◎ゴー・ジャズ・アフター・アワーズ~吉成伸幸さんのサンフランシスコ1969~1972 | 吉岡正晴のソウル・サーチン

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◎ゴー・ジャズ・アフター・アワーズ~吉成伸幸さんのサンフランシスコ1969~1972

【Go Jazz After Hours : Yoshinari Bobuyuki 1969-1972】

アフター・アワーズ。

先日(2015年7月25日)、四谷「いーぐる」での「ゴー・ジャズ」イヴェントが終わった後、近くで懇親会というかアフターの打ち上げがあった。吉成伸幸さんの隣に座り、本編で少し出たサンフランシスコの話の続きを聞いた。

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サンフランシスコ1969~1972。

吉成さんは、1969年から1972年までの約3年間、サンフランシスコに住んでいた。そのときの音楽体験は現在の吉成さんの基盤になっている。

1948年(昭和23年)12月18日生まれの吉成さんは東京の立教大学に2年通った後、英語の試験(トーフル=TOEFL)に合格し1969年6月、サンフランシスコに降り立った。最初は英語学校にホームステイ先から通っていた。9月にサンフランシスコ・ステート大学(サンフランシスコ州立大学、ただし名称はその後いくつか変遷する)の2年生に編入。丸3年で卒業する。立教での2年の単位が有効でアメリカの大学で2年生から入学できた。

1969年(昭和44年)だとまだ外貨持ち出しも一人500ドル(1ドル360円の固定為替で18万円)、海外旅行もままならぬ時代だ。

しかし、当初のホームステイ先の居心地が悪く、数か月経って、なんとかそこを出て寮に移り住む。

そしてまずやったことが自分だけのステレオを買うことだった。おそらく500ドル(当時のレートで約18万円)くらいしたラジオ付きのステレオを入手。それでレコードを聴き、ラジオを聴くようになった。そして、移動するための足を確保することも重要で車も買った。それは知り合いから直接250ドルくらい(約9万円)で買った。1967年くらいのもので2年落ち程度で悪くなかったが、買った後タイヤがつるつるだったことに気づいた。車よりステレオのほうが高いというのもおもしろい。

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フリー・パス。

ちょうどその頃、東京のミュージック・ライフ編集部(シンコー・ミュージックの草野編集長)と話が付き、見たライヴのレポートなどを勝手にどんどん送ることになった。そんな中でサンフランシスコで大きな話題となっているライヴ・ハウス「フィルモア・ウェスト」のオウナーであるビル・グレアムにインタヴューする機会があった。グレアムにインタヴューすると、なんと彼がフィルモアのフリー・パスをくれた。それがあったために、吉成さんは滞在していた間、フィルモアに自由に出入りすることができるようになった。

「アメリカでは、ジャーナリストや文章を書く人へのリスペクト感がすごいんですよね」「そうそう、日本とはぜんぜん違うよね」と吉成さん。ミュージック・ライフ誌の現物を何冊か持って行き、これに書くというと一目置かれフリー・パスをもらえたという。

アメリカの音楽業界におけるジャーナリストやライター、そして、ラジオDJに対するリスペクト感はほんとうにすごい。これはアメリカのミュージシャンや音楽ジャーナリスト、エディター、DJなどに会うたびに感じる。

ラジオはもうすでにFM局が出始め、KSAN局を聴くようになり、そのDJヴォコ(Voco)という人がお気に入りになったという。このヴォコはのちにブルーサム・レコーズでベイ・エリアのアーティスト作品を集めたコンピレーション・アルバムを出すほどだった。

当時それまで主流だったAMラジオ局に加え、新たに出てきたFM局はけっこう長尺の曲をかけるようになっていた。AMでは、1曲3分程度のシングル盤中心だったが、FMではアルバムからの、たとえば7分や10分の曲さえもノンストップでかけていたのだ。吉成さんはラジオで聴いては気に入ったものがあればレコード店に走り、買いあさるようになる。

フィルモアは、毎週金・土・日がそこそこ有名なアーティストが出て、火曜日がアマチュア・ナイトのような日だった。2階建てで基本的には体育館を改造したようなところで、1階は、たぶん立ち見で2000人くらい入る。2階は席がある。東京でいえば、お台場のゼップを汚くしたような会場か。

この時期に見たアーティストは、ちょっと昨日の記事とかぶるが、一応再掲するとジェファーソン・エアプレイン、グレイトフル・デッド、クイック・シルヴァー・メッセンジャー・サーヴィス、ボズ・スキャッグスがいたころのスティーヴ・ミラー・バンド、いなくなった同バンド、スライ&ファミリー・ストーン、サンタナなどなど。ただし、ジャニス・ジョプリンだけは、すでに死去していたために見られなかった、という。ジャニスなしのホールディング・カンパニーは見た。まだデビュー前のタワー・オブ・パワー(デビュー・アルバム・リリースは1970年)は圧倒的だったという。

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ライヴ・レポート。

フィルモアの観客は黒人・白人が適度にミックスされていた。出し物はロックが多かったが、ソウル系のものも少しはあった。

吉成さんはかなりの数のライヴ・レポートなどを送ったが、ほとんどボツになったという。「たぶん、日本ではぜんぜん知られてないアーティストばっかりだったからじゃないですか」 もちろん、当時の原稿は手書きで、ファックスで送るでもなく、エアメールの郵便で送った。だから、オリジナルを送ってしまうので、コピーは残っていない。ひじょうに残念といえば残念。

また当時カメラも一応持っていたが、アーティストに会って一緒に写真を撮ることもあまりなかった。「今となっては、あの頃、いろいろと一緒に撮っておけばよかったと思うけどねえ~」と振り返る。これも残念。

他に残念なのは、当時のフィルモアのチラシ、はがきのような印刷物だそう。かなりたくさん集めていたが、そのサイケ調の文字が踊るチラシはかなり貴重な「お宝」になっているはずだという。

フィルモアでの思い出も多数だが、アルバート・キングがメインで出た時、前座はモット・ザ・フープルだった。キングに会いに楽屋に行くと「あの前座はなんだったんだ、と言うような話で意気投合した」こともあった。

黒人系のものでは、タワー・オブ・パワー以外だとチェンバース・ブラザースのライヴがすごかったという。

もちろん、3年もいればけっこう怖い体験もしたという。歩道でこちらが一人で、向うから数人の黒人が歩いてきて、「そのコートいいな」とすごまれたこともあったという。

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スタックス。

頻繁にフィルモアに行くと、やはり同じように頻繁に来ている人間がいて、そういう連中とはなんかの拍子に話をするようになった。とある白人と知り合うと、その人物はなんとスタックス・レコードの宣伝員だかセールス担当の人間だった。彼と知り合うとその後、吉成さんの名前はスタックスのメーリング・リストに載ったようで、スタックスのアルバム、シングルが毎週送られてくるようになり、かなりの数になったという。日本にすべて持って帰ったが、とある人物に全部あげてしまったという。

この時期はまさにサンフランシスコで「フラワー・ムーヴメント」が真っ盛りの時期。留学中に何度か日本に戻ってきたこともあったが、そのときにはすでに長髪、髭、ジーンズ、底の厚いブーツなどで、その姿で東京で電車に乗ると、子供に下から上まで舐めるようにじーと見られ、やはり自分がそうした影響を受けていることを感じたという。

1972年5月に無事、卒業するとき、その後別のヴィザでも取って居残ることなどは考えなかったのか、と尋ねると、その頃そこまで考えが及ばなかった、という。

ちょうどその少し前に、つるつるのタイヤのワーゲンで単独事故を起こし、その車を友人の車に修理場まで牽引してもらったが、修理費が尽き直すでもなく、帰国した。

なお、フィルモア・ウェストは1971年7月クローズ。イーストも6月にクローズ。ただビル・グレアムは、より大きな会場でのライヴ興行を取り仕切るようになる。

フィルモアとビル・グレアムについて、現在発売中の『レコード・コレクターズ』に4ページの記事がでている。

レコード・コレクターズ 2015年 08 月号

ミュージックマガジン (2015-07-15)


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やはり、リアル体験を持つ方のお話はわくわくする。

昔話は、歴史話。ストーリーは語り継がれるべき。Story should be told.

吉成さん、ありがとうございました。

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吉成さん本人が書いたサンフランシスコの思い出。

2004年4月から2005年10月まで友人の音楽評論家、天辰保文さんのホームページに掲載されたエッセイ。1回から10回。
http://members3.jcom.home.ne.jp/in-cahoots/cah/pll/esse1-1.htm#yn

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翻訳書。

ところで、ベン・シドランはすでに何冊も著作を残しているが、その中で一番彼のキャリアを描いている『A Life In The Music』は2003年に刊行されたいわば彼の自伝。そして、吉成さんはすでにこの本の翻訳を完成させている。およそ40万字。大変な力作だが、どこかで出していただける出版社はないでしょうか、とのこと。興味ある出版社の編集担当の方は、ご連絡ください。

A Life In The Music (紙の本は品切れですが、キンドル版は792円とリーズナブルな金額で入手可能です)

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