■6・「にて」の識別

A:識別の基本
「にて」で識別したいのは次の三つである。
①格助詞
②断定の助動詞+接続助詞
③形容動詞の活用語尾+接続助詞

 

B:識別のポイント


まず、「にて」を「であって」と訳せるかで①と②③を区別。③は「であって」と訳せても「いと」をつけて成立という形容動詞の特徴を優先させる。

 

①格助詞「にて」
例文:この家にて生まれし女子の(この家で生まれた女の子が)
・→ 「であって」と訳せない。格助詞は下の用言に「かかっていく」連用修飾格の働きをする助詞であり、「にて」の部分で「であって」と切ることができない。場所・時・手段・原因・資格などを表すが、原因(によって)・資格(として)の用法は、「であって」と訳せてしまえそうな紛らわしさを持っている。注意したい。

 

②断定の助動詞+接続助詞
・例文:月の都の人にて、この国の人にはあらず(私は月の都の人であって、この国の人ではない)
・→ 「であって」と訳して文意を損ねない(③との違いは、②は「いと」をつけて不成立)

 

③形容動詞の活用語尾+接続助詞
例文:声は幼なげにて文読みたる(声は幼い感じであって書物を読んでいるのは)
・→ 「であって」と訳せるが、「いと(たいそう)」をつけて意味成立すれば形動語尾


C:例文での基本演習

 

次の各文の「にて」はAの①~③のどれに該当するか。
ア:さのみ目にて見るものかは
イ:これも世に静かにて
ウ:大路みたるこそ、祭見たるにてはあれ。
エ:故姫君は十ばかりにて殿に後れたまひしほど
オ:月の都の人にて父母あり
カ:潮海のほとりにてあざれあへり。
キ:深き川を舟にて渡る
ク:老いにてあるわが身の上に病をと加へてあれば
ケ:父はなほびとにて、母なむ藤原なりける。
コ:竹の中におはするにて知りぬ
サ:面つきいとらうたげにて、眉のわたりうちけぶり
シ:ただ人にておほやけの御後見をせさせむ
ス:かばかりのあやまちにてかこの渚に命をば極めむ
セ:いみじうあはれにて、かなしきことなり。
ソ:一の皇子は右大臣の女御の御腹にて、よせ重く
タ:かたじけなき御心ばへのたぐひなきをたのみにてまじらひたまふ。
チ:本の妻はその国の人にてなむありける。

 

解答
=格助詞・=形動詞語尾+て・=断定+て(下に「あり」)・=格助詞・=断定+て・=格助詞・=格助詞・=完了+て・=断定+て・=格助詞・=形動詞語尾+て・=格助詞・=格助詞・=形動詞語尾+て・=断定+て・=格助詞・=断定+て(下に「あり」)

 

E:記述してみよう!

各文の「にて」の文法的説明、識別の理由、全体の口語訳を記なさい。
A:さのみ目にて見るものかは。
B:父はなほびとにて、母なむ藤原なりける。
C:故姫君は十ばかりにて殿におくれ給ひしほど、
D:面つきいとらうたげにて

 

解答
 

A:さのみ目にて見るものかは。
・手段を表す格助詞
・「目で(手段)」が「見る」にかかっていくから(「であって」とは訳せない)
・そのように目だけで見るものだろうか。いやそうではない。

 

B:父はなほびとにて、母なむ藤原なりける。
・断定の助動詞「なり」の連用形に接続助詞「て」が付いたもの
・「であって」と訳し、文意に欠損がない。
・父は普通の家柄の人であって、母は藤原の出身であった。

 

C:故姫君は十ばかりにて殿におくれ給ひしほど、
・時を表す格助詞
・「十ばかりで」が「おくる」にかかっていくから(「であって」とは訳せない)
・故姫君は十歳くらいで殿に先立たれなさったときは

 

D:面つきいとらうたげにて
・ナリ活用形容動詞「らうたげなり」の連用形の活用語尾に接続助詞「て」が付いたもの
・「いと」を付けて成立
・顔立ちはたいそう可愛らしくて

 

E:梅の花咲きて散りなば桜花継ぎて咲くべくなりにてあらずや
・完了の助動詞「ぬ」の連用形に接続助詞「て」が付いたもの
・連用形に接続
・梅の花が咲いて散ったならば桜の花が続いて咲きそうになっているではないか