MMTが誕生した瞬間 | ナショナリズム・ルネサンス

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この記事はMMTの成立史に関する史料をまとめたものです。

 

MMTはヘッジファンド創設者のウォーレン・モズラーがイタリア国債の取引で大儲けし、そこで培った理論をポストケインジアンの集団に紹介したのが始まりだと言われています。

以下の記事によると、イタリア国債はデフォルトしないと見込んで大儲けしたモズラーは、自らを億万長者にさせた洞察をもとに経済学者と対話したいと考え、ハーバード大学、プリンストン大学、エール大学に自身の理論の説明を書き送ったが無視された。そのとき、ドナルド・ラムズフェルドの紹介で、アーサー・ラッファー(ラッファー曲線で有名)に会った。ラッファーからは、アイビーリーグの経済学部からは何も期待しないように、但し、ポスト・ケインジアンというイカれた異端派グループがあり、彼らなら興味をもつかもしれない、と言われた。) 

 
2023/3/2追記 モズラーの指摘により修正。赤字がモズラーの指摘内容。
MMTはヘッジファンド創設者のウォーレン・モズラーがイタリア国債の取引で大儲けし、数年後そこで培った理論をポストケインジアンの集団に紹介したのが始まりだと言われています。

MMTはヘッジファンド創設者のウォーレン・モズラーがイタリア国債の取引で大儲けし、そこで培った理論をポストケインジアンの集団に紹介したのが始まりだと言われています。

以下の記事によると、イタリア国債はデフォルトしないと見込んで大儲けしたモズラーは、自らを億万長者にさせた洞察をもとに経済学者と対話したいと考え(モズラー曰く「私は億万長者でもないし、その近くでもない」。)、ハーバード大学、プリンストン大学、エール大学に自身の理論の説明を書き送ったが無視された。モズラー曰く「そんな記憶はないのだが」。そのとき、国防長官を務めることになるドナルド・ラムズフェルド(モズラーが1980年代初頭にウィリアム・ブレア・アンド・カンパニー(William Blair And Co)で働いていたときから知っていた)の紹介で、アーサー・ラッファー(ラッファー曲線で有名)に会った。ラッファーからは、アイビーリーグの経済学部からは何も期待しないように、但し、ポスト・ケインジアンというイカれた異端派グループがあり、彼らなら興味をもつかもしれない、と言われた。モズラー曰く「いや、それはラッファーではなくBill Vickeryが私にPKグループを案内してくれたのだが(Billにはニューヨークの社会政策グループの会合で最初にPKを教えてもらったが、数年後の会議で彼に会うまで、それがBillであったことは覚えていなかった)」。) 

 

 

 

MMTの第一人者L・ランダル・レイが今年2020年に発表した論文「The “Kansas City” Approach to Modern Money Theory」の冒頭で、モズラーがポストケインジアンの集団に参加したときの経緯が詳細に述べられています。

 

現代貨幣理論(MMT)の誕生は、1990年代のオンライン・ディスカッション・グループPost Keynesian Thought(PKT)に遡ることができる。ヘッジファンドマネージャーのウォーレン・モスラーは、1996年1月にPKTに参加した。彼はSoft Currency Economics(SCE)(Mosler 1996)という論文を起草していた。最初の数週間で、彼は主権通貨の分析の基本原則を示した。税金が主権通貨の需要を生み出すこと、ソブリンによる債務売却は実質的な借金オペレーションではなく、むしろ銀行システムから過剰な準備金を排出するために使用されること、ソブリンは自国通貨を使い果たすことができないこと、失業対策として政府は最低賃金で雇用を提供すべきであることである。PKTの参加者の多くは、このアイデアを受け入れなかったり、敵視したりしていたが、少数の参加者は異端経済学の中でこれらの議論の基礎を認識していた。一般的に支持していた人たちは、バジル・ムーア(内生的貨幣供給論のホリゾンタリスト)、ポール・デビッドソン(「ファンダメンタリスト」ケインジアン)、ビル・ミッチェル(早くから失業への「バッファーストック」アプローチを開発した)、マット・フォルスターター(経済史家と経済思想史家として行動し、その学生であるパブリナ・チャーネバは、ウォーレンのSCE論文のレビューを書くために募集された)と私が含まれていた。

 

今回、私はPost Keynesian Thought(PKT)の当時のログをインターネット・アーカイブから発掘しました。

 

モズラーは1996年1月28日に、"Currency Definition (inflation)"と題したメッセージをPKTに投稿しました。

 

Mon, 29 Jan 1996 07:58:30 -0500
mosler@gate.net

I am a new subscriber. I have been working in the financial
markets for about 23 years.

Given that fiat money begins as a tax credit, the driving force is the fact
that the private sector needs the government's money to be able
to pay its taxes. This leads to the conclusion that the currency is
defined exogenously by the government with its spending policy.
The few pk inflation discussions I have read do not seem to consider this.
Are there any references available?
(It also means that from inception a government must spend, or otherwise
provide, at least enough of its fiat money to the private sector to be able
to collect the taxes due. This accounting identity means that a balanced
budget defines a minimum level of spending.)

Consider a model that appears in my paper, "Soft Currency
Economics." (http://inca.gate.net/~mosler/softecon.html)
In it the government offers a job, at an unchanging rate of pay,
to all takers. This defines the currency, and establishes what I
call a supplementary labor force, which acts as a classic stabilizer.
All other prices are allowed to float, allowing the market to
allocate through price.

Currently, governments attempt to target spending and taxing,
and let employment and prices float. My model attempts to fix
unemployment and inflation at 0 and let the deficit float. It is not meant
as a complete solution, but to open discussion.

I am also looking for references for the concept that sovereign debt
in local fiat currency is a monetary function. It serves as interest
rate support, not funding. A government offers to borrow its own fiat
currency not because it needs it to spend, but because it wishes the
interbank rate to be higher than 0 bid.

Thank you.

Warren B. Mosler
Director of Economic Analysis
III Finance

See:

"Soft Currency Economics"
=========================
http://inca.gate.net/~mosler/softecon.html

これを日本語訳したものが以下になります。

1996年1月29日(月) 07:58:30 -0500
mosler@gate.net

新規加入の者です。私は金融市場で23年ほど働いています。

不換貨幣は税を受領するものとして始まっているのだから、民間部門はさまざまな納税のために政府の貨幣を必要としているという事実がその駆動力になっています。このことは、通貨が政府の支出政策によって外生的に決められているという結論につながります。

私が読んだ数少ないPKのインフレの議論では、このことを考慮していないようです。

何か参考文献はありますか?

(また、初めに政府は、少なくとも課税額を回収できる十分な不換貨幣を民間部門に支出しなければならない、あるいは提供しなければならないことを意味します。この会計恒等式は、均衡予算が支出の最低レベルを決めることを意味します。)

私の論文 "Soft Currency Economics "に出てくるモデルを考えてみましょう。(http://inca.gate.net/~mosler/softecon.html)

その中で、政府はすべての雇用者に不変の賃金率で仕事を提供しています。これが通貨を定義し、私が補足的な労働力と呼んでいるものを確立し、規範的な安定化装置としての役割を果たします。

他のすべての価格は変動することが許されており、価格を通じて市場に配分をさせます。

いま、政府は支出と課税を目標とし、雇用と物価を変動させようとしています。私のモデルは、失業率とインフレ率を0に固定して、赤字を変動させようとしています。これは完全な解決策ではなく、オープンな議論をするためです。

また、国内不換通貨でのソブリン債は金融機能であるという理解についての参考文献も探しています。それは金利のサポートとしての役割を果たしており、資金調達ではありません。政府が自らの不換通貨を借りるのは、政府が支出するために必要だからではなく、インターバンク・レートが0よりも高くなることを望むからです。

ありがとう。

 
モズラーはこの最初の投稿で、租税貨幣論、スペンディング・ファースト、インフレなき完全雇用、主権通貨建ての国債の役割は金利の調整手段、といったMMTの基本的なアイデアを提示していることがわかります。

 

この投稿の"Soft Currency Economics"のリンクは切れていますが、おそらくこれは草稿版と思われます。

以下に草稿版と完成版のリンクを置いておきます。

草稿版

完成版

(草稿版のリンクを教えてくださった@tstateiwaさん、ありがとうございます。)

なお「The “Kansas City” Approach to Modern Money Theory」によると、"Soft Currency"とはペッグされていない貨幣、MMTが言うところの主権通貨という意味です。

 

最後に、今回インターネット・アーカイブから発掘したPKTのログをまとめておきます。

PKTのアーカイブ(1996年1月~2004年9月) 

これには月ごとのアーカイブのリンクが掲載されていますが、そのままではリンク先が切れていて飛べません。URLに工夫が必要です。

以下にモズラーが最初に投稿してしてから最初の一年分の月ごとのリンクを置いておきます。

(それ以上はきりが無いので、興味を持った方はURLの法則性を見つけてリンクを探してください。

モズラーの投稿は2003年末まで確認できます。)

1996年1月 1996年2月 1996年3月 1996年4月 1996年5月  1996年6月 

1996年7月 1996年8月 1996年9月 1996年10月 1996年11月 1996年12月

ちなみにモズラーはPKT内のハンドルネームを、mosler@gate.net, Warren Mosler, Warren B. Mosler、moslerと使い分けています。ややこしい。