「侍」
(さむらい)
1965年1月3日公開。
桜田門外の変を背景にした、奇想天外なサスペンス映画。
三船プロダクション製作の2本目の映画作品。
脚本:橋本忍
監督:岡本喜八
キャスト:
- 新納鶴千代:三船敏郎
- お菊/菊姫(二役):新珠三千代
- 栗原栄之助:小林桂樹
- 星野監物:伊藤雄之助
- 木曽屋政五郎:東野英治郎
- みつ:八千草薫
- 住田啓二郎:稲葉義男
- 増位惣兵衛:平田昭彦
- 羽山市五郎:江原達怡
- 稲田重蔵:中丸忠雄
- 小島要:大辻伺郎
- 萩原又三郎:天本英世
- 板村勝之進:黒沢年男
- 森川精一:当銀長太郎
- 八重:田村奈巳
- 長野主膳:市川高麗蔵
- 藤堂帯刀:藤田進
- 西川忠左衛門:寺島貢
- 一条成久:志村喬
- つる:杉村春子
- 小船の武士:田島義文/桐野洋雄
- 浪人:長谷川弘/常田富士男
- 備前屋辰吉:沢村いき雄
- 松平左兵督:市川中車
- 井伊直弼:松本幸四郎
あらすじ:
万延元年二月十七日。雪降る桜田門を、水戸浪士・星野監物(伊藤雄之助)を首領とする同志三十二名が、登城する井伊大老(松本幸四郎)を狙っていた。
しかし、なぜか井伊は登城を避け、暗殺計画は失敗に終った。
相模屋に集合した同志は、副首領・住田啓二郎(稲葉義男)の「この中に裏切り者がいる」との言葉に騒然となった。
その日から星野と住田は裏切り者の探索に乗り出した。
そして浮びあがったのは、尾州浪人・新納鶴千代(三船敏郎)と上州浪人・栗原栄之助(小林桂樹)の二人であった。
鶴千代は、出生の秘密も知らず、孤児として成長し、浪人として食いつないでいたが、ある日、捕吏に追われる小島要(大辻伺郎)ら水戸浪士を助け大老暗殺計画の一味に加わったのだった。
「天下にときめく大老の首をとって、侍になる」という鶴千代の夢は広がった。
一方、栄之助は町道場で代稽古をつとめ、文武に長じた穏かな家庭人で、みつ(八千草薫)という美しい妻があったが、井伊大老のやり方に反抗して同志となった。
この二人は鶴千代が道場破りに現われて以来の友人であったが、栄之助の妻みつと、大老と親しい間柄である松平左兵督の側室お千代の方とは、姉妹であったことから二人は、萩原又三郎の疑いをうけたのだった。
疑わしき者は斬る星野監物の強い信念で、武勇をみこまれた鶴千代がその役に指命された。
その頃、鶴千代は相模屋の女将お菊(新珠三千代)に、かつて鶴千代が慕情を寄せた一条成久の息女・菊姫(新珠三千代)の面影をみて、泥酔する毎日であった。
星野から話を聞いた鶴千代は、涙ながらに栄之助に斬りかかった。
だがその後、裏切り者の正体は、同志の参謀・増位惣兵衛(平田昭彦)と判り、即日、斬殺された。
その後、暗殺の日は三月三日と決定した。
だが、鶴千代の出生の秘密を知った監物は、鶴千代に刺客を送った。
鶴千代の実父は、井伊大老であったのだ。
決行の日、刺客を倒して、桜田門外に走った鶴千代の刀に、実父・大老の首はかかり、侍の栄達をめざす鶴千代には会心のほほえみがあった。
コメント:
こんな話があるのかという奇想天外の時代劇。
完全にサスペンス映画になっている。
井伊直弼暗殺の桜田門外の変に題材を得て、直弼を殺し、首級をあげた男・新納鶴千代の正体を描いた作品だ。
出生の秘密、襲撃メンバー内の内通者のあぶり出し、決行前日の鶴千代に迫る刺客たち。チャンバラ活劇の要素をしっかりと見せながらも、サスペンス映画としても第1級のストーリー展開となっている。
撮影現場を見てみたい、岡本喜八監督のセンスが光る作品。
ストーリー展開を追うよりも、映像のつくり、場面の展開に目がひきつけられる。
1カット1カットをきれいにていねいに積み重ねてつくられているモノクロ作品。
ラストの雪の中の立ち回りシーンは、よくあそこまで撮れたなと思う。
全体を通して、顔のアップ、ズームをうまく使っている。
黒澤映画に出演するときの三船敏郎と、岡本喜八監督作に出演する三船は明らかに違う。
本作は喜八時代劇の三船の見納めであり、感動的でさえある。
それは、まずプロットが巧みなこともあるが、ラストの立ち回りは長く印象に残る秀逸な作品だ。
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