牧童の溜息 -126ページ目

わかった!という幻想


「メル友の絵文字も増えて開けし梅雨」牧童

聞かれる前に解説しちゃおう。

まずメル友がわからなければ、俳句の意味もわからない。
メル友はわかっていても、どうとらえるのか感覚がそれぞれ違う。

「メル友」であるのだから家族・親戚・友人・恋人などの関係でのメールではないだろう。
「メル友」はまだ会ったことがない、でも波長が合っている関係。
それが友達レベルなのか恋人か愛人レベルなのかは読み手の解釈の自由だ。

次に「絵文字も増えて」だが、これも絵文字がわからない人にはわからない。

文字では表現しきれない感情を絵文字に託す。
絵文字が増えているということはなんらかの感情が高まっているのだろう。
では、どんな絵文字なのかを推測していく。
そのヒントは次の語句だ。

「開けし梅雨」から考えていく。

これが「秋の暮」とか「冬木立」だとまたイメージが違っていく。

梅雨が開けたのだから、明るさを感じる。まさかドクロやウンチの絵文字ではないだろう。

心病む彼女からメールが来た。
まだ会ったことはないがメールでいろいろ話し合ってきた。
心が通い、秋には僕に会うために上京する。そんな彼女から来た今日のメール。絵文字などあまり使ったことがない彼女なのに…
            
絵文字が並んでいた。
僕の心の梅雨が開けた。
と言う俳句だ。

でも梅雨が開けると明るい?

通常、この共同幻想で他人の俳句を解釈してしまうのだ。

でも…
ドクロの絵文字だってありえる。

     

やんなっちゃいます!
梅雨が開けちゃいました。
私、太陽が大嫌い!怖いです!肌がうけつけないのよ!闇から引きずり出さないで!

そんなメールだってある。

私たちの自己表現は俳句よりも短い信号で相手に送られていく。

相手は自分の感覚の思い込みで相手を掌握する。

わからないやつに、いくら自分の心をわかってもらいたくなって説明しても無駄なんだよ。
説明、弁明しなければわかってもらえないような自分は駄作なんだとあきらめたほうがいい。


少女Aへの公開ラブレター


◆「アガパンサスってお花の名前だったのねf(^◇^)あははムキョウヨウデスイマセンハハハ」

何でも知っている人などいない。
花の名前だって君のほうが多分、僕よりいっぱい知っているだろう。
たまたま僕がアガパンサスに出会っていただけだ。
教養は知識ではなく知性であり感性である。

◆「日本で生まれ教育を受けてきた人だったら、なん歳くらいから、俳句が説明しなくてもわかるようになるのでしょうかぁ」

実にくだらない質問だね。
説明しなければわからない句は駄作だということの本質を説明すると、わかる人にだけわかってもらえればいいのであって、わからない相手にいくら説明してもわからないのだから愚かだということなんだ。
万人にわかってもらいたくて俳句を作っているわけではない。
わからない人にとっては駄作のままでいいのだという想いがあるのだ。

句もしくは僕に関心があれば僕の句を読み、何かを感じ取ってくれるだろう。
関心がなければスルーしていくだけだ。

君は僕に関心を持ちはじめた。だから僕に質問してくる。
僕は僕で君から愛されたくて懸命に説明してしまう。もし君が僕を愛していたら、アガパンサスに自らの感性で出会っていただろう。

◆「年上が好みなのぉ?年上好みならお茶のみ友達に私の50代~70代の知り合い紹介しましょうか」

僕は年齢に対するこだわりはない。ただしセックスできることが条件だ。
メールで盛り上がると会いたくなる。
僕はまだ茶飲み友達を求めてはいないから、セックスするなら会うけどしないのなら会わずにこのままメル友でいようと答えている。

こんな僕でよければ紹介してください。

◆「【本当の恋】ってどんな恋なんですかぁ(・・?)」

そんなもん僕にもまだわからない。心だけの問題ではないのは確かだ。だんだんわかりかけているんだが、あと一歩足らない。
だからまた新しい恋を求めている。
君を抱き締めたとき本当の愛に出会える予感がする



アガパンサスよ僕にも恋を!


僕は俳句や短歌、都々逸といった定型詩が好きで、気が向くと作って遊んでいる。
ごく短い言葉でという制約があるから好きなんだ。
制約がなければ、僕はたらたらと長文を書いてしまう。

僕は自由に憧れてはいるけど、俳句のように規制の中での自由を楽しむタイプであって、まったく自由になったら、不自由になって、恋することもなくなるだろう。

俳句は好きだけど、そのための勉強もしていないし、同人誌にも入っていない。
だから上手、下手はあまり気にしてはいない。評価されることも望んでいないのだが、僕には心の露出癖があるので誰かに見せたくなる。
そこでここの日記に露出させてみた。

そうしたら、これはなんじゃろか、ようわからんから説明してくれやとコメントされてしまった。
説明しないとわからないような俳句は、駄作じゃ。失敗じゃ~
575の短い言葉からある程度の認識を共有できたら、後はそれぞれの自分の感性に応じて解釈していけばいいんだ。
ショックのあまり、缶酎ハイが喉に詰り、むせ込んでしまった。
「牧童さんてば、すけべなだけでなく、風流に俳句も嗜まれていらっしゃったのですね。惚れちゃいました」とラブレターが来るのを楽しみにしていたのに。

それでも少女Aから説明を求められたら、笑顔で答えよう。

「梅雨長くアガパンサスも力尽き」 牧童

俳句には季節を表わす季語を入れるお約束になっている。
この句には梅雨とアガパンサスの季語が二重に入っており、これも厳密に言えば望ましくない。でも二重季語になってしまったんだ。しかたないよね。

桜、つつじ、紫陽花など季節の流れを感じさせる花がある。
夏と言えば朝顔や向日葵だろう。
ところが最近、朝顔や向日葵よりこのアガパンサスが目立ちはじめている。青紫のロマン
チックな花を咲かせる。ヨーロッパでは庭園のアクセントによく植えられているそうだ。

別名 むらさきくんしらん
花名はギリシャ語で「愛の花」
花言葉は恋の訪れ

梅雨時、いつの間にか、ニョロニョロと茎を伸ばし、花を咲かせる。
アフリカ原産だけあって、真夏の太陽と青空がよく似合う花だ。
今年は梅雨明けが遅く、真夏の太陽を待たずにアガパンサスが力尽きて枯れてしまったという、ただそれだけの俳句である。

これを例えば少女Aさんなりに解釈すると、私は愛の花、アガパンサスのように恋の訪れを待っていたのに、あまりにも世間の男が冷たくて、梅雨のように泣きながら、力尽きて枯れていくのね。本当の恋もしらないままにという、句になる。

秋に恋するあなたへ贈る誕生花と花言葉
9月 1日 ほていあおい  揺れる心
9月13日 ブッドレア   恋の予感
9月15日 コスモス    乙女の心
9月17日 チューベローズ 危険な快楽
9月20日 たますだれ   便りがある
9月21日 じゃのめぎく  私を見つめて
9月27日 ふうせんかずら あなたとともに
10月1日 ゆうぜんぎく  老いても元気で
10月14日 ストレプトカーチス ささやきに耳を傾けて
11月5日 オンシジウム いっしょに踊って
11月13日 ブバルディア 交わり・交際

揺れる心に恋の予感。乙女の心と危険な快楽を求める肉体とが生み出す摩擦熱に君は眠れぬ夜が続いていた。
9月20日、待ちこがれていた牧童さんからの便りがあった。

もっと僕を見つめて!
君とともに生きていきたいから!
老いてもいつまでも元気な身体で君を抱きしめるから!
僕の悪魔のささやきに耳を傾けて、さあ、僕と一緒に踊ろう。

そして11月13日、二人は結ばれた。

こんな妄想を枯れゆくアガパンサスに託し
思い通りにはならない自分と未来とに、乾杯。