「不知火検校」
1960年9月1日公開。
盲人の按摩が出世して行く異色の作品。
「座頭市シリーズ」の先触れとなった記念作。
脚本:犬塚稔
監督:森一生
出演者:
勝新太郎、中村玉緒、近藤美恵子、鶴見丈二、丹羽又三郎、倉田マユミ、安部徹、須賀不二男、荒木忍
あらすじ:
不知火検校(荒木忍)に弟子入りしている按摩の杉の市(勝新太郎)は、子供の時から悪事に関しては異常な才能を持っていた。
ある日鈴カ森で癪に悩む旅人に出会った杉の市は、彼が大金を持っていると知ると巧みに殺害した。
偶然これを目撃していた生首の倉吉(須賀不二男)に脅迫されると、儲けは山分けとばかり即座に大金を与えた。
その気っぷに惚れ込んだ倉吉は、江戸での再会を約しその時の証拠として自分の掛守を渡した。
杉の市はその掛守を死人の手に握らせて立ち去るという狡猾さだった。
江戸に帰った杉の市が、ある晩治療に行った先の材木屋へ殺人強盗が入った。
それが生首の倉吉とその親分にあたる丹治(安部徹)、弟の玉太郎達であったのを幸いに、儲けの分け前を要求するとともに材木屋とその妾のおすみの妹・おきみを親切ごかしに我が家に引取り、彼女を無理矢理に犯してしまった。
おきみはその晩自殺した。
ある時旗本の岩井藤十郎(丹羽又三郎)の奥方・浪江(中村玉緒)が夫に内密で五十両の金の必要に迫られ、不知火検校に金策を頼みこんできた。
検校に断りの使いを命じられたが、杉の市は、自分が代って立替えると言い、毎日五両ずつ貸すから十日間通えと言うのだった。
その度に杉の市は浪江を抱いた。
しかし、これは夫の藤十郎にばれ、彼女は自害した。
これを知った杉の市は自殺を装って藤十郎の目をごまかし、しかも証文を倉吉に渡して借金の取り立てを忘れなかった。
悪事の数々を重ねた杉の市は丹治と玉太郎を使い、師匠を殺害、みずから二代目不知火検校を襲名した。
そして五年、二代目不知火検校として羽振りをきかせ、豊国の一枚絵になったおはん(近藤美恵子)を金の力で妻にしていた。
そのおはんに房五郎(鶴見丈二)という情夫があることを勘づいた検校は二人を殺した。
その頃、倉吉が奉行に捕われた。
倉吉は検校との悪事のかずかずを自白した。
検校の屋敷に町方が向かった。
そして岩井藤十郎も。
一方検校は数日後には獄門台に上る身とは露ほども思わず、将軍家姫君の治療を仰せつかってその幸運に酔っていた。
コメント:
デビュー以来、白塗りの二枚目として思うように人気が出なかった勝新太郎。
本作で悪行の限りを尽くす盲目の按摩(のちに検校)を演じて演技を開眼させたといわれる。
盲人の按摩の出世物語の映画「不知火検校」により、ようやく勝新太郎は一気に人気を博した。
勝新の名前を世に知らしめることができた画期的な作品だ。
そしてそれから2年後には、いよいよ「座頭市シリーズ」がスタートするのである。
この映画は、「不知火検校」というというめくらの悪人の典型を描くいわゆるピカレスク時代劇。
一方、「座頭市」は正義の味方なので、方向は違うが、めくらが目明きの人間たちをきりきり舞いさせるという点で一致している。
勝新扮する杉ノ市=二代目不知火検校の爽快なまでに徹底したワルぶり。
その凄まじさに引っ張られ、ラストまでグイグイと惹き込まれてしまう。
そんな悪役を嬉々として演じる勝新に圧倒される。
勝新太郎の怪演ぶりは半端ではない。
安部徹や須賀不二男などの悪役たちの存在感すら薄くなるような毒気がただよっている。
去年、歌舞伎座で幸四郎の舞台を観て、物語は面白いなと思ったものの、途中であくびが出た。
歌舞伎だと長くてかったるいのだ。
それに比べて勝新の輝くような悪の権化ぶりはどうだ!
ここまで役に徹した演技は、正邪の壁を超えて、役者としての開眼と言わざるを得ない!
惚れ惚れする。
中村玉緒が美しい!
勝新は、やはり映画での何度かの共演で惚れぬいて結婚したのだろう。
勝新が夢のシーンで目を開いて三味線弾いているシーンは笑える。
とにかく、勝新の演じる盲人、特に座頭時代が素晴らしい。