◆赤い戦車 | On the White Line.

On the White Line.

リハビリ中WWA作成者の日記。映像は引退。

―高校の国語の先生が言ってたんだ。

 もし今の状況が嫌なら、その状況が変えられる立場になるまで我慢して、

 そこまで上り詰めて、自分の理想に近づけるようにすればいいって。



「なあ池田」

「なに」

「どうしてこんな変なのかけるの」

「どこが変なの」

「コレではは誰にも伝わらない」

「根拠は?」

「全部がぶっ飛びすぎちゃってる」

大学から離れた喫茶店の端っこのテーブル席。トイレの隣の角っこの、火の当たらないところ。

池田はそこが一番煙草の煙が回るから、っていっていつもそこを選ぶ。

私の目の前で、たばこの灰が落ちる時間を一回の制限時間として、プリントの損じの裏に、

10年使っているというシャーペンで、引っかくように作品の概要を書き始めた。

金属質のシャーペンの音、煙草の煙が充満するこの一角は、そのまま、池田松也の世界となる。

線と色の薄い髪の毛の間からメタルフレームのレンズ越しに彼の目がのぞく。

「ぶっ飛びすぎてるというその言葉の意味は」

「次の場面への説明不足」

「どこが不足している」

「わかんない?」

「わかんない」

難解。意味不明。前衛的。グロテスク。気持ち悪い。変態。異常。

頭が痛い。詰め込みすぎ。空っぽすぎる。頭がおかしい。

それが池田の作品への評価だ。

この作品を見た先輩たちが、舞台裏でこういったのを私は聞いた。


『あいつにもう作品を書かせるな』


「知らないよ直接言えばいい」

「だけど、事実そう思われているんだ。正直、あんたのは。

 このままだと最初の作品発表申請の段階で落とされるよ」

「わかるやつだけわかればいい」

そういうと乱暴に黒いビジネスバッグからA4用紙をもう一枚取り出して、書きはじめた。

「その根拠は」

「結局誰もわかっちゃくれないから」

言葉が刺さった。

「だからよし乃さんの監督名で出そうって言ったんでしょ。

 ぼくの名前は出さない。多分バレるとは思うけど。」

「だって」

「体面ばかり気にしたら書きたいものもかけない」

「けど」

「よし乃さんは事実そう。反論は?」


『正直理解できないよあんなものを人に見せようなんて。

 自分が馬鹿だってことをそんなに知らしめたいのか、それを喜ぶよほどの変態かのどっちかだ』

『あいつの撮影に付き合わされた身にもなってくれ。あんなに病んだのを演技させられたら、

 本当に自分がおかしくなっちまう。相当あいつ自身がビョウキなんだろうな』

『あいつ一人でナントカしてほしいよ。機材も役者も観客も。そうしたら誰も迷惑かからない』


黙っている間、あいつはもう一本に火をつけた。シャーペンの音だけが、この世界に響いている。

私はテーブルの上においてある、書き終わった用紙を手に取った。

小さな文字で、縦横無尽に書き巡らされている、ストーリーの設計図。

登場人物の設定と伏線の関係。相関図。テーマと台詞案。カメラアングル。

緻密すぎるそれは遠目からみれば模様のようだった。


「悔しくないの」やっと出た声がそれだった。

「何が」あいつは私にめもくれない。

「あんだけ言われて、悔しくないの。

 こんだけ緻密に書いて、努力して設計した物語が、

 理解されなくて、意味不明の一言で片付けられて。悔しくないの」

「別に」

本当に無感情に返してくる。本当に彼にとっては「別に」なのか。

それがますます悔しくてたまらない。

「なら、どうしてわざわざ作品にしようと思うのよ。どうして人に見せようとおもうのよ。」

シャーペンが止まった。灰も落ちた。

「やりたいからやってんだよ」

その一言をいうと、またペンを走らせた。

「その根拠は。理由は」

「それが根拠であり理由だ」

私は池田の右手を両手で止めた。

「オナニーはひとりでしてちょうだい」

ここではじめて目があった。池田は見下すように笑った。

「ずいぶん直接的にいうね。その言葉の根拠は」

「直接的にいわないとあんたこっちを向かないでしょ」

池田はとめた手を引き抜いて、観念したように、シャーペンを置いた。

「で、よし乃さんはそれをプロデュースしようって話だよね。見かねた変態だよ」

「いくらでもいいなさいよ。全員からそういわれる覚悟は出来てる。」

「その強気の理由は」

「あんたの書く作品は世の中に理解されなければいけないから。」

また笑った。どこまで本気か試している笑いだ。

しかし、それに怯む心は起きない。むしろこっちが笑いたい。

「これは、私たち変態が一般人にたいする復讐になる。

 私たちを見下してきた、あんたをないがしろにし否定きた、

 本質を何も見ていないやつらに対する私の復讐。

 あいつらの心に大きな傷口を作ってやる。そして一生忘れなくしてやるために。」

ふう、と池田は大きく息を吐いて、灰皿に2本目をなすりつけた。

まだ笑っている。ご清聴と行こうか。というセリフが似合う顔だ。

「私にもなにをあんたが言いたいのかわからない。

 けど、あんたが本当に、一作一作に緻密に心血注いで、

 自分の中の何かをぶっ壊して進んでいるということはわかる。

 それまでしてあんたが伝えたいことがあるということはわかる。

 あんたがわからなくても、なにかそこまでする根拠があるんだ。

 その根拠がわかるまで、私はあんたの手伝いをしたい。」

「根拠なんてなかったら?」

不敵な笑みをたたえて言う。

「ぼくとよし乃さんとは作る意味が違う。その可能性はその論拠に含まれてる?」

「大いにある」

「じゃあぼくにとってこれがただの暇つぶしでありオナニーだったら?」

「あんたの暇つぶしは素晴らしくって世間で天才と呼ばれるものだって教えてやる、

 もしくはそうやって意味づけしてやる。それだけ。」

池田はのけぞってわらった。メタルフレームの眼鏡が床に落ちた。

手足をバタバタさせて、机をガタガタ言わせている。

何人かの客がこっちを見ているのがわかった。

けど、それをみても私は動じなかった。動じる必要はないとおもった。

「面白いなあ。面白いよ。よし乃さん。一体今までなにがあったの。なにがあなたをどうさせたの。

 思考がそこまで至っているのに、どうしてそこまで静かにしてられるの。

 どうしてそこまでみんなが嫌いなのにその思考ですぐに殺さないの。その理由は?」

「闇討ちが一番効果的だから」

そういうとまたゲラゲラと笑った。

「確かに発表できるやつらはこのような集団では武器を持つに等しい。

 真剣に見るやつらの心を殺せるからね。どういう顔するのかなあ。どうなっちゃうのかなあ」

机の上のコーヒーが波打った。

「あんたの暇つぶしに比べれば、私はまだ力不足。

 だけど、あんたは、全く的外れだ。攻撃する方向に攻撃してない。

 あんたは日本に攻撃しようとして土星攻撃しているようなもの。

 そういう攻撃には、誰も見向きもしない。誰も気づかない。そんなの勿体無い。

 そんな馬鹿な暇つぶしを意味ある攻撃に昇華してやろうっていってんだから、感謝しなさいよ。」

「なるほど、ぼくが砲撃、よし乃さんが指揮官。そして、機材の天才の大月が操縦手。

 まるで戦車だ。戦争だ。クーデターだ。

 こんな楽しいことを覚えちゃうと元に戻れないかも。」

そういうとさっきまでの用紙をテーブルの下に落とし、新しい紙にさっきまでの会話の概要を書き始めた。

タバコにひをつけず、一心不乱に書いていく。

横書きの文字が書いているうちに罫が右にまがりはじめたらしく、だんだんとその向きに体を向け始めた。

正面に座っているはずの池田の横顔が見える。

今の顔は、子供がはしゃいでいる顔をしている。眼鏡がないから、なお更子供に見える。

持ち主に見向きもされない床に落ちたメタルフレームを拾って、白熱灯にかざす。

たちまちゆがんだ白熱灯は、そのままあいつの世界をうつしているようだった。


喫茶店のベルが鳴る。そして私を見つけると、大月が「先輩」と手を振ってこっちにきた。

こっちも手を振って返す。

池田はそのことに気づいていないようだった。それをみて大月は笑った。

「池田先輩、相変わらずですね。」

「楽しそうで羨ましいよ。将来が心配だけど。」

「確かに。出世しなさそうなタイプです。」

「事実、部でも出世コースから外れてしまった。」

「みずがめ座は出世欲がないらしいですからね」

「あれ?私もみずがめ座だけど?」

大月はごまかすように店員を呼んで注文をした。

その声でを聞いて池田は軽く大月に挨拶代わりに手を上げた。

「先輩、副部長就任おめでとうございます」大月は私の隣に座ってバッグを下ろして言った。

「なに、ここからが本番だ。」

そういって、コーヒーを一気に飲み干した。

「さあ、作戦会議をはじめようか。」


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予定している中編のプロローグ的ななにか。本編全然先進んでないけどね。

けど書いてて楽しい。


中編ではとにかく学生が各々のスタンスで本気でぶつかり合う何かが書きたかったりそうでなかったり。

けどそういうのって、傍目からみれば大変滑稽で、気持ち悪くって、どうでもいいんだよね。

うん、知ってる。

けど、それを正直、消化したいです。

息が出来ないほどに、吐くものが血しか出ないような、本気で駆け抜けた3年間の総まとめ。

そして、そのもう一つの可能性。


漫画家日本橋ヨヲコのG戦場ヘブンズドアの2巻か3巻に歌詞として書いてある、

ヤプーズの「赤い戦車」 。これにちかい内容ではあるます。(個人解釈だけどね)

てゆうか、ほんとこの漫画家さんとこの曲には触発されっぱなしで困るw


そのためかどうしても直接的になっちゃうんだよなあ。

ごめんね急にこんな言葉遣いしちゃってね。

けど、昔からこのブログ読んでるひともイイトシになってきてんだろーからかんべんしてくれちょ><