SARS シンガポール2003年の記録とコロナの現状 | 私の回想録 

私の回想録 

レミニセンス - 回想録。
過去の記憶を呼び返しながら、
備忘録として残したい。
記事が長いが何とぞご容赦ください。

私のシンガポール駐在時代、広東省で発生した新型ウイルス、SARSによる感染がシンガポールにも拡大した。その時のSARSに関する興味深い記録が見つかったので公開してみたいと思う。

 

 

2003年4月11日の日報

 

シンガポールにおける、悪性肺炎SARSに関する情報を報告申し上げます。

先ほど社長より、メッセージを頂戴しました。ご心配をかけまして誠に恐縮しております。当日報にて最新の情報が配布されますれば幸甚に存じ上げます。 

シンガポールにおいては、確かに感染者は出ており、日本の外務省よりシンガポールへの渡航に対し「十分注意」との危険情報が出されております。しかし日本人駐在員の日常生活において何ら変わることなく、かえって日本側の過敏な反応に戸惑っているのが現状です。どうかご心配なきようお願い申し上げます。

 

4月10日時点で報告された感染者数は133名、その内の77名が回復・退院しており、残る34人が入院中。13人が重体、これまでの死者は9名です。

 

シンガポールでは、感染者をタントクセン病院のみに完全隔離しており、また空港、港においても厳しい検疫体制がとられております。万一感染の疑いのある者がでても、必ず自宅に待機し、専門の救急車にて搬送する命令がでるなど、様々な感染予防措置、対応策が十分にできております。教育省も先月27日から閉鎖されていた学校を、9日から漸次再開することにしております。街中も特にマスク装着者はおりませんが、手洗い、身の回りを清潔にすることが励行されております。

 

シンガポールでのSARS感染は、最初の1名の国外感染者が20名に広め、その20名の2次感染者の中から3名の非常に感染力の強い患者、スーパースプレッダーが現れ、それが現在の国内感染者に広めたと言われております。WHOはこれまでの対策から、シンガポール国内でのSARS感染の終息が近いとの認識を示しておりますが、事態を見極めるため、潜伏期間に相当する1-2週間、さらに様子を見るとしております。

 

旅行者が激減しているのと、家族連れでの外食が控えられているので、夜のレストラン等はガラガラの状態です。SARSの影響でまた景気回復に遅れがでることは明らかと思われます。

 

2003年5月28日の日報

 

SARSに関し、先月28日より新たな感染者がなく、18日には安全宣言がでると期待しておりましたが、その直前にシンガポール在住のマレー人の感染が確認されてしまい、克服へはあと少しの状況です。今月31日までに新感染者がない場合、SARS克服宣言となる見通しです。シンガポールは国際的に評価される対策を実施しておりますので、今度は大丈夫と思われます。従業者に対する出勤時の検温などが大半で実施されている以外は、生活に影響は及んでおりません。一時は繁華街の人出が減りましたが、今はほぼ回復してきております。

 

2003年6月20日の日報

 

5月31日にSARSの感染リストからシンガポールが除外されて以来、街中は以前の人出を完全に取り戻しております。

特にシンガポールの銀座と呼ばれるオーチャード通り、人出の減少が特に大きかったチャイナタウン、自粛令が出ていた日本人飲み屋街のカッページエリアも以前の活況を取り戻しつつあります。

5月には70%近くにも達した来訪者の減少による打撃が大きかった航空、ホテル、観光業界も6月に入り、次々と観光客誘致策を出して、また政府も大幅な援助を実施し、回復にかけての対策を次々と実施中であります。しかし見通しとしては完全に回復するのは来年に入ってからとの悲観的な予測となっております。

製造業その他の業界もSARSの影響で業績が落ち込み、第2四半期は約マイナス2%成長、第3四半期もゼロ成長との見通しとなっております。失業率も悪化し、更に減給の実施などSARS、及びイラク戦争の及ぼした影響は深刻です。

ただ、人心が荒れることはなく、どんなことがあっても最後は政府が助けてくれるという、シンガポール国民の政府への信頼が、日本との決定的な違いと思われます。

 

さて現在のシンガポールはというと…

 

2020年5月現在、シンガポールにおいては、新型コロナウイルス COVID-19の二次感染爆発が外国人労働者の寄宿施設から発生し、これまで完璧と思われていた検疫対策の上手の手から水が漏れてしまった。2003年のSARSとは比較にならない強力な感染力と重篤症状を引き起こすCOVID-19。淡路島ほどの小さい面積の国の緊急事態である。

 

シンガポール保健省(MOH)は,シンガポール国内における感染者数を次の通り公表している(2020年5月1日現在)。

 

感染者数17101名(累計),退院者数1268名(累計),死亡事例16名(累計)。

また,当地における感染者の急増要因となっているドミトリーやロッジと呼ばれる専用居住施設(寄宿舎)に滞在する建設現場等のワークパーミット所持外国人労働者感染者数を次の通り併せ公表している。

 

新規症例932件中、905件はドミトリーに居住するワークパーミット所持外国人労働者。ドミトリ-外感染者数は16件。一般国内感染症例は11件。

 

シンガポールの発展は彼ら外国人移民労働者が支えてきた1面がある。彼らの人権を表面上は尊重してきたが、ドミトリーの写真や移動するトラックの荷台に大勢が乗車する写真を見てみると、明らかに三密。感染を拡大する環境を作ってしまった。

今回は非常に深刻な事態である。

 

外国人労働者のドミトリー  自国の住まいよりはるかに良いらしい

 

労働者はこのようなトラックの荷台に乗って現場に向かう

13 PAX とは13人乗り

 

しかしシンガポール政府の対応は早い。 (以下は日経新聞の記事から抜粋)

 

シンガポール政府は既に新型コロナウイルスの感染者が急増する外国人労働者の待遇改善に乗り出している。スマートフォンの画面越しに医師の診察を受けるオンライン診療を導入するとともに、「3密(密閉・密集・密接)」を防ぐ施設の整備を迅速に進めている。

「仮住居施設」と呼ばれるこうした建物を訪れると、新型コロナの感染を抑制した後の課題も見えてくる。

中心部リバーバレー地区に近い地下鉄トムソン・イーストコースト線ハブロック駅の工事現場。その一角に現場の安全点検業務などにあたる18人の外国人労働者が住む施設がある。政府が整備を急ぐ「仮住居施設」の一つで、労働者は感染リスクの高い外国人寮から2月以降に移ってきた。

施設はエアコンが効いており、労働者が寝るベッドは2メートル以上の間隔が確保されている。2段ベッドで1部屋に10人以上が住むことも珍しくない外国人寮(ドミトリー)と比べ、「3密」が発生するリスクは格段に低い。既にこうした施設は全土に100以上あるという。

寮からこの施設に移ってきたバングラデシュ出身のシャミム・カーンさん(35)は「広いだけでなく、Wi-Fiで母国にいる家族とビデオ通話もできる。施設には満足」と話す。政府は労働者の待遇に配慮する一方で、休日でも施設外に出ることを禁じ、接触による感染リスクを最小限に抑えようとしている。

 

シンガポールの13日時点の新型コロナの感染者数は約2万5千人。このうち9割が寮に住む低賃金の外国人労働者で、これ以上のクラスター(感染者集団)の発生を防ぐ対策が急務になっている。政府は1日発表した外国人労働者向けの対策で新たな寮の建設に言及。3密を避ける「仮住居施設」の仕様は、新型コロナを受けた外国人労働者向け住居のモデルとなる。

 

ただ新たな施設のために用地を確保し建設を完了するまでには時間がかかる。よりコストのかかる施設への転換で労働者を確保する費用も増える。外国人労働者の多くは公共住宅などの建設に従事しており、建設コストの増加などの形で最終的に国民に負担が及ぶ。

一般社会と隔絶した狭い寮に外国人を押し込めるモデルは、合理性を追求するシンガポールで長年機能してきたが、新型コロナで持続が困難になった。シンガポール社会全体がモデルの限界を認め、負担増を受け入れる必要がある。

カーンさんは母国よりも経済的に発展したシンガポールで、今後も働き続けたいという。ただ、以前住んでいた寮に戻りたいかと問うと、即座に答えが返ってきた。「ノー(嫌だ)。ここの方がずっと安全だからね」

 

シンガポールの感染者数に対する死亡率は0.08%と、日本 4%,、USA 6%と比べて圧倒的に低い。別の角度から見ると、感染検査率(PCR、抗体検査併用)が極めて高く、陽性感染者をしっかり把握できていると考えられる。

 

迅速な対応と有無を言わせぬ実行力、そして優秀な医療体制。外国人労働者を疎外することなく進められれば、シンガポールの感染は一気に収束に向かうように思われる。

 

 

  カーンさんが暮らす仮住居施設。十分な Social Distancing が

  確保されている。