先週末、久々に新宿の「末廣亭」に入った。
末廣亭は都内の老舗寄席の1つ。
昔はこの近所に住んでいたので、中学生くらいまでは、時々行っていたものでした。
普段のレギュラーな寄席以外に、日曜日はNETテレビ(現テレビ朝日)で「日曜演芸会」という番組を中継していて、見に行ったものです。
ただ、落語演芸バラエティー番組だとやはり有名なのは、今も人気の「笑点」でしたので「日曜演芸会」はちょっと地味と言うか、玄人受けと言うか、年寄り受けのような番組で、出演者も桂米丸、月の家円鏡くらいしか当時の私は知りませんでした。
司会だって、誰だっけ…?あ、福富太郎だ!
福富太郎って何者だったんだ?(笑)
「笑点」だと三波伸介(その前は立川談志だし)と、司会者が有名で存在感があったし、やはり当時としては「笑点」の方が圧倒的にポップでしたからねー。
以前、久しぶりに生の落語を聞いて、たまには懐かしの「末廣亭」にも行ってみたいなと思っていたのだが、なかなか都合がつかなかったり、久々に行くのなら知った顔の噺家さんが出てる方がいいなとか思っているうちにこんなタイミングになってしまった…。
昼とかにのんびり落語を聞きたいなとかも思っていたが、それもままならぬ先週末の夜の部へ。
そして、この日の夜の部主任(=トリ)を務めるのは“桂歌丸”師匠。
それこそ、人気寄席番組「笑点」に長らくレギュラー出演し、今じゃ番組司会者の立場にまでなられた大ベテラン。
歌丸さんと一緒に「笑点」を盛り上げた出演者も多くが故人になったり降板したりという中で、地味なポジションをずっと続けたことで、ここまで来たという感じの方ですね。
でも、歌丸さんの超カッコイイ有名エピソードで、一層ファンになりましたね。
お笑いは、世の中の出来事に敏感でないと務まらない。
それすなわち、政治について毒や皮肉を面白可笑しく刺すことも仕事と言える。
ある時、そんな笑いを放送した「笑点」を見ていた政治家が、飛行場で歌丸師匠と出くわし、「政治家の悪口をいうな」と苦言、いや職業からすると政治的圧力をふっかけてきた。
しかし機転の利く(正直に言ったのかもしれないが)歌丸さん曰く「悪口言われるような政治家になるな!」とぴしゃりと言い返した。
政治家はぐうの音も出なかったそうな。
しびれますねー!いや、カッコイイ!!
笑いは反骨精神、笑いの本質はロックよりもロックしているものも多いのです。
しかしながら、現在の歌丸さんは入退院を繰り返すことも多くなり、大変失礼ではあるが明日訃報が出ても「そうかぁ」とも思えなくもない気も…。
なので、歌丸師匠の一席を生涯一度は観ておこうと思った次第。
この日、末廣亭に到着したのが18時20分くらい。
外観は昔と変わらず。
木戸銭は¥3,000なのだが、こんな時間だったので¥2,500で入場出来た。(嬉)
場内は、思っていたより綺麗じゃないですか!
もっといろいろと古めかしくなっていたり、朽ちた感もあるかと思っていたが、全体的な作りは変わらず、そしてそれが綺麗に保存されている。
これまた嬉しいね。
椅子席が新しいシートになっていたくらい?(昔は、確か金色のようなビニールコートのシートだったんじゃなかったっけかな?)
椅子席もそこそこ人が座っていたんで、桟敷席の一番後ろに落ち着く。
末廣亭は、畳敷きの席があるんです。
場内の撮影が出来ないのが残念ですが、ネットで拾った画像を1つ。
桟敷席も久々で、靴をしまう場所をすっかり忘れてました。(苦笑)
思いのほか、お客さんがいて100名弱といった感じか?
また、若い方、そして20~30代前半くらいの女性も多く、驚き!
案内担当スタッフも若い女性でした。
昔はオバちゃんだったのに。
入場時、高座は三笑亭夢太朗師が登場したばかりで枕で暖めていた。
そして始めたのは「錦の袈裟」。
よくある吉原ネタに身分間違いネタの合わせ話。
この日私としては女郎ものの落語を最初に聴くことになるのだが、これが偶然か、最後の歌丸さんが披露した噺へと繋がるのでした。
その後登場したのは、
・Wモアモア(漫才)
・柳亭楽輔(落語「替わり目」)※神田紅(講談)の代役
・三遊亭遊三(創作落語…と言うよりほぼ漫談みたい)
~中入り~
この辺りから人がどんどん入ってきて、椅子席はほぼ満席。
桟敷席も前列にポロポロ座っていたくらいだったが、2列で見る程に。
そして休憩明けて、
・春風亭柳若(落語「看板のピン」)
・三遊亭円馬(落語「地口合わせ」)
・桂歌春(創作落語…歌丸一番弟子ということで歌丸いじりネタ)※桂竹丸の代役
・やなぎ南玉(曲ごま)
ここで一度幕が下りた。
再び幕が上がり桂歌丸師匠登場。
幕が下りたのは、トリへの演出かと思ったら、関東落語の歌丸さんなのにご本人の前には関西落語で使う釈台がある。
ご本人の挨拶によると、やはり病み上がりの影響で正座や歩行が難儀とのこと。
その準備のために一旦幕を下ろしたようだ
心配ではあるが、おしゃべりの様子はとっても立派。
呂律が回らないとか、言葉に詰まるなんてことはないので安心できた。
枕で、ご自身の幼少の話に触れ、実家は女郎屋だったと話す。
私が入場時の初噺が前述の通り「錦の袈裟」という女郎絡みの噺。
そこから、リアル女郎ネタから始めたのが「紺屋高尾」。
これは、吉原の看板花魁の高尾太夫に一目惚れした紺屋の職人が三年間休まず遊ばず十両の大金を工面して、吉原へ行くが、高尾太夫から「次はいつ会いに来てくれるの?」と訊かれ、つい本当のことを話すと高尾がいたく感激して、自分を嫁にして欲しいと思いも寄らぬ展開へとなる、人情もの。
やはり歌丸さん、お上手な話し方でした。
聴き入りました。
頭の回転、言葉の滑舌、声の出方は全く問題無く、ただ身体面がこれ以上悪くならないと良いのですが。
ちなみに「末廣亭」、明日からの12月上席(1~10日)の出演はこちらです。
通常の営業だと昼の部も夜の部も入れ替え無しで3,000円。
もう元旦から営業しています。
またエピソードの1つに、あの東日本大震災があった翌日も営業して、非常事態でも「笑い」を「日常と同じ」ことを唯一提供した場所だと、あとあとになって評価が高くなっていった逸話もあります。
とにかく、たまには寄席へ行くのも良いものですな。