「焼鳥食べたくない」
「どうしてですか」
「鳥キライ」
「じゃあなんで焼き鳥屋はいったんですか」
「宇田川くんが入ろうっていったから」
「いい大人がなにいってるんですか」
そういうと博士は口をつぐんでうなだれた。
「いい大人がなにいってるんですか」
「二回言わなくてもいいじゃん」
「最近博士わがままひどいですよ。宮下さんも怒ってましたし」
「宮下さんが怒ると宇田川くんも怒るの?」
「ていうか、なんていうんですか、同じ研究所の職員じゃないですか。仲間じゃないですか。
また職場で顔合わせるんですから、仕事してて気持ちがいい環境にしたほうがいいじゃないですか」
「そうだけど、」と博士は言ったけど、そこから先は言わなかった。
「博士はそれはすごい研究者ですけど、だからってわがままいっていいものだと思いませんよ。
そういう意味では、僕は、ちょっと前の博士のほうが好きでしたよ」
パッと博士は嬉しそうな顔を僕に向けたけど、「謙虚さがあって」と付け加えると、博士は顔を伏せた。
そして、ぼそぼそと、聞こえるか聞こえないかわからないくらいの声でなにか喋ったけど、
居酒屋の騒がしさではぜんぜん聞こえなかった。
「何言ってるんですか博士。もっと大きい声で言ってください。」
「注文よろしいですか?」
「宇田川君は宮下さんのことが好きなの?!!」
「はあ?!」
そんなこと今言うの博士は?!てゆうか、机をそんなに叩くからコップがひっくり返ったよ?!
「博士!」
「なんでそんなに怒るの?宮下さんのほうが僕より好きだから?」
「あ、あ、なにか拭くものお持ちしますね!」
といって、店員はそそくさと立ち去ったけど、絶対それ聞かれたよ!
「博士!」
「うううう・・怒らないでよおおお・・・僕直すからさああ・・」
博士は顔を伏せて泣き始めた。まだ一杯も飲んでないのにこの泣き上戸。
こういう人だったかなあ。博士って。
「なんでそんなに弱気なんですか最近・・」
「だってさあ、宇田川くんならこう言っていいかなって思えるんだもん」
「どうして僕なんですか。僕は博士の足元にも及ばない、ペーペーの見習い研究員ですよ。
そういう意味では、まだ月島のほうが、ぜんぜん優秀な研究員でしたよ。そこだけは尊敬してましたし。
どうして月島・・さんいなくなっちゃったんだろう。」
「いなくなって寂しいの?」
「嫌なやつですけど・・けど、あの人の妹さん、時々きて、『兄は今日来ましたか』って聞きにくるんですよ。
ああゆう健気な妹さん見ていると、月島さんもいい兄貴の面があったのかなって。
・・同じ長男として、自分ってどうなのかなって。」
「宇田川君は、」
「お手拭お持ちしました。あの、ご注文は?」と、店員が入ってきた。
僕は、博士が何を言うか知りたかったので、とりあえず生二つと言ってすぐに店員を切り上げさせた。
けれども、中途半端な話の区切りで、博士もどう話をつなげたらいいかわからない様子だった。
「博士って兄弟いらっしゃるんですか」
「どう思う?」
「さあ・・けど、なんだか弟って感じします。」
「宇田川くんの弟かあ。それもいいなあ」
「あまり実の弟からの評判よくないですよ。」
「えー夏樹くんと冬樹くんがそんなこと言ってるの?どっちもいい子そうなのに見る目ないなあ。」
「特に夏樹とは会えばケンカばっかりですよ。冬樹とはずっと喋ってませんし」
「冬樹君って四樹男さんそっくりだよね」
「はい。父にすっごく似てます。僕なんかとは正反対ですよ」
そう思うと、失敗ばかりの自分がどうしようもなくだめなものに見えてくる。
僕はあの兄弟のなかで、長男のくせに一番の落ちこぼれだった。
それに今日だって高価な薬の配分を間違えてムダにしてしまった。
怒られるのが怖いからなんとか隠したけど、そういう考え方をしている自分を自覚すると、イイトシしてなにやってんだろうとつらくなってくる。
同期の研究員を見ていと、いつまでたっても自分は成長しないし、出世もしないことに気づいて、
やっぱり自分に価値がない気がする。
博士のことをわがままだとか、子供っぽいだとか言えないな。
「宇田川君、あのさ、」
「はい、生二つです」
と、店員はジョッキを2つ持って話をぶった切ってきた。
そして、また、店員が引っ込む頃、どうしようもない会話の隙間が生まれてしまい、
また博士は困っているような様子で、僕は「間が悪いですね」と苦笑いをしてしまった。
「飲みましょうよ、博士。」と、僕はジョッキをもった。
けど、博士は、ジョッキを持とうとはしてなかった。
そして、いつもとは違う博士の目があった。
「宇田川君は、『僕なんか』なんて言っちゃダメ」
あまりに違うので、僕はなにも言えなかった。
その僕のセリフを待つ前に、博士はどんどん言葉を続けた。
「宇田川くんは宇田川春樹くんじゃないとだめなの。僕にとっては宇田川春樹くんこそ必要なの。
この僕でもその理由はわかんないけど、
僕に必要な人の条件は、今のところわかるのは頭のよしあしじゃないってこと。
あとは、けど宇田川くんという人間じゃないとだめってこと。
宇田川くんがスゴイ人だろうが、あまりスゴくないひとだろうが僕には関係ない。
使える人かどうかも関係ない。研究所長の息子だってことも関係ない。
君は君でいることが一番重要で、君としてここにいることが一番重要なんだ。
だから、『僕なんか』とか言っちゃダメ。絶対にダメ。それは僕が許さない。
それに、僕以外にも、そうしていることで救われている人がいるはずだから。」
そう博士は言い切って、ジョッキを持って一気に飲み、ドンとジョッキを置いて、
「言わせないでよ恥ずかしい」
と目を見て言われた。
僕はその言葉に、どう返せばいいかわからなかった。
そうしている間に、博士は店員を呼んで、プリンの盛り合わせを注文していた。
「博士、」
「何」
ちょっと博士は酔っている様子だった。すこし目つきが鋭い。ちょっと怖い。これ言って大丈夫かな。
「あの、乾杯してません」
「あ。」
と、いうと、博士はばつがわるそうに、控えめに乾杯した。
そして、控えめに、「・・僕のこと嫌いになった?」と聞いてきた。
その様子に、ぼくは、ちょっと笑ってしまった。
「いや、博士にそういってもらえて、嬉しかったです」
「本当?!」
博士は立ち上がって喜んでいた。
そこにさっき注文したプリンの盛り合わせが来て、ますます博士は機嫌がよくなって、
今日は僕が奢っちゃうよとか言い出した。
わかりやすいんだかわかりにくいんだか、全くわからない。
こんなにも、扱いが難しいこの世界が認める天才上司だけど、
こういう博士をみていると、やっぱりこのひとについていってよかったかな。って思う。
「じゃあ、僕もなにか注文しようかな。焼鳥のカワと、あと、」
「焼鳥食べちゃだめ」
「なんでですか」
-----------------------
03:13:33
BL(設定ではBとはいえぬアラサー設定だけど)のくせにすごく書いててやりやすい。
ほんとはすっごい苦手なはずなんだけどね。
ほんとすらすら出てくるから楽しいなこいつら。
▲月島くんと宇田川くん。松谷博士までがんばれなかった。
WWAと同じように小説とかも脳内でアニメっぽく再生しながら書くので
外面のキャラ設定全部あるっちゃあるけどヘタだからコレジャナイ感があってつらい。