■8・「らむ」の識別
A・識別の基本
「らむ」の識別は次の四つを押える。
①現在推量「らむ」
②ラ四・ラ変動詞未然活用語尾
③形容詞型活用未然活用語尾(一部)+「む」
④完了・存続「り」未然+「む」
★→ 文中に「らむ」が出て来た時、現在推量の「らむ」と思いがちである。まず判断としては「らむ」の接続は終止形(ラ変には連体形)であるので、「らむ」の上が終止形(ラ変には連体形)かどうかを判断する。そうであれば現在推量「らむ」である。その上で一語としてのまとまりを考えれば、②③は分かる。「らむ」の上が四段已然(サ変未然)なら「り」が関係していると判断する。「り」は7・「る・れ」の識別で見たが、ラ行の識別のキーである。
また、今、現在推量の「らむ」と言ったが、「らむ」には他に原因推量・伝聞婉曲もあるので、その意味も併せて区別したい。
B・識別のポイント
①現在推量「らむ」
・例文:夜半にや君がひとり越ゆらむ(この夜半にあなたが一人で越えているのでしょうか)
・→ 終止形(ラ変には連体形)に接続していることを確認する。推量・原因推量・伝聞婉曲の意味についても押える。
②ラ四・ラ変動詞未然活用語尾
・例文:夕べには朝あらむことを思ひ(夕方にはまた明朝のあるだろうことを思い)
・→ 一語のまとまりを考える(切り離せば不成立)
③形容詞(型活用)未然活用語尾(一部)+推量「む」
・例文:なにせむにか命も惜しからむ(どうして命が惜しいことがあろうか)
・→ 一語のまとまりを考える(切り離せば不成立)
④完了・存続「り」未然+推量「む」
・例文:あはれ知れらむ人に見せばや(情趣を解しているような人に見せたいものだ)
・→ サ変未然・四段已然に接続
C:例文での基本演習
次の各文の「らむ」はAの①~④のどれに該当するか。
ア:ひさかたのひかりのどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ
イ:それを射あてたまへらむ人に奉らむ
ウ:懈怠の心あることを知らんや
エ:つれづれも慰む方なくては、いかが明かし暮らすべからむ
オ:逢坂の関の清水にかげ見えて今や引くらむ望月の駒
カ:内裏(うち)へ参らむ
キ:鸚鵡、いとあはれなり。人のいふらむ言をまねぶらむよ
ク:恋しからむことの堪へがたく、湯水飲まれず
ケ:こなたはあらはにや侍らむ
コ:おぼすらむ事、何事ぞ
サ:生けらむうちにぞゆづるべき
解答
ア=現在原因推量・イ=完了+む・ウ=動詞の一部+む・エ=助動詞の一部+む・オ=現在推量・カ=動詞の一部+む・キ=現在婉曲・現在伝聞・ク=形容詞の一部+む・ケ=補助動詞の一部+む・コ=現在推量・サ=存続+む
D:入試問題に挑戦
次の「らむ」の説明として適当なものを次より選べ。(同志社大学)
「五人の中に、ゆかしきものを見せ給へ(1)らむに、御心ざましまさりたりとて、仕うまつ(2)らむと、そのおはす(3)らむ人びとに申し給へ」選択肢
ア:現在推量の助動詞「らむ」の連体形
イ:現在推量の助動詞「らむ」の終止形
ウ:完了の助動詞「り」の未然形「ら」に助動詞「む」のついたもの
エ:動詞の活用語尾の未然形「ら」に助動詞「む」のついたもの
解答:1=ウ・2=エ・3=ア
E:記述してみよう!
各文の「らむ」の文法的説明、識別の理由、全体の口語訳を記なさい。
A:(風吹けば沖つ白波)たつた山夜半にや君がひとり越ゆらむ
B:こなたはあらはにやはべらむ
C:(鸚鵡いとあはれなり。)人の言ふ①らむことをまねぶ②らむよ。
D:多くの中には、誤りもなどかなからん
E:(あたら夜の月と花とを同じくは)こころ知れらむ人に見せばや
解答
A:(風吹けば沖つ白波)たつた山夜半にや君がひとり越ゆらむ
・現在推量の助動詞「らむ」の連体形
・終止形に接続
・竜田山をこの夜半にあなたがひとりで越えているのでしょうか
B:こなたはあらはにやはべらむ
・ラ変(補助)動詞「侍り」の未然形活用語尾に推量の助動詞「む」の連体形の付いたもの
・「侍り」の一語のまとまりから
・こちらは丸見えではありませんか
C:(鸚鵡いとあはれなり。)人の言ふ①らむことをまねぶ②らむよ。
・①現在の婉曲の助動詞「らむ」の連体形
・②現在の伝聞の助動詞「らむ」の終止形
・終止形に接続
・人が言うようなことをまねするということだよ
D:多くの中には、誤りもなどかなからん
・ク活用形容詞「なし」の未然形の一部に推量の助動詞「む」の連体形がついたもの
・「なし」の一語のまとまりから
・多くの中には、どうして誤りもないだろうか。いや誤りもあるだろう。
E:(あたら夜の月と花とを同じくは)こころ知れらむ人に見せばや
・存続の助動詞「り」の未然形に婉曲の助動詞「む」の連体形が付いたもの
・四段活用の已然形に接続
・情趣が分かっているような人に見せたいものだ