強敵・関羽を前に苦戦する魏軍。王の伝令から「鶏肋」の二文字を聞いた行軍司馬の司馬懿(仲達)は、主簿・楊修が魏王に撤退と遷都を進言したと勘付いた。司馬懿は魏国を危機に晒すその策を止めるため楊修の元へ。
* * * * *

「楊主簿。」
「おや珍しい客だ。行軍司馬どのがやって来るとは何事だろう。」
「"鶏肋"。」
楊修は人払いをする。
「仲達はやはり思考が素早いな。もうお前は大王が戦う気が全く無いってことを知ってるのか、ならどうして(自分の天幕に)軍装をまとめ片づけに帰らない。俺のところへ(急いで)やってきて何をしようっていうんだ。」
「楊主簿は大王に遷都の策を進言したのではないか。」
「仲達くん(*1)、(君の)思考の速さは三十里に到らないな(*2)。」
「主簿は本当に魏国の安全を対価にしてまで、平原侯のために世継ぎの座を争うというのか。」
「おかしな話だな。どうして洛陽は魏国の新都にできないというんだ。」
「楊主簿、我々は必ず周りと相談してから進言すべきだとは言わない。洛陽はもちろん新都にできる、ただしそれは将来であって、今ではない。遷都の基本は国内に問題が隠れていないことそして国外に戦乱がないこと。もし今関羽から逃げて洛陽に遷都すれば、必ず軍心(兵士たちの心)は乱れ、魏国は扉を開けっぱなしになり、逃れられない(内外)両面の敵を迎える困難に立たされる。もし今遷都すれば、私もお前もよく分かっているはずだ、魏国将士があっという間に分裂する禍に陥る。楊主簿、お前の考える両全の策(*3)は、魏国の根底を守ることを考えてるのか。」
「お前はこう言いたいのか、もし(遷都して)鄴城を廃したら、曹丕は坐して待つなどできず鄴城を拠点として謀叛を起こすと。」
「主簿の才知は広く非凡である(大変優れている)のだから、功を建てる時だと思うのなら、魏国の大局のために、大王の前でもう一度関羽に対する進退について良策を考えてくれ。」
「俺の両全の策が、仲達くんの言う所の安全の策だ。俺もお前も腹の中でわかってるんだ、大王が亡くなった後(*4)俺達が二人とも生きてたら、魏国はおおいに乱れるだろう。俺達の戦いは魏国の後継争い、二人のうちの一人が去れば、やっと内乱は防げるのだ。これは避けられないし、もう引き延ばせない。だから今この時から、俺達二人は全力でもって(戦い)、生死を決めようじゃないか。どうだ。」
「…私が言えるのはこれだけです、主簿、お気をつけて。」
「司馬仲達、知己とともに交わす酒は、最高だ!」
*1 ~兄は同僚の男性に対して親しみをこめた呼び方。
*2 直訳:(君の)優れた考えは三十里を越えるほど遅く出てこないな。「有知無知三十里」の後、楊修は他人より三十里早い思考を巡らすと自負しているが、ここは「お前の思考も普通の人よりは早いな」の意。
*3 関羽と戦うと孫権や劉備に挟み撃ちにされる可能性があり、関羽から撤退すると防衛線を失い天子を奪われるおそれがある。この二つの難点を解消すると言って提じたのが楊修の両全の策。
*4 王の御代は千年万年続くというのが建前なので、万歳の後は死後という意味。
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楊修、この人プライド高すぎて友達いなさそうだけど、結局自分と渡り合えるライバルだけが友達なんだな…。
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