力に、大森寿美男さん脚本、篠原哲雄さんが監督を務め、5人の女流作家に1人のベテラン編集者という個性あふれる女優陣6人が織りなす化学反応。
これから”組曲”が完成していく余韻を感じさせる心地よいエンディング。
「正解なんてその時々の気分によって感じ方は変わる」という劇中のセリフが印象的だ。
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