「仁義なき戦い」に代表されるやくざ映画には、私たちがいつも使っている日本語にはない不思議な言葉がたくさんあるようです。
理解し難い言葉がしきりにヤクザの世界では使われているのです。
その言葉の意味を知っていないと、せっかくやくざ映画を見ても堪能することは困難です。
いくつか代表的なヤクザ用語をご紹介しましょう。
1.仁義(じんぎ)
ヤクザの世界で、最も大切なのは、「仁義」です。
ヤクザの憲法です。
親となり、子となった、親分と子分の関係、そして、親分同志が義理の兄弟として契りを交わした義兄弟の関係を基盤として、ヤクザ社会は成立したといわれています。
それを歌で表したのが、北島三郎の「兄弟仁義」です:
お聞きください。
「仁義なき戦い」は、本来のやくざの常識であった「仁義を守る」ことを超越した新しいヤクザの世界を描いたものでした。
以前のやくざ映画といえば、鶴田浩二などが演じた「最後までやくざの親子、兄弟の義理を貫くこと」がテーマになっていました。
こちらは、鶴田浩二の代表曲「傷だらけの人生」です。
お聞きください。
その常識を打ち破った、現実の暴力団の姿を、広島抗争の記録を元に制作した映画が、「仁義なき戦い」なのです。
2.渡世人(とせいにん):
本来、「渡世」というのは、生活していくための職業のことで、なりわい、生業、稼業 (かぎょう)ともいいます。
「物書きを渡世とする」といえば、「作家を職業とする」という意味です。
ヤクザは関係ありません。
ところが、「渡世人」というと、話が違っています。
この「渡世人」という意味は、「やくざを職業とする人」です。
まず、やくざの世界に入るには、しきたりが最も大切と言われています。
渡世上の親は、親分だと言われています。
江戸時代に始まったといわれている渡世人の世界は、群馬県の国定忠治とか、静岡県の清水の次郎長などが有名です。
昔は、百姓の次男以下は田畑の相続が出来ず、そのために仕事にあぶれた若者が多かったようです。
また、親が先に亡くなり孤児になってしまった者や、犯罪で捕まり前科者となってしまった者などの救済先として、侠客という職業が必然的に生まれ、それが発展した形で「やくざ社会」が形成されたという見方があります。
渡世の道に入る第一歩は、自分の面倒を見てくれる親分と「親子の盃を交わす」ことから始まります。
その時点から、親分と子分という関係が開始します。
そして、他の親分を訪問した際は、決まりに基づいて「ごあいさつ」をしなければなりません。
そのごあいさつを、「仁義を切る」といいます。
「フーテンの寅」で寅さんがやっていた「仁義の切り方」は。テキヤの流儀です。
ヤクザの仁義の切り方が分かる動画がこちら:
「昭和残侠伝」という名作における、池辺良と菅原謙次のやり取りです。
ちょっとめんどくさい挨拶ですが、相手への気遣いが見えるヤクザ独特の初対面のあいさつです。
3.あや:
「文」という字があります。
どう読みますか。
「ぶん」とか「ふみ」とかが普通の読み方ですが。
「あや」という読み方もあるんです。
「若尾文子」という女優がいますね。
「わかお あやこ」です。
この「あや」というのは、物事のすがた、かたちという意味があるようですが、さらに転じて、「言葉や文章の飾った言い回し。表現上の技巧」という」意味で使われることがあるようです。
この「あや」を使った独特の表現が、ヤクザの世界にはあります。
「あやをつける」という言い方をします。
これは、「文句を言う」、「因縁をつける」という意味です。
よくヤクザやチンピラのシーンで、「肩がぶつかった」とか、「目つきが悪い」とかを理由にして、人に誤らせること、謝罪させて「落とし前」を取り上げることがよくありますね。
金を取るための、最初のステップでもあります。
要は、ケチをつけて、怖がらせて、金をとる手段です。
4.しのぎ:
「しのぎ」とは、暴力団関係の団体・人物が収入を得るために使う手段をいいます。
本来は、日本の刃物(日本刀・和包丁)の、刃と峰の間の膨らんでいる部分のことのようです。
ヤクザというのは、実際の職業ではありません。
「ヤクザ屋です」と言っても、どこからも収入はありません。
ヤクザはヤクザなりに、工夫して収入を得ています。
といっても、全部非合法ですから、マネをしてはなりません。
彼らの金になる仕事をリストアップしてみましょう:
①みかじめ料
「みかじめ料」とは、もともと暴力団社会で使われている用語の一つです。
「縄張り」という言葉もヤクザ社会では常識化していますが、自分の縄張りの中で、そこの風俗関係、飲食関係の企業から徴収するお金のことです。
暴力団は、縄張りという自己の勢力範囲で資金活動などをしているわけです。
縄張り内で風俗営業等の営業を行う者に対して、その営業を認める対価として払わせます。
その用心棒代的な意味をもたせて、挨拶料、ショバ代、守料(もりりょう)など様々な名目で金品を要求し、この要求に応じた者にこれを月々支払わせています。
暴力団にとっては、伝統的でしかも重要な資金源の一つとなっています。
この「みかじめ料」の語源として、毎月3日に支払わせるという説や3日以内に支払わなければ、その店を締めあげるという説とがありますが定かでありません。
また、守料、用心棒代などを「カスリ(掠り~上前をはねる)」ともいっています。
暴力団がこうした「みかじめ料」を徴収しようとする対象業者はいろいろですが、特に、バー、スナック、クラブ、ソープランド、飲食店、パチンコ店、ゲームセンター、麻雀店などが多いといわれています。
暴力団が、「みかじめ料」を要求する手口はいろいろですが、新規営業店などに対して、以下のようなセリフで「あや」をつけます。
「この辺りは、うちの組が取り仕切っている!」
「誰に断って商売しとるんや!」
「みかじめ料」を要求し、断られれば集団の威力を示して威嚇し、あるいは要求が容れられるまで執拗な嫌がらせ行為を繰り返すのです。
ところが、この「みかじめ料」の徴収事案について、平成時代の大きな変化がありました。
従来、被害申告が行われず潜在化する傾向にあったことや、現行法下では、即犯罪として捉えることが難しい場合が多かったのですが。
平成4年に新しい「暴対法」と称する法律が施行されたのです。
この「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」によって、みかじめ料は、「暴力的要求行為」の一つとして、改めて禁止し中止命令の対象行為となりました。
これによって、「みかじめ料」徴収事案は、これまで以上に封圧することができるものとなったのです。
②仲介業
ビジネスの世界は、従来からのしがらみで新しい取引を開始することが簡単ではありません。
そんな場合に、ヤクザと関係が深い不動産業や飲食業、風俗営業などに声を掛けて、新しい取引を仲介するケースです。
いわゆる口利きですが、ヤクザの場合は、因縁をつけて強引に取引を迫るようなやり方が殆どです。
③賭博業
これもヤクザの伝統的な仕事です。
正規に認められていない丁半ばくちや、花札賭博、地下室の非公式ルーレットなどの賭博運営業です。
いわゆる裏稼業といわれている非公式なビジネスの典型で、世界中で行われているものです。
④密輸業
日本では最近輸入製品の規則がますます厳格化していますが、ヤクザは法の網の目を潜って、宝石、貴金属、現金、動植物などの輸出入を行っています。
海上でのセドリも常とう手段です。
⑤麻薬商品販売業
世界中にはびこる麻薬関係商品の運び屋、卸売、小売の仕事です。
「ポン」という言い方があります。
大日本製薬の商品名「ヒロポン」の略称に由来するようです。
覚せい剤の一種・メタンフェタミン系中枢神経刺激薬の隠語です。
現在では、シャブ、スピード、エスなどと呼ぶのが一般的なようです。
- ⑥オレオレ詐欺
ご存じの、高齢者などを対象にした電話を使っての金銭詐欺行為です。
⑦代理殺人
最近ではあまり聞かなくなりましたが、昔は、一般人からの要請で、殺人を代行していた例があるようです。
さて、この「しのぎ」を巡っての組同士の抗争や、親分と子分との間のいぜこざが、ほとんどのやくざ映画の背景になっています。
分かりやすい例を、「仁義なき戦い」のシーンから:
親分の山森組長(金子信雄)と子分の坂井(松方弘樹)とのやり取りです。
これは、しのぎを巡っての親子のトラブルを表現しています。
5.あねさん:
「姐さん」と書きます。
「姉さん」ではありません。
親分や目上の女房のことを表す言葉です。。
姐御(あねご)、おアネエサンとも呼ばれることがあります。
親分が渡世上の親なら、親分の奥さんは母親という存在であるはずですが、母親よりも格の低い「あね」と呼ばれるのです。
そう呼ばれることが女に権力を持たせないやくざ社会を象徴しているという説があります。
やくざは女性を大切に扱いはしても、男と対等の存在であると見てはいないので、『極道の妻たち』シリーズの岩下志麻のような男顔負けの姐さんは実際には、存在しないようです。
夫である組長が死亡した後、妻である姐さんが女組長となった松田組の松田芳子姐さんや、次代の組長が決まるまで姐として権力を振るった小原組の小原光子姐さん、山口組の田岡フミ子姐さんといった実例はあるようです。
こういった例は、例外中の例外といえるようです。
ほかにもユニークなヤクザ用語がたくさんありますので、今後ご紹介して行きたいと思います。
今日はここまで。