岩下志麻の映画 「鑓の権三」 郷ひろみ主演! ベルリン国際映画祭コンペティション部門で銀熊賞! | 人生・嵐も晴れもあり!

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「鑓の権三」

(やりのごんざ)

 

 

鑓の権三 プレビュー

 

1986年1月15日公開。

近松門左衛門原作の、不義密通の濡衣を着せられた男女の道行きを描いた映画。

第36回ベルリン国際映画祭コンペティション部門において銀熊賞を獲得。

 

 

原作:近松門左衛門『鑓の権三重帷子』

脚本:富岡多恵子

監督:篠田正浩

出演者:

郷ひろみ、岩下志麻、加藤治子、津村隆 大滝秀治、三宅邦子、河原崎長一郎、竹中直人、浜村純、小沢昭一、火野正平、水島かおり、田中美佐子

 

 

あらすじ:

出雲の国、松江藩の表小姓、笹野権三(郷ひろみ)は器量は良く、槍さばさのみごとさでは右に出る者もない。

その上、茶の道にも通じていた。

彼は同家中の川側伴之丞の妹・お雪(田中美佐子)と末は夫婦と契ってはいたが、一日も早い祝言をと迫るお雪ほどには、性急に一家を構える情熱はなかった。

江戸表から、主君に御世継ぎが誕生したと吉報が届いた。

国許では近隣の諸国一門を招き、振る舞いの馳走のため、真の台子の茶の湯がなされることになった。

真の台子とは茶の湯の極意のこと、茶の道で名を成せば立身出世の道も開ける。

権三と伴之丞の茶道の師、浅香市之進(津村隆)が、主君の供で江戸詰、国許は留守とあって、両人のうち一人が殿中饗応の真の台子を勤めることになった。

権三は真の台子の伝授方を、市之進の妻・おさゐ(岩下志麻)に懇願する。

おさゐは伝授の替わりに、娘の菊(水島かおり)を貰ってくれと権三に頼みこみ、彼は承諾する。

権三と入れちがいに、浅香家を訪れたお雪の乳母は、そんなこととは知らず、おさゐに権三とお雪の関係を打明け、その仲人を頼み込む。

その夜ふけておさゐを訪ね、伝授の巻物を披見した権三は、お雪のことで嫉妬するおさゐの狂態に悩まされ、帯を庭先に放り出される。

その帯は、お雪が権三に贈ったものだった。

帯はかねてからおさゐに言い寄り、色仕掛けで伝授の巻物を奪い取ろうと庭先に忍びこんでいた伴之丞(火野正平)に拾われた。

不義密通を叫ぶ伴之丞。

世間への申し訳けも立たず、やむなくふたりは屋敷を出て、あてもなく逃れていく。

事件を知ったおさゐの弟・甚平(河原崎長一郎)は、遁走した伴之丞を追い、その首を討つ。

帰国した市之進は、息子・虎次郎を他家へ預け、菊とその妹・捨をおさゐの諸道具と共に舅の岩本忠太兵衛方へ送りつけ、妻敵討ちの旅に出た。

手に手をとって逃げるおさゐ、権三は、京都三条大橋に着いた。

権三は不義者として市之進に斬られる覚悟。

おさゐはどうせ冥土へ行くのなら、権三と夫婦の契りをかわしてからと、旅篭で激しく愛し合う。

宇治の川岸にかかる橋の上で、ふたりはついに市之進と出会った。

そして、彼の刀に倒れるのだった。

一件落着し、浅香家では遺児・虎次郎が亭主となり、茶を立てている。          

 

 

コメント:

 

近松門左衛門の作なので、この映画は心中物ではないが結末はやはり心中に近い終わり方になっている。

実際は誤解の不義密通なのだが、当時の法度では不義密通は密通された人間が敵討ちをしないと逆にお家が危なくなると言った不条理の時代だった。

郷ひろみ扮する権三がいい男すぎて、あちこちで二股かけたのがそもそも悪い。

 

アイドルからの脱皮を目指していた当時の郷ひろみの意気込みが凄まじい。

ひろみの時代劇役に徹しての乗馬の扱いは素晴らしい。

ひろみは、1年前のピカレスクロマンを描いた「聖女伝説」とは異なる別の大人の男を演じている。

無実の不義密通ではあったが、どうせ死ぬなら夫婦として共に死にたいと願う岩下志麻が「抱いてください」と泣いて懇願する姿には、追い詰められた人間の悲哀や惨めさと同時に、爆発寸前の官能を感じる。

 

プレイボーイ権三(郷ひろみ)はライバル・川側伴之丞(火野正平)の妹お雪(田中美佐子)と末を誓った仲だったが、殿に世継ぎが生まれたことから茶道の作法にてその祝を取り仕切る役を伴之丞と争うことになった。
伴之丞は茶道の師匠の奥方おさゐ(岩下志麻)に言い寄る様な破廉恥な男だが、権三は礼を尽くして教えを請いに行った。

そこで娘の婿になることを条件に秘伝書を見せることになったが、おさゐにお雪とのことがばれて言い争いになったところへ、忍んできた伴之丞に不倫と言いふらされてしまう。
おさゐは亭主の面目を保つため、不倫したことにして亭主に討たれる様懇願し二人で逃げる。
お定まりの女敵討ちとなるわけである。

 


近松門左衛門原作の話らしく、構成はしっかりしており、それぞれの登場人物の性格もはっきりかき分けられている。

同じ篠田正浩の「曽根崎心中は」抽象的なセットとカラーリングの面白さで見せたが、この映画ではオーソドックスでてらいがない演出をしている。
ラストシーンは何事もなかった様な孫子のお茶のシーンで終わるのでそれほど暗い感じは受けない。

 

この作品はもともとは、近松門左衛門作の人形浄瑠璃の世話物で、享保二年(1717年)に上演されたという。

出雲の国の松江侯の小姓・笹野権三は、槍の名手であり、茶の湯は同藩の指南浅香市之進の一番弟子であった。

若殿御祝言の茶の湯の席に出るため、市之進は江戸詰中なので、その留守宅を守る妻・おさゐに秘伝の伝授を頼む。

おさゐは権三に好意を持っていたので、長女との婚約を条件にこれを許す。

そしてその夜秘伝を受けるのだが、かねておさゐに横恋慕していた川側伴之丞は、恋の遺恨から二人に不義の濡れ衣をきせる。

はからずも不義者となり果てた二人は、市之進に討たれて男の一分を立てさせようと、手に手を取って駈け落ちするというストーリー。

帰国した市之進は妻敵討に出かけ、伏見で二人を討つのである。

 

 

「女敵討ち」というのは「めがたきうち」と読む。

寝取られた男が女房とその相手を討ち果たすことだという。

キムタク主演の「武士の一分」という時代劇映画があるが、それと同様の「武士の一分」を立てることがテーマらしい。

何ともめんどくさい話だが、江戸時代においては、「女敵討ち」とか「一分」とか「身分違い」とかいった厳しい掟のようなものが人々の生き方の規範になっていたようだ。

歴史を学ぶには良い作品といえる。

 

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