「悶え(もだえ)」
1964年10月3日公開。
平林たい子の「愛と哀しみの時」の原作を映画化。
若尾文子ファン限定作品として作られたような異色作。
脚本:舟橋和郎
監督:井上梅次
出演者:
若尾文子、高橋昌也、川津祐介、江波杏子、滝瑛子、藤間紫、多々良純、村上不二夫、中田勉、豪健司
あらすじ:
新婚初夜、妻という名の新しい人生の出発に、千江子(若尾文子)は、真新しい褥の中で、あわただしかった今日の一日を思い出した。
多勢の参列者の祝福を受けて、千江子は五井物産調査課長・上田庄一郎(高橋昌也)と結ばれたのだった。
そして思い出の一夜を箱根にもった二人だったが、何故か庄一郎は、千江子の横に臥しながら、千江子に触れようとしなかった。
泣いて問い正す千江子に庄一郎は、交通事故によって能力がなくなったことを告げた。
ショックを受けた千江子だが努力して、夫の回復を待とうと決心した。
翌日、ホテルで偶然友人のみつ子(江波杏子)に出会った千江子は、夫の部下で、みつ子の友人である青年・石川(川津祐介)を紹介された。
石川はその日、千江子の美貌にひきつけられた。
結婚一カ月が過ぎようとしていた。
だが庄一郎の努力も虚しかった。
互いに満しあえぬ日々に、二人の心の中は激しく苦悶していた。
そんなある日、千江子はみつ子や石川と箱根に旅行した。
箱根では石川が千江子の身体を求めて来たが、持ち前の機敏さで虎ロを脱すると、夫のもとへ帰った。
庄一郎は、二人の気持を落ち着かせるために、千江子に人工受胎をすすめた。
その頃石川は、伯母・白木須磨子(藤間紫)の世話で、神子島しづ子(滝瑛子)との婚約話が持ちあがっていた。
それを聞いた千江子は、かすかな嫉妬を覚えた。
やがて人工受胎を決意した千江子は、誰のとも判らぬ子供を産むのなら、石川の子供を産みたいと、石川をホテルに誘った。
だが、それに気づいた庄一郎は、ホテルの部屋に入ると、石川を殴り倒して、千江子をベッドに運んだ。
庄一郎の内部に、初めて荒々しい感情が燃えたのだ。
千江子は、厚い男の胸に顔をうづめて初めて幸福の正体をつかんだのであった。
コメント:
この映画DVDジャケットを手に取ると、タイトル『悶え(もだえ)』と表紙写真が「下着姿の若尾文子」というだけで、本作の分類は「エロス」にされてしまいそうな色っぽさが迫ってくる。
実際に映画本編も、かなり艶やかな映像であり、若尾文子が新婚の夫に肩を見せる姿だけで、もう大変!
本作は、昭和30年代を舞台にしたカラー映画なので「へぇ~、昔はこうだったのか…」と思わせる描写が多々あるが、そうした雰囲気を軽々と超越した若尾文子の美しさは見事。
映画は、結婚式シーンから始まる。
夫(高橋昌也)と妻(若尾文子)は、高級結婚式場・椿山荘から自動車&列車で新婚旅行に行く。
その列車の中で新妻の思うこと…
「私は今、結婚という門をくぐる。今宵から娘でなくなる私。その不安と期待に胸がときめく…」
という心の声(若尾文子の声)がイイ。
処女のままで結婚式を迎えた女性のつぶやきだ。
現代ではほぼあり得ない気もするこの言葉がかえって新鮮だ。
冒頭はヘアスタイルやしゃべり口調に時代が感じられ苦笑するが、それを超えてしまう若尾文子の美しさが異常。
露骨な表現はほとんどないが、若尾が肩まで肌を露出させただけで、画面に官能が溢れかえるのだ。
ここまで若尾文子という女優は自らの演技力を上達させたということだ。
「青空娘」(1957年)で見せた天真爛漫な彼女の表情からは全く想像できないレベルにアップしている。
女優と言う職業が、熟練により天地ほどの差が出てくることの典型的な例だ。
不能状態の夫が興奮してことに及ぼうとする時に決まって出現する抽象的表現はインパクト大だが、いまや完全にギャグで爆笑必至。
妻を誘惑するプレイボーイの石川が義理の伯母とまで関係を持っているのも面白い。
また夫の不能を電気で治療しているという医者のキャラクターも、見えているのにいつもサングラスで、しかも彼女の不幸をいちいち言葉に出したりと、いかにもうさんくさくていい。
当時は法に触れる行為だった人工受胎の闇診療所の危ない感じと若尾の美貌のギャップが刺激的だ。
この映画は、DVD入手が困難。
TSUTAYAやGYAOでも、レンタル、購入、ネット配信すべて不可能のようだ。
ヤフオクかメルカリなどのオークションサイトで見つけるしかない。