ル・ミストラル 『青い地平線』 (1978年)
作詞:なかにし礼,LINDA RHEE 作曲:筒美京平
70年代後半。朝の情報番組『おはよう700』 (TBS系列)にはキャラバンIIという人気コーナーがあった。
車で外国を旅する企画で、『ビューティフル・サンデー』、『カントリー・ロード』、『バタフライ』など、その背景に流すテーマソングが代々ヒットするという現象を生み出した。中学生の頃、朝ごはんを食べながらよく見ていたものである。
最初の『ビューティフル・サンデー』から外国曲が5曲続いたが、6曲目に日本人が歌う『青い地平線』が採用された。
歌っているのはブレッド&バターという兄弟なのだが、当初それは秘匿されてル・ミストラルという名義で公開されたとのこと。高音域をカバーするソフトな声は後年登場する稲垣潤一を思わせる。
当時、世の中はディスコがフィーバーしていた頃で、その影響あってか ”2拍4拍のスネアに重点が置かれた正確なリズム” である。
しかしベースの動きなどを見ていると『オリーブの首飾り』に近いかもしれない。イントロやメロディーに絡むオブリガードに使われる楽器もエキゾチックな感じ。
そういえば、この曲はキャラバンIIのヨーロッパ編に使われていた。想像の域を出ないが「ヨーロッパをイメージするように」という要請もあったかもしれない。
とはいえ、サビのコードはかなり jazzyである。今回はこのサビ部分をピックアップしたい。
特徴的なモチーフ ♪Dreaming♪ と ♪wanting♪ は、まったく同じ音形であるが、前者はDm9の9thが、後者はFM9のメジャー7thが、メロディーのアクセントノートに当てられている。アクセントノートに当てるということは、そのモチーフの核心(重心)が、9th や メジャー7thであることを、より強調する意図がある。
狭義のジャズスタイルとはいえないが、ジャズテイストな響きではある。
2小節目の和音GはC長調のドミナント(Ⅴ)にあたるので、古典的な機能和声としてはトニック(Ⅰ)に進行するべきところだが、サブドミナント(Ⅳ)のFM9に逆進行している。実は7thや9thなどのテンションを重ねてゆくと、機能性が和らぐというかあいまいになるのである。
FM9はトニック的な構成音(ド、ミ、ソ)も含んでおり、もはやサブドミナントなのかトニックなのかはっきりしなくなる。
このあいまいさが逆にジャズ的響きを強調するのである。フュージョンが普及する80年代以降では、めずらしい手法ではないが、この頃の歌謡曲としては先駆的であると思う。
6小節目のD7は本来G に進むことを期待させる借用和音であり、C長調では特別な響きを持ち、当曲の中で最も意外性を感じさせる和音である。
歌のメロディーは、♪I Know~♪ と小規模に終止させているが、 D7 の特別な響きは、その終止を彩るかのように使われ、実際にはGには進まない。
和音 D7 の第3音 ファ# は、原スケールに無い音であり、それをあえて歌のメロディーに使用している。 これは伴奏にたよらなくとも歌だけで意外性を感じさせられることを意味する。
意外性のある和音を、メロディーの重要箇所と一致させる巧妙さ。 簡単なようで上手くはめるのはけっこう難しい。
筒美京平先生のこういうセンスは、他の追従を許さないものがある。
youtube動画 ル・ミストラル 『青い地平線』