【翻訳記事】政府が無限のお金を持っているという過激な理論【MMT入門向け】 | ナショナリズム・ルネサンス

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このコラムは以下の記事の翻訳です。Tom Streithorst氏によるMMT創設史の紹介となります。

https://www.vice.com/en_ca/article/a34n54/modern-monetary-theory-explained

 

注意!この記事はモズラーにより事実の誤りが指摘されています。詳しくは以下の記事にて。

 

政府が無限のお金を持っているという過激な理論

 

 政府が支出する前には税が必要なのは常識だ。現代貨幣理論の前提は、その必要はないということらしい。


背の高い、ひげを生やし穏やかな茶色の目をした、「ウォール街を占拠せよ」のベテラン、ジャシー・マイヤーソンは、インディアナ州南部の寂れた地域のドアを毎日ノックして回っている。有権者にこの国の莫大な富に思いを巡らせてもらおうと。進歩的な草の根グループ「Hoosier Action」の主催者としての彼のメッセージは、アメリカ合衆国はそれはそれは裕福な国なのであり、その富は南インディアナ州の貧しい人々にも行き渡らせることができるし、そうすべきだ、というものだ。

「人々がひどい経済的苦痛を受け続けてきたために、地域社会の魂が死んでしまった。」マイヤーソンは彼が巡回するこの地域のことをそう語ってくれた。薬物中毒の蔓延は自殺のようなものなのだと。「人々の苦しみを受け止めるてくれるようなまともな組織が一つもない。右派の外国人嫌悪運動だけなんだ。」

彼が言うには、貧しいインディアナ州の人心の奪い合いにおける彼のグループの最大の競争相手は伝統主義労働党と呼ばれる白人至上主義者グループであるとのことだ。「彼らはも私たちと同じ方向性で組織されている - ヤツら寡頭者は専制的で俺達を搾取している、そして俺達にも平和と繁栄が必要だ - 。違いは、彼らが『欠乏』の枠組みに乗っていることだ。」「彼らの言い方はこうだ。『みんなに行き渡るには足りないのだから、我々白人は固く結束し奪われないように気を付けよう』って。」

対してマイヤーソンは、「私たちは豊かさという価値に沿って組織している。つまりみんなに行き渡るだけの豊かさはあり、私たちは全員、自由と尊厳を享受することができる。」と言う。

アメリカの主流の政治からは、「広く行き渡るのに十分なものがある」という言い方はほとんど聞こえてこない。特に共和党員は連邦政府の財政赤字を増加させるという理由でセーフティネットや財政刺激策を批判している。支出に大ナタを振るう過激な法案を推進している人たちもいる。民主党もまた、共和党員が1兆5000億ドルの減税法案を支持したときのように、赤字財政支出に反対する議論をすることがある。バーニー・サンダースの「メディケア・フォ・オール」のような、多くの金銭的な費用がかかる野心的な提案は、費用がかかるという理由から毎回却下される。1970年以来連邦政府は四回の例外を除き毎年財政赤字を計上していて、債務残高(これらの財政赤字の累積)は20.6兆ドル積み増すことになった。ほとんどの有権者はこれについて世論調査で尋ねられると、国は負債に関して間違った方向に進んでおり、議会がこの問題に取り組むことを望んでいると答える。

マイヤーソンは赤字に悩んだりしない:「国家の歴史の中でも、富の歴史の中でも私たちは最も豊かな国だ。もちろんお金の心配はない。」さらに彼は指摘する。議会が国防総省の予算を増やしたり、遠く離れた国に侵入することを決めたときに、値札を心配する人はいないではないかと。

政府支出についての彼の楽観的な見方のバックグランウンドになっているのが現代金融理論(MMT)だ。この学派は、政府の財政赤字に対する私達のパニックは妄想であり、世迷い事であり、金本位制の誤った名残であると論じている。MMTは左派への影響力をどんどん増しており、マイヤーソンのような進歩主義者が「米国はメディケアのような幅広い社会改革を、値札が高いことを理由にしてやめるべきではない」と主張する根拠を与えている。

現代貨幣理論の基本原則はあからさまなことのように思われる。不換通貨システムの下にある政府は、紙幣を好きなだけ刷ることが出来る。労働、機械、原材料という必要な実資源を動員できる限り、国は公共サービスを提供することが可能だ。MMTによると、私たちの赤字に対する恐れは、貨幣に関する深刻な誤解に由来している。

五歳児はみな貨幣を理解している。素敵な女性に渡すとアイスクリームがもらえる - 商品やサービスと交換できる内在的な価値を持った物。ところが現代通貨理論のレンズを通すと、ドルは米国政府によって発行された負債にほかならない。そして政府はそれを税金の支払いとして受け取ることを約束している。あなたのポケットの中のドルは連邦政府があなたに負っている借金を表している。お金は金の塊ではなく、むしろIOU(借用証書)だ。

このどこか形而上学的な区別が、大きな実用的帰結をもたらしている。連邦政府はあなたや私とは違い、お金を使い果たすことがありえないという意味になる。お金で買えるものが尽きることはあり得る - 価格を押し上げインフレとして表れるだろう - しかし、お金を使い果たすことはあり得ない。Deficit Owlsという名前でつぶやく経済学の大学院生、Sam Levey が私にこう説明してくれた。「メイシーズはメイシーズのギフト券を使い果たすことはできない」。

とりわけ、政府は市民に対してもっと多くのサービスを提供せよと望む人々にとって、これは説得力のある議論であり、経済学者でない人にも理解できる議論だ。マイヤーソンは、「私は、お金がどのように機能しているかについて、これ以上に説得力のある説明を聞いたことがない」と述べた。「あの連中があらゆる種類の人々と議論するのを見てきたが、誰かが彼らを論破するのを見たことがない。」


九月、「あの連中」はカンザスシティで開催された最初の現代通貨理論学会に集まった。225人の学者、活動家、個人投資家が参加し、ライブストリームを何千人もが視聴した。

UMKCスチューデントセンター講堂で、背が高くテレビ映えする、バーニー・サンダースの前経済顧問のステファニー・ケルトンは、熱心な群衆向け、今日のアメリカ経済の基本的な問題は「慢性的失業」につながる「総需要の欠如」であると語った。つまり、アメリカの問題は、物を作れない(供給)ということではなく、私たちが作ることができる物をすべて買う余裕(需要)がないということだ。私達の潜在生産力は私達の消費能力を凌駕している。

「政府がやりたいプログラムの支出に困ることはありません。増税する必要はありません。」とケルトンは付け加えた。何しろこれを理解しない左右の政治家が言うからだ。「子供たちが腹を空かせてしまう - 橋を建設するな」と。

マスメディアではほとんど報道されないが、この見解は経済学者の間で特に論争の的になっているわけではない。オックスフォードの経済学者、サイモン・レン-ルイスは私にEメールで次のように書いてくれた。「イデオロギー的でないほとんどの主流経済学者は、米国がより多くのインフラ投資を必要としていて、その財源は公債の借入で賄うのが最善であることに同意だろう。」彼は続けて、「ほとんどの人が緊縮主義は主流のマクロ経済学であると考えているが、そうではない。反緊縮主義者は、MMTが提供するような代替理論を探している。」

不十分な支出によって引き起こされる失業や不完全雇用の問題をどうすれば解決できるかは、経済学者なら知っている。どの入門教科書を見ても、減税(民間部門に残す貨幣を増やすとそれらが支出される)または支出を直接増やす(ドルを創出し、それを政府支出を通じて経済に注ぎ込む)ことによって政府は意のままに需要を増やすことができるとされている。

問題は、これらの政策がいずれにせよ財政赤字(ほとんどの政治家が悪いものだと考えいてる)を増やすことにある。保守派は、政府支出の増加が民間部門の投資を「締め出す」ことを恐れている。MMTの支持者は、その時点で経済がフル稼働している場合でないかぎり、クラウディング・アウトは発生しないと答えるだろう。現在の賃金の停滞および低金利が示しているのは、経済はまだインフレが始まる以前で、まだ大量の「緩み」があることを示している。

MMTの論者たちは、赤字の支出はインフレにつながるとはっきり考えており、むしろ財政を増やすときの不都合な側面はインフレのみであると考えている。遡って1960年代に起こったのがこれだった。リンドン・ジョンソン大統領は、民間部門経済が活況を呈していたにもかかわらず、ベトナム戦争と彼のスローガン「偉大な社会」への支出に支払うための増税を拒んだ。その結果、1970年代にインフレ率が上昇することになり、ロナルド・レーガンの当選につながったいくつかの経済的要因の一つとなった。

しかし最近の35年間は、インフレは無視できる程度だった。連邦準備制度理事会は、2012年に2%のインフレ目標を承認したが、以来それはずっと未達成のままだ。現在の世界経済にとってはデフレの方が大きな脅威だ。MMTに賛成している人にとっては、私たちがもっと支出する必要があることは明白で、そのことが人々に十分理解されていないことにじれったい思いをしている。


MMTの最初の提唱者はウォーレン・モズラーだ。彼はウォール街の投資家だった30年前に、連邦政府がいったいどのように課税し、借入し、また支出するのかを深く掘り下げることにより、他の投資家との競争において優位に立とうと考えた。

この壮健で、日焼けした、節税目的でセントクロイ島に住んでいる68歳の億万長者は、進歩的な経済運動の風変わりなスポークスマンになった。彼の友人でヘッジファンドのパートナーであるSanjiv Sharmaは私にこう語った。「ウォーレンはより政治にとらわれない」。

子供時代、彼は機械がどのように動き、どのやれば修理でき、どのように組み合わせるかに魅了された。モズラーは工学を専攻するつもりだったが、ある経済学の講座を受講したときに、こちらの方がはるかに簡単だと理解し経済学に切り替えたのだ、と語ってくれた。1971年にコネチカット大学を卒業すると、地元の銀行に雇われ、気がつけば急速に昇進していた。まもなく彼はニューイングランドを離れウォール街に発った。

「私は物事を要素レベルで見るんだ」とモズラーは私に語った。彼は連邦準備制度と財務省が一般経済とどのように相互作用しているかを雑草をかき分けるように正確に調べた。彼は、財務省が税金を徴収し、債券を取引し、支出し、お金を生み出したときにバランスシートに何が起きたのかを理解したいと考えた。その結果、従来の知恵は政府と民間部門の関係をあべこべに捉えていると信じるようになった。

私たちのほとんどは、政府が支出する前に課税しなければならないと仮定している。あなたや私が商品を購入する前にはお金を稼いでおく必要があるから。政府が徴税額よりも多くの支出をしたいのであれば - そしてそれはほとんどいつもそうなのだが - 債券市場から借り入れなくてはならない。しかし、政府がその支出をどのように会計処理しているのかを調べることによってモズラーは、どの場合でも支出が最初であることを見抜いた。あなたの社会保障小切手が期日になったとき、財務省はそれに支払うために十分なお金があるかどうか確認しようしたりしない。財務省は単に、あなたの銀行口座に直接その金額をキーボード入力し、同時に自分の口座の借方に記入する。あなたに支払うお金は、このことによって虚空から作り出される。

あなたが税金を払うときのプロセスは、ちょうどこの逆だ。連邦政府はあなたの口座からドルを差し引き、政府の口座の負債側から同じ金額を減額することによって、あなたが今支払ったばかりのお金を、文字通り破壊する。家庭や企業、あるいは州や地方自治体とさえも異なり、連邦政府はドルを生み出す権限を与えられている。政府が支出すると経済にお金が注入され、徴税するとお金が除去される。2005年の公聴会で当時のFRB議長であったアラン・グリーンスパンは述べている。「連邦政府が望むだけの金額を創出して誰かに支払うことを妨げるものは何もない。」

オックスフォードのエコノミスト、レン・ルイスは、MMTは実際よりも過激に聞こえてしまうと私に語った。「私の見解では、彼らが言うことの多くは主流も言っているものだ。金利がゼロ下限にあるとき、彼らの反緊縮政策は完全に主流のものになる。」と彼は言った。「理論的枠組みの観点から見ると、MMTは1970年代ケインジアンに非常に近いものと捉えている。それに銀行貨幣がどのように創造されるかについての非常に現代的な理解を加えたものだ。」ケルトンはこう言う。MMTは支出と課税の方法を変えようとしているのではなく、単にそれらがどのように行われているかを説明しているだけだ、と。

モズラーは貨幣についての理解から次の洞察を得た:自国紙幣を印刷する政府は破産することができない。この洞察が彼を億万長者にした。

1990年代初頭、イタリアは多額の借金と低税収に苦しんでいた。経済学者やトレーダーはイタリアは破綻に近づいていると恐れていた。イタリア国債の利回りは必然的に急上昇した。モズラーはイタリアがデフォルトに強制され得ないことを認識していた:イタリアは必要なだけ多くのリラを印刷することができる。(これはユーロ以前の時代だ。)彼はイタリアの国債が支払っていた金利よりも低い金利でイタリアの銀行からリラを借り、そのリラで他の投資家が投げ売りしているイタリアの政府債務を買った。この後数年間、この取引で彼と彼のクライアントは1億ドル以上儲けた。

それ以来、モズラーは学界の経済学者と対話を始めたいと思うようになった。彼はハーバード大学、プリンストン大学、そしてエール大学に、連邦準備制度の支払いとそれらの驚くべき影響についての分析を説明し書き送ったが、無視された。そのとき、ドナルド・ラムズフェルドの紹介で、アーサー・ラッファー(サプライサイドのラッファー曲線で有名)とランチを供にした際に論争となったことがあった。ラッファーはモズラーにこう言った。アイビーリーグの経済学部からは何も期待しないように、但し、ポスト・ケインジアンというイカれた異端派グループがあるから、彼らなら興味をもつかもしれないな、と言った。

ランダル・レイ、ビル・ミッチェル、ステファニー・ケルトンを含むこれらの経済学者は、モズラーに表券主義者、20世紀初頭にモズラーと同じように貨幣は政府が生み出した借金であると考えた経済学者たちのグループ、のことを教えた。(MMTは「新表券主義」と呼ばれることもある。)アバ・ラーナーの機能的財政論もまたMMTの源流の一つだ。世紀半ばのイギリスの経済学者であるラーナーは、公僕は財政赤字に捉われず、経済を完全雇用に保つのに十分な需要を維持することに集中せよと主張した。失業率が高すぎる場合、政府は支出を増やすか、減税すべきだ。インフレの脅威には、支出を減らすか、増税するべきだ。ラーナーにとって、また同じくMMT派にとって、政府赤字の規模を気にする理由が存在しないのだ。

ポスト・ケインジアン達に対しモズラーは、税と借入が政府支出の財源になっていないということを説明した。当初、ケルトンは彼を信じなかった。「ウォーレンが出したこれ、出口はそこなのです。私たちが教えられてきたことすべての逆。」と彼女は私に言った。彼女はモズラーの理論が誤りであることを証明する論文を書こうと決めたのだが、そのために連邦準備制度、財務省、そして民間銀行システムの相互作用を深く調べた結果、彼女は自分自身驚いたことに、モズラーが正しいと結論に至ってしまった。「このリサーチのプロセスを通じて」と彼女は言った、そして「私は、ウォーレンとまったく同じ場所にたどり着いた。細かい複雑な事柄がたくさんありましたけれど。」徴税と債券の売却は、政府支出のあとに行われる。それらの目的は政府に資金を供給することではなく、経済システムの過熱を防ぐために貨幣を除去することだ。

モズラーは学界の外から来ましたが、彼の理論は経済学者のいくつかの理論と一致していた。「ある意味でウォーレンがしたことは、知っておくべきことを我々に思い出させるものだった。」と彼女は私に言った。「彼は確かにオリジナルの貢献をしましたが、彼はまた私達に文字通り60、80年前に確立されたけれども忘れられていた教訓を思い出させてくれたのです。」

ケルトンとレイはウェイン・ゴドリーの部門別バランス分析をモズラーに紹介した。それは政府赤字に害がないというばかりか、実際にはむしろ有益なものであることを示唆するものだ。ゴドリーの理論を単純化して、どの経済にも2つの部門があるとする。民間部門と公共部門(または政府部門)とする。政府が徴税額以上の支出をすると、財政赤字が発生する。そして、公共部門の赤字はそのまま民間部門の黒字を意味している。

ケルトンは次のように説明してくれた:私が政府部門全体で、あなたが民間部門全体であると想像してみてください。私は100ドルを戦費や橋の修理や教育の改善に支出します。民間部門はこれらを実現するために必要な仕事をします。そして政府は100ドルを支払いました。次に90ドルを税として取り返すと民間部門の手元に10ドルが残ります。これが政府の赤字です。税金で回収する以上に支出しました。しかし民間部門のあなたは、以前持っていなかった10ドルを持っています。民間部門がお金をためるためには、政府の赤字が必要なのです。

モズラーのヘッジファンドはこの理論から利益を得た。1990年代後半は、ほとんどの人々がクリントンの財政黒字が米国経済を強化していると単純に考えていた。しかしモズラーは、クリントンの財政黒字において、政府は支出に費すよりも多くの貨幣を民間部門から税で取り出していることを意味していると認識していた。モズラーはこの民間部門の赤字(政府の黒字の裏側)は必ずや景気後退につながると予測し、彼は金利の下落(実際に2001年に下落)に賭け、彼のヘッジファンドは再び詐欺師のように利益を上げた。


いま、MMTの支持者たちが興味を持っているのは私腹を肥やすよりも大きな問題である。ケルトンにとって、アメリカ経済の最大の問題は失業や就職難だ。彼女によれば、2000万人のアメリカ人がフルタイムの仕事を望んでいるににできていないとのことだ。これは彼女にとっては衝撃的な資源と才能の無駄遣いだ。彼女の説明によると、雇用を創出するためには総需要を増やす必要があり、それを達成するただ一つの方法は支出を増やすことだ。こう説明してくれた。「売上に基づく経済の中では支出が敵になります。」「資本主義は売上で動いています。経済の活性化、GDPの活性化のために必要なのは財政支出を増やすことなのです。」

支出を刺激する1つの方法は減税である。特にその利益はトップ1パーセントよりもむしろ平均的なアメリカ人に行きわたる。「労働者への減税は、彼らの所得に対して昇給と同じ効果を与えます」ケルトンは言う。「あなたの雇用主が最後に昇給を実行したのはいつでしたか?」

MMTerはインフラ投資や減税などあらゆる財政刺激策を支持するだろうが、彼らの特徴的な政策は連邦政府が資金を提供し、地方が運営される雇用保証(ジョブギャランティ)政策だ。フルタイムでもパートタイムでも、仕事を望んでいる人は誰でも、その地域社会にとって価値があると思われるプロジェクトに1時間あたり15ドルが支払われるというものだ。道路の建設の場合もあるだろうし、高齢者の世話や託児所での仕事もあるだろう。必要なサービスが提供され、同時に失業者および潜在失業者が仕事を見つけられるようになる。

「これは...」、カンファレンスのパネルでランダル・レイは言った。「とても効果的な貧困対策プログラムなのです」。フルタイムの場合、これらの仕事には年間31,000ドル以上が支払われ、5人家族を貧困から救うことができることになる。このパネルでレイとケルトンは、同プログラムが1400万人から1900万人の雇用を創出し、GDPとして5000億ドルから6000億ドルが加算されし、物価の上昇は1パーセント未満に留まるだろうとした。モズラー氏はこれを「一時的な雇用プログラム」と呼ぶ。なぜなら彼はこの連邦政府の支出によって生み出された余分な需要が民間部門の雇用の急増の火付け役となると確信しているからだ。

金融危機から10年が経った今も、アメリカ経済はくたくたになっている。ケルトンはこれを「がらくた経済(a junk economy)」と呼ぶ。公式の失業者数は比較的低いが、賃金の長期的な停滞と、失業統計にカウントされない就業意欲の喪失を引き起こしている。今日の実質賃金の中央値は、ジミー・カーターが大統領だったときより低い。米国の歴史で初めて、ほとんどのアメリカ人の暮らしぶりが両親世代よりより悪化するということになりそうだ。昨年、ドナルド・トランプが勝利した要因の一つには、私たちの多くにとって、アメリカンドリームは死んでおり、経済が壊れているということに彼が気づいていた点にもあっただろう。

MMTは、この経済を修復することは可能なのであり、雇用を創出してより良いアメリカを築くために必要なのは、政府の赤字を心配することをやめることなのだと言う。「政府だって分不相応な出費なんてできない。人々がそう言うのをよく聞きますよね」とケルトン氏。「全く違うのです。今、私たちはその「分」をはるかに下回る生活しかしていないのです。」

モズラーは言う。「政治家が赤字に囚われるのは有権者がこう言うからだ。「私たちが選んだのは、赤字が大きすぎるから削減する必要があると信じる代表者だ。」MMTを支持する学者や左派の活動家たちは、自分たちはアメリカを変えられるのだと人々の考えが変わることを願っている。モズラーは続けた。人々はひとたびMMTの洞察を理解すれば、二度とそれらを忘れることはないと確信している。「元に戻る人はいないよ」

マイヤーソンはそこまで楽天的ではない。彼は知的な議論で勝てば十分とは信じていない。「億万長者が権力を握っているのだから、彼らのアジェンダを支持する経済学が優勢になるんだ。もしMMTが主流になって公共支出を増やすことが当たり前になったら、権力と富が支配階級からシフトすることになるだろう。マイヤーソンは、それは闘争なしでは起こらないのではと疑っている。カンファレンスで、グループ「Debt Collective」のアン・ラーソンとローラ・ハンナが会議で述べた言葉が印象に残っているという。「トリクルダウンによるMMTはあり得ません。それは組織された人々によってもたらされる以外にないのです。」