「このデザインですが、女性からご好評いただいています」
「内装の高級感はUXよりも上と言われていて、私もそう思います」
内外装を見る分にはベース車のヤリスクロスは見る影もない。試乗車「cool」のインテリアは裏起毛のウルトラスエードなる素材で覆われおり、これはスポゥツカーでよく使われるものだ。
「メインターゲットの女性にも扱いやすいサイズです」
ことさら女性を強調すると思ったら成程。スティアリングがひどく軽く、抵抗感が無くて滑らかだ。エンジンは作動せず、モータァのみで走り出す。
「これまでのハイブリッドと比べると、なかなかエンジンが掛からなくなりました」
エンジンが掛からないのはいいが、気になったのは乗り心地。段差を乗り越えた時のショックが予想以上に大きくて、思いがけず声となる。
「んっ?」
「クールと言ったって、とくに足回りをいじってあったりは無いでしょうな?」
「ええ、Relaxとの違いは内外装のみです」
それにしては、いかんせん脚が突っ張っている。そして、も一つ。
「おーーーーん」
土管工事のような音。掛かりさえすれば、三気筒そのままの荒っぽいノイズが立ち込める。
「どうしても踏み込むとエンジンが掛かってしまうので…」
このおーん。はタイミングが悪くて気分と同調しないのが駄目だ。バッテリーの充電が減れば否応なくエンジンは掛かるので、いざ停まろうという時に掛かったりもする。そしてまた、ブレィキングには違和感がある。回生ブレィキの制御なのか、踏力は一定でも速度が落ちるにしたがって制動力が増すようで、コントロールが難しいのだ。
「RX-8からのお乗り換えだと、だいぶ毛色が違いますが」
「はぁ、まちょっと気になっていたというか」
「ほほう、コンパクトなSUVがですか。他にはどんなクルマを?」
「はぁ、ホンダのWR-Vとかね。あれはいいクルマでしたよ」
「そうですか」
半額のクルマを挙げられて黙り込んでしまったセールス氏。しかしこれじゃあずっとWR-Vの方が扱いやすい。もっとも、田園調布のマダムは今どき引き上げ式のサイドブレィキには我慢ならんだろう。
「ところで、今日はお休みですか」
「まあ、万年休みみたいなもんですな」
「御冗談を」
色々なことから晴れて自由になった私である。
「LBXも大人気でしてね。いま注文しても、納期は12月頃になるでしょうね。今度出るGRのエンジンを積んだモデルは、恐らく抽選販売になるでしょう」
「へえ、そんなのがあるんですか」
「なにしろワイドトレッドですから」
それでいてLBXのホイールベースは2580mmと比較的短い。場合によっては機敏なハシリを見せるのかもしれない。
しかし今回の試乗は少しばかり期待外れだったと言うしかない。それが仕様によるものなのか、はたまた個体差なのかは分からないが、やはりクルマというものは乗ってみないと分からないのである。LBXとヤリスクロスは同一人物だった。ほんとうの意味での「小さな高級車」が生まれるのはいつになるやら。暗雲垂れ込める船出に早くも将来を憂いてしまう。
「こちらカタログになります。またご検討ください」
「ええ。じっくりと」
建前だらけの社会である。
夕焼けに染まる空。川面のきらめきが筋となって夕日へと伸びている。お天道様。まさしく天へとつづく道であった。