小泉今日子 『魔女』 (1985年) | 昭和レトロサウンド考房

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小泉今日子 『魔女』 (1985年)
作詞:松本隆 作曲:筒美京平 編曲:中村哲

いわゆる小泉今日子全盛期 といってもいい1985年の作品であるが、今ひとつ地味な存在である。
秋元康氏が仕込んで42万枚を売り上げた同年のシングル『なんてったってアイドル』の存在が大きすぎるのかも知れない。
『なんてったってアイドル』が商業音楽的な側面が強いのに対し、『魔女』には、いわば純文学的?な清貧さ?が感じられる。
実際、CMやTVドラマなどの主だったタイアップは無い作品である。
とはいえ、オリコン週間第1位は獲得しており、商業的成果も小さくない。
 
さて、楽曲。
16ビート刻みのメロディーが淡々と展開される曲である。
まずAメロから見てみよう。


小節単位の音型を高さを変えながら3回繰り返し、4回目に異なる音型で締めくくる手法。

この音型の後半 は、南沙織『早春の港』のAメロにも同一のモチーフが見られる。筒美先生が常用されるモチーフだろうか?筒美作品における使用頻度を機会があったら計測してみたい。

歌のメロディーが各和音の9thの音をアクセントにしている点も特徴的である。

Ⅰ→Ⅵ→Ⅱ→Ⅳm  というコード進行は、先日取り上げたTOKIO 『AMBITIOUS JAPAN!』サビのコード進行と本質は同じである。(※ⅣとⅡはカデンツ機能的には同じ)

これらコード進行の最も重要な点は、4小節の最後を 長調におけるⅣmで締めくくっている点である。Ⅳmの効用は散々当ブログで書いた。なんともいえない「優しい切なさ」を付加する筒美先生御用達の和音なのである。


次に、♪魔女になりたいの絶対~♪ の絶対(ぜったい)のリズムに着目してみたい。

さきほどのAメロは小刻み(16分音符単位)に動く、ナイーブ、デリケート、繊細さを感じさせる動きであった。
対して、この「ぜっ たい!」のリズムは何のシンコペーションも無い、ベタな4分音符そのままである。
このリズムは、日常会話において「おれは必ず~する。ぜったい!」と決意を語る際のリズムに擬態している。
魔女になりたい女の子の “不器用ながらも切実な想い” が強調され、聴く者に「いじらしい」と感じさせる効果があると推測する。
かっこいいリズムだけにこだわってしまうミュージシャンなら選択しないメロディー(リズム)であろう。


コミカルで軽快なアレンジは、ラブコメディーに出てくるような変装劇によく合っている。
メロディーも伴奏も大きな起伏がなく淡々と展開される曲であるが、情感はむしろ強い曲である。
松本隆氏の編み出した虚構の女の子とはいえ、おそろしいまでのジェラシー。
平静を装った裏で燃やす恋慕の心。
自己嫌悪からくる変身願望。

音楽が軽快で爽やかなだけ、この子の切実さに一層胸を打たれる。


(※後日、加筆・訂正する場合がございます。)

youtube動画 小泉今日子 『魔女』 (1985年)