お宝文献発掘② 伊福部 昭 『管弦楽法』 下巻 | 昭和レトロサウンド考房

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お宝文献発掘② 伊福部 昭 『管弦楽法』 下巻 音楽之友社

お宝文献発掘というよりは、「宝の持ち腐れ」というシリーズにした方がいいかもしれない。
当ブログを書くようになって、自宅の押入れや事務所倉庫にホコリをかぶって眠っているレコード、CD、楽譜、教科書、雑誌を発掘することが増えた。 雑誌のオマケの歌本から立派そうに見える書籍まで色々ある。 中には買った覚えがないものまで・・・うーん謎だ。

その中でひときわ分厚い本があった。「伊福部昭 著」と書いてある。伊福部・・・今さらながら、うひゃっ!だ。
 
伊福部昭さんといえば、一連のゴジラ作品(東宝 1954~1995年)など特撮映画の音楽を手がけていることで有名。
わたしの好きな映画音楽『八甲田山』を手がけた芥川也寸志さんの師匠にもあたる。

この本は高校3年生の時、姫路市の書店でふと目にして買ったように思う。
単純な私のことだから、これさえ読めばオーケストラの曲が書けるようになると浅ましく考えたにちがいない。
値段を見ると4000円と書いてある。2か月分の小遣いがふっとんだはず。上巻ではなく下巻なのは、たまたま下巻しか置いてなかったという単純な理由だと思う。
ぶっちゃけ、読んでみたらさっぱり理解できず、早々に放り出してしまった。

この本を手に取ると芸大受験の面接(1982年)を思い出す。
面接官は作曲科の 七ッ矢博資教授(当時、助教授)だった。
「君はどんな本を読んでるか?」とたずねられた時に、とっさに 伊福部 昭 『管弦楽法』と答えてしまった。すると七ツ矢先生は「君!それは今、絶版になっていてなかなか入手できない貴重な本なんだよ!」とたいそう驚かれた。
しばし呆然としている私の顔を見て(ああ、この子は理解してねーな)と察したようで、それ以上たずねられなかった。
伊福部昭さんが凄い人だと知ったのは、ずっと後のことである。当時、歌謡曲ばかり聴いていた私にはわからなかった。
なんとも苦々しい思い出である。

さて、この「下巻」の内容だが、主に人間の聴覚のしくみや、楽器の音響特性 などが書かれていて、なぜか理系的な内容ばかり。
一般的な管弦楽法本に書かれるような楽器の用法、オーケストラの構成などは、おそらく「上巻」で完結していたのだろう。
各楽器の固有の周波数特性(共鳴特性)の図までが詳細に載っており、これはもはや音響工学。自然科学系の学者の仕事である。
一流の音楽家でも、音色スペクトルまで計算に入れてスコアを書く人は少ないのでは?と思う。

伊福部昭さんは、音楽の英才教育を受けてきたわけではなく、作曲もバイオリンもほとんど独学でマスターしてきた。 専門は林業技師なのである。
太平洋戦争中は、戦時科学研究員として放射線による航空機用木材強化の研究に従事したとのこと。

伊福部昭さんは、音楽家であると同時に科学者であったのだ。


youtube動画  伊福部 昭  『怪獣大戦争』(自衛隊マーチ)