原節子の映画「青い山脈」+「續 青い山脈」 巨匠・今井正の初の大ヒット作! 戦後民主主義を謳う! | 人生・嵐も晴れもあり!

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「青い山脈」・「續 青い山脈」

 

 

 

青い山脈 プレビュー

 

「青い山脈」:1949年7月19日公開。

「續 青い山脈」:1949年7月26日公開。

原節子の戦後の大ヒット映画。

今井正監督の初のヒット作品。

 

脚本:井手俊郎、今井正 

監督:今井正

主題歌:「青い山脈」

西條八十作詞、服部良一作曲
歌: 藤山一郎、奈良光枝

出演者:

原節子、池部良、杉葉子、木暮実千代、伊豆肇、龍崎一郎、若山セツ子、立花満枝、山本和子、三島雅夫、田中栄三、島田敬一、藤原釜足

 

 

あらすじ:

 

前編:

ある片田舎町の駅前。

金物商丸十商店の店先に一人の見知らぬ女学生が訪れた。

その娘は「母が手元に現金がないからこれを町へ持って行って学用品を買いなさいって……」と小さく海光女学校五年生寺沢新子と書かれたリュックの米をつき出した。

留守番の六助(池部良)は、ドイツ語の教科書を放り出して、ついでに新子(杉葉子)に御飯を炊いてもらう。

だんだん事情を聞いてみると、母が二人いる複雑な事情を持つ娘だった。

ある日、海光女学校の英語教師である島崎雪子(原節子)は新子から相談を受ける。

彼女あてにきたラヴレターを見せて、クラスの誰かのいたずらだという彼女は言う。

その言い分に、何かしら尋常でないものを感じた雪子は、この娘の力になってやりたいという衝動にかられる。

そしてライ落な校医の沼田(龍崎一郎)にこの問題を相談するが、意外な答えだったのでついなぐってしまう。

雪子はクラスの女学生たちを前に恋愛をテーマに講義しつつ、偽のラヴレター事件を直接生徒達に説いていく。

生徒達はその手紙がクラスメートが書いたものであることを認めるが、「学校のために」やったといい、その理由として新子が実際に六助という男性と親しく歩いていた事実を告げた。

雪子は生徒達の旧い男女間の交際の考え方を是正しようと努力するが、それはますます生徒達の反感を買うばかりだった。

教員仲間でも雪子の行動を苦々しく思い民主主義のはき違いなどといいつつ問題は次第に大きくなっていった。

新子はその渦中にあっても、高校生の六助や富永たちとつき合って行く。

ついに学園の民主化を叫ぶ名目で新聞にまで拡がり、沼田も黙っていられず、雪子の協力者となるが、深夜の道で暴漢に襲われる。

 

後編:

ついに学園の民主化を叫ぶ名目で新聞にまで拡がる。

沼田(龍崎一郎)の患者の一人である芸者の梅太郎(木暮実千代)は、うらみのある理事長の井口(三島雅夫)を相手にまわし、大いに気えんを吐く。

彼女の妹の和子も小さな味方として協力した。

ついに理事会の日がきた。

沼田医院を根城にして案を練る沼田、和子の父兄代理の梅太郎、ガンちゃん、雪子(原節子)も力がついてくる。

理事会は教頭の経過報告からはじまった。

井口が正面の会長席に座っている。

雪子は退席を命じられたが、どんな批判でも、はっきり伺いたいとがんばった。

いじわるい田中教師や、立場に困っている校長、教頭、熱心に説明している沼田。

雪子の理整然した答え。

梅太郎、ガンちゃん達の議論とユーモアのうちに理事会は展開されてゆく。

父兄達の異様な顔もほぐれて五分五分の態勢が七分三分となる。

形勢不利とみた井口は「これから最も民主的な方法で無記名投票で……」と提議したが、その結果は島崎先生を可とするもの十二票、生徒を可とするもの六票。

島崎先生の勝利であった。

しかし、その夜沼田はケガをした。

最早や争う必要もない、彼を看護する梅太郎、雪子--。

やはり生徒達の青春の躍動はおさえきれない。

次第に雪子や新子(杉葉子)達に理解の目が向けられてくる。

ラヴレター問題も同級生・松水浅子の策略だったことが彼女自身の口から解かれて行く。

晴れた日、和気あいあいとサイクリングに興じる雪子たちの姿があった。

浜辺に行き着いたみんなは、砂浜に座り、海を眺める。

すると、みんなの前で沼田が突然雪子にプロポーズする。

そして、雪子も沼田のプロポーズを受けいれたのであった。

男女同権、男女の恋愛は自由という新しい時代を象徴するような光景であった。

 

 

 

コメント:

 

社会派映画の巨匠といわれる今井正の初めての大ヒット映画。

この作品は、学園で起こった生徒間のトラブルを扱っているが、根底にあるものは「戦後民主主義」だ。

戦前までの女性蔑視の根深い風潮を破って、男女同権に基づく自由で明るく新しい社会を推進しようという息吹きが溢れる作品だ。

 

一見単なる学園ものに見えなくもないが、原節子、杉葉子、池部良らの強くて明朗な青年たちを通して、戦前からの男尊女卑を完全否定しようとする社会派ドラマになっているのだ。

事件は、杉葉子扮する女学生の正当性が認められ、恋愛論争が決着する。

龍崎一郎が演じるライ落な校医・沼田は、昔風な考えをあからさまに口にして、雪子からビンタを受けるような男だったが、次第に戦後の民主主義に傾いて行き、最後は雪子にプロポーズするという結末になる。

こういったストーリーを通して、今井正は、「時代は変わる」というメッセージを強く主張しているのだ。

 

女学生たちが指摘した、杉葉子扮する新子の行動に違和感を覚えたきっかけは、「女学生が他校の男子学生と並んで歩いていたこと」だった。

若い男女が一緒に並んで歩くことすら、不自然でいやらしいと感じられてしまうという。

今の日本では全く考えられないことだ。

この映画は、昭和24年の作品だ。終戦後4年だ。

 

文献によると、江戸時代では男女の二人連れは基本的にだめ。

街を歩くときは必ず男連れ、女連れ(奉公人と一緒など)にしていたという。 ... 

現代からみると理解しがたいが、大正時代の頃までこの風習のままだったという。

その根深い風潮が、昭和の時代にも残っていて、終戦直後も若い男女が仲良く並んで歩きながら談笑するなどという行為はふしだらだと思われていたようだ。

これを継承しているのが、森喜朗氏を筆頭とする戦前派の日本の男たちなのだろう。

「変われない日本」を象徴している。

 

 

 

原節子が、封建的な考えに縛られる田舎町を変えるため奮闘する熱血女性教師を演じている。

常に笑みを絶やすことなく、快活で明るい彼女の姿が眩しい。

美しさにも磨きがかかっており、ファッションセンスも抜群で、全く古さを感じさせない。

 

大ヒットした主題歌「青い山脈」の歌詞には、大きな意味を持つ部分があるという。

「古い上着よ、さようなら。淋しい夢よ、さようなら」という一節だ。

「古い上着」は軍服、「淋しい夢」は帝国主義を意味している。

 

こちらが、「青い山脈」の全歌詞:

 

若く明るい 歌声に
雪崩(なだれ)は消える 花も咲く
青い山脈 雪割桜
空のはて
今日もわれらの 夢を呼ぶ

古い上衣(うわぎ)よ さようなら
さみしい夢よ さようなら
青い山脈 バラ色雲へ
あこがれの
旅の乙女に 鳥も啼(な)

雨にぬれてる 焼けあとの
名も無い花も ふり仰ぐ
青い山脈 かがやく嶺(みね)
なつかしさ
見れば涙が またにじむ

父も夢見た 母も見た
旅路のはての そのはての
青い山脈 みどりの谷へ
旅をゆく
若いわれらに 鐘が鳴る

 

「青い山脈」はこれまで合計5本作られている。
監督(製作年)、寺沢新子役、島崎雪子役、六助役を並べて記述すると以下のようになる。
①今井正(1949)、杉葉子、池部良、原節子
②松林宗恵(1957)、雪村いづみ、久保明、司葉子
③西河克己(1963)、吉永小百合、浜田光夫、芦川いづみ
④河崎義祐(1975)、片平なぎさ、三浦友和、中野良子
⑤斎藤耕一(1988)、工藤夕貴、野々村真、柏原芳恵

評論家の評価は、圧倒的に最初の本作がベストとなっている。

 

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