抗うつ剤のSSRIは、セロトニンという神経伝達物質の作用を増強させるために作られた薬です。しかし、実際の人でおきている複雑なうつ状態は、この薬により、抗うつ作用のみならず、予想できないさまざまな作用が現れます。
 
医師にとって、薬の効果を予期するのは難しいのですが、日本では、昔から、医師は、患者の体質を知っていて、薬をうまく使うことのできる人であると信じられています。しかし、これは希望に過ぎず、多くの場合、薬の効果をあらかじめ予想することはできないのです。
 
特に、抗うつ剤は、元にある病気の影響などあり、薬の作用、副作用がどう出てくるのかの予想は極めて難しいと思います。性ホルモンも、抗うつ剤の効果に影響を与えることがわかっています。今日はこの話題です。Neuropsychopharmacology. 2009 Feb;34(3):555-64.
 
薬の効果をしらべるために動物モデルが使われます。マウスやラットを用いて、脳内の海馬の脳細胞に、いろいろな薬を注入して、動物の行動の変化をみます。抗うつ剤の代表的な評価法として、水泳テストがあり、動物を水につけ、どの位のやる気で泳ぎきるかをみます。泳がせ実験前に、動物脳内に、SSRIを注入して、やる気効果の変化をみます。
 
まず、脳内にセロトニンを注入して、マウスのやる気が高まるかをしらべます。それが証明できたら、セロトニンを長持ちさせる抗うつ剤のSSRIを脳内海馬に入れて、実際に脳内でセロトニンが長持ちするかを調べます。そして動物の泳ぐ時間との関連を調べます。その後に、動物をと殺して、脳内物質を回収して、セロトニンなどの生体物質を計り、薬の影響をみます。
 
抗うつ剤を投与した動物では、セロトニンは長持ちするので、動物はやる気を出して、水中でよく泳げるようになります。しかし、動物でも、実験はそれほど、単純ではなく、動物間の個体差や、同じマウスの系統の違いで、セロトニン濃度とやる気との関連は同じではありません。しばしば、脳内セロトニン濃度と、泳ぐ時間が平行しないものです。
 
理論では、セロトニンの増加は、神経伝達が増強するので、元気がでるはずです。水泳時間とセロトニン濃度との関連の結果はばらつきます。
 
うつ状態の人に、抗うつ剤の投与をして、脳内セロトニンを増やせば、不安やうつの解消につながることを期待されます。しかし、抗うつ剤を実際の人に投与して、自殺や興奮性を高めることがあります。
 
セロトニンがセロトニントランスポーターと結合するのを、どのような機序で、SSRIが押さえるのかについて、脳内の動的なしくみはまだ、解明されていないようです。脳を変容させる薬は、今後も試行錯誤を繰り返えしながら、開発せざると得ないと思います。
 
このブログでは、特に性ホルモンの影響について、脳内への影響を書いています。
 
巷では、女性ホルモン力を高めようとか、その低下は女性の健康を悪化させるという記事にあふれています。
 
効能の確かめられていないサプリの宣伝で、新聞の一面が使われています。今の時代、効果は無くても、大きな副作用がなければ許される時代なのでしょう。選び取る側に責任があると考える時代なのだと思います。
 
さて、女性ホルモンと脳との話題に戻りますが、女性ホルモンは、海馬の脳神経に対する影響力が強いです。女性ホルモンの代表であるエストロゲンが、女性の不安を悪化させ、抗うつ剤の効果を低下させるという話題について、紹介します。
 
雄マウスでは、抗うつ剤SSRIの注入により、セロトニン濃度が上昇しますが、発情期前のメスマウス(エストロゲンが高い時期)では、こうした抗うつ剤のセロトニン増強作用は消失しています。つまり、メスマウスでは、女性ホルモンの影響があると、セロトニン濃度が上昇しにくくなるのです。発情しているマウスでは、セロトニンは早く消失しています。
 
抗うつ剤SSRIの効果をみてみましょう。単純図解では、セロトニンは、セロトニントランスポーターSERTに結合して、再吸収されます。SSRIは、セロトニントランスポーターSERTとセロトニンを結合させない作用があり、その結果、脳内局所でセロトニンが増加します。この話に熟知していない場合は、ウィキペディアの説明図を参考にしてみてください。
 
すべて理解できなくても、最後のセロトニンがどうなるかだけでも理解できれば良いでしょう。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%B8%E6%8A%9E%E7%9A%84%E3%82%BB%E3%83%AD%E3%83%88%E3%83%8B%E3%83%B3%E5%86%8D%E5%8F%96%E3%82%8A%E8%BE%BC%E3%81%BF%E9%98%BB%E5%AE%B3%E8%96%AC
 
セロトニントランスポーターがセロトニンに結合すると、セロトニンが再取り込みされるのですが(セロトニンが減少する)、抗うつ剤SSRIをいれると、セロトニン取り込みが抑えられ、セロトニンが増加した脳内環境となるのです。
 
その結果、神経伝達がゆきわたり、動物は活気がでてきます。しかし、SSRIが、セロトニントランスポーターを、どのような機序で抑え込むのかについては、まだ、十分に解明されていません。
 
SSRI(フロボキセチン)を動物モデルの直接脳内にいれると、脳内セロトニンが長持ちして、動物は水泳能力が増します。そこを確認した後、さらに、エストロゲンをいれると、抗うつ剤で増強した水泳能力が消失してしまうのです。
 
言葉での理解が難しいですが、女性ホルモンは、セロトニン代謝の面からは、セロトニン作用を消失させてしまう物質なので、発情期のマウスの不安は、増強していると言えます。
 
一方、卵巣を取った雌マウスでは、SSRIの効果はでやすくなり、セロトニンは長持ちしています。その後から、エストロゲンを動物にいれると、セロトニンは減りやすくなります。そして、抗うつ剤SSRIの効果がでにくくなります。
 
複雑な話なのですが、エストロゲンの多様性を理解してみてください。もちろん、エストロゲンは動物を元気にする、迷路から抜け出せるようになるとの実験は、いろいろに報告されているようですが、不安物質としての知識も確立されていくでしょう。
健康な人でも、自分はいつ死ぬのかという問題は、かなりの人が考えると思います。特に、歳をとって行くほど、普通は、気になってくるものと思います。

一般のクリニックでの診療現場でも、寿命は時に、話題になります。
 
女性の平均寿命は86歳位で、ひとつのめやすの数値ではあります。

しかし、死のイメージをふくらませる時、他にも想像をするための数値があります。たとえば、ある歳の人を1とすると、自分の年齢ではどの位、死に易いのかを想像するための数値です。
 
米国女性の論文ですが、65-69歳の女性の死亡を1と設定すると、75-79歳の女性の死に易さは3倍の確率、80-84歳では5.7倍、86歳以上では9倍となっています。女性は長寿といえど、85歳以上になると急に死ぬ確率が高くなってしまいます。
 
死を意識することは、生きるということをイメージすることでもありますが、平均寿命だけでなく、こうした数値をイメージするのも、興味深いかと思います。
 
以前に、初潮年齢が低い女性は、生命予後が悪い(長生きしない)という話題を提供しました。この話題に関して、別の情報を提供します。

この論文は、初潮と寿命の関連を検討するだけでなく、どのような身体条件、生活環境が、女性の寿命と関連するかを導くための研究です。
但し、この研究でも、初潮と寿命との関連が論じられています。

65歳以上の女性1031人を15年間追跡して、その死亡年齢と初潮年齢を比較した論文です。つまり、65歳をすぎると、どういうタイプの女性が、早く死に易くなってしまうのかを検討しています。

この研究でも、対象女性が自覚する健康度や病気の保有状況と、寿命との関連がみられています。BMC Public Health. 2010 Jun 15;10:341. PMID: 20546623
 
これはオーストラリア女性の話です。オーストラリアは豊かな先進国ですが、医療環境は日本ほどよくありませんし、貧富の差もあります。この生活環境と女性の寿命の関連研究は、1992年に追跡が始まりました。
 
日本では、オーストラリアより、生活の格差が少なく、平均的な暮らしをして、平均的医療を受けています。肥満の人も少ないです。そのため、日本の疫学研究では、生活格差と寿命の関係をみるのは難しいような気がします。そうした意味では、生活環境の格差の大きい外国の女性疫学から、何かを学べるはずです。
 
女性の長寿に影響を与える因子に、月経期間があります。出産可能年齢(月経のある期間)は、長寿にはつながらないようです

月経期間は、初潮から閉経までですが、初潮が早いと月経期間は長くなります。長期間に女性の健康と死亡を追っていく疫学研究において、子供を多く生むことは、出産のリスクが加味されます。しかし、閉経が遅い女性では、生命予後は悪くないようです。55歳を過ぎてから閉経した女性は、50-54歳で閉経した人より、15年の間に死ぬ確率が低下しています。
 
しかし、初潮の時期を、12歳未満と、12歳以上に分けて、それぞれの群を検討しますと、初潮の時期が早い女性では、65歳過ぎると早く死ぬという数値です。初潮の時期が12歳未満の女性は、12歳以上の女性とくらべ、だいたい1.3倍位の確率で死ぬようです。これは、生活環境などを加味しても、この傾向がでています。
 
初潮の早い女性のかかえる健康リスクに、肥満があります。初潮が早かった成人女性は、肥満傾向にあり、かつ心臓疾患を有する割合が高いことが示されています。この論文の対象女性でも、初潮の時期が12歳未満の人では、BMIが25を超える人が60%にもなり、一方、初潮の時期が12歳以上の人ではBMIが25を超える人は40%と少なくなっていました。
 
早期の初潮そのものが、心血管系にマイナスの影響を持つのかは、まだ確定していないようですが、初潮前にすでに代謝系の異常を抱えているかは、今後の研究で明らかになるかもしれません。
 
特にリスクが高いのは、生まれが小さく、8歳までに体重増加が著しい女性で、早く初潮と迎える傾向があります。細胞が早熟しやすいと、かつ早く老化するようです。Sloboda Dら J Clin Endocrinol Metabol 2007, 92:46-50.
昨年のブログで、私たちの遺伝子を守る重要な働きをしているBRCA1遺伝子の話を紹介しました。この遺伝子は、DNAの複製をする時にDNA構造が壊れないように修復に働く遺伝子です。
 
このDNA複製の暴走が起きると、がん細胞となっていきます。BRCA1遺伝子の異常により、その働きが悪いと、乳がん、卵巣がんになりやすくなります。
 
いわゆるがん家系の人は、正常の細胞においても、BRCA1遺伝子異常を持ち合わせています。そのため、家族内に、乳がんの家系が多い人(特に姉妹に乳がんのある人)では、事前にこの遺伝子をチェックすると良いと考えられます(日本では、一般的な診療所でチェックできるまでには至っていません)。将来、がん抑制遺伝子の操作が可能にして、がんの治療に応用できる方向性があります。
 
BRCA1遺伝子は、がんの発症を抑え込むのみならず、細胞の世代交代をスムーズに行うための監視の役割をになっています。そして、細胞障害が大きい場合には、その細胞を体内からすみやかに消去する方向に、働きます。
 
BRCA1遺伝子は、正常細胞の維持に努めるために働きますので、BRCA1遺伝子に異常があると、他の部分の体の細胞にも、働きの異常が起きてくると考えられます。
 
そうしたBRCA1遺伝子の多彩な役割を紹介します。Shukla PCら(カナダ)が、Nat Commun. 2011 Dec 20;2:593. PMID: 22186889に発表した論文を紹介します。
 
題して、BRCA1遺伝子は、心筋梗塞後に心臓の働きを守るために必須な調節因子である。
 
BRCA1遺伝子が心臓の働きを守る、ゴールキーパーの役割を担っている事実を、マウスの実験を用いて証明してみました。マウスの心臓の細胞に、BRCA1遺伝子を消去させます。この遺伝子異常を抱えた状態の心臓に、虚血(血管をしばって、血流を低下させる)させたりなどの、心臓に負担をかける条件付けをすると、心臓に構造的な変化が起き(形が異常になっていき)、心臓の働きが低下してしまいました。つまり、BRCA1遺伝子異常をかかえるマウスでは、心臓の働きが低下ししまい、心不全となっていまうことが証明されました、
 
BRCA1遺伝子異常があると、心臓細胞は消えやすくなり、ポンプとしての心臓の筋肉の働きが保てなくなり、心不全という状態になることを示しました。
 
BRCA1遺伝子の働きの低下は、P53と呼ばれる有名ながん抑制遺伝子の働きにも影響を与えることが証明されています。ひとつの遺伝子異常が、次なる遺伝子異常を呼びこみ、がんが発症しやすくなるのです。
 
p53遺伝子も、DNAが修復不可能な損傷を受けた場合に、アポトーシス(細胞が自ら密やかに消えていく現象)を誘導するための遺伝子として、知られています。がん抑制遺伝子として、最初に注目を浴びた大発見でした。
 
p53遺伝子(ウキベディアより)http://ja.wikipedia.org/wiki/P53%E9%81%BA%E4%BC%9D%E5%AD%90
半数以上の悪性腫瘍においてp53遺伝子の変異や欠失が認められる。何らかの原因でp53遺伝子が損傷を受けると、細胞にアポトーシスが誘導されにくくなる。例えば、肺癌ではタバコに含まれるベンゾピレンという発癌物質によりp53遺伝子の変異が起こっている。また、肝細胞癌の原因の1つであるピーナッツに生えるカビが産生するアフラトキシンという物質は、p53遺伝子の249番目の塩基に点変異を多く引き起こす。

p53遺伝子の変異は抗p53抗体の出現と相関がみられる。
日本では抗p53抗体測定は食道癌、大腸癌および乳癌が疑われる際に2007年11月より保険適応が認められた。
2012年、あけましておめでとうございます。今年も、女性の健康に関する情報を紹介していきますので、よろしくお願いします。

今年の初の情報は、ピルに関する話題です。ピルは、避妊方法として有名ですが、ピルは女性の自然な性ホルモンサイクルを抑えます。
 
避妊のしくみですが、ピルにより、人工的に女性ホルモン濃度が一定に保たれますと、自然排卵が起こらず、妊娠はしないのです。ピルを飲み続ける限り、本来の性ホルモンの変動は起こりません。
 
一般的に、ピルは,、比較的安全と言われていますが、安全と考えられる理由は、ピルの内服を中止すると、2か月位で、人工ホルモンの影響が取れて、本来の女性ホルモンの自然サイクルにもどるからです。しかし、これは、大部分の女性においての話であって、すべての女性で回復が保障されているわけではありません。細かいところでは、いろいろと女性の体に影響が出ることが分かっています。
 
人工の性ホルモンは、その他の体内ホルモン剤にも影響を及ぼします。人工ホルモンの影響は、数年に及ぶことがあります。ピルによる体への影響は、個人ごとに差が大きく、事前に予想するのは難しいです。
 
一般的にピルには、ろ胞ホルモン(エストロゲン)と、黄体ホルモン(プロゲステロン)が合剤として含まれています。一部の人では、黄体ホルモンのみの製品を使っている場合もあります。黄体ホルモンは、男性ホルモンであるアンドロゲン作用があるので、これがどのように作用するのかは、個人差が大きくあります。
 
ピルをつかっている女性から生まれる子供では、アレルギーや呼吸器のトラブルが多いとのいう疫学データがあります。

Brooksらによると、ピルを使った女性から生まれた子供は、喘鳴が1.8倍、咳が2.7倍になるとの疫学研究の成果を紹介しています。Osmanという研究者は、喘息・喘鳴が、1.16倍になると報告しています。KeskiNisulaらは、こうした因果関係を証明できなかったとしています。
 
小児科アレルギー領域の代表的な医学雑誌の最新号(Pediatr Allergy Immunolの2011;22:528)に、ピルと子供の喘息・喘鳴との関連を調べた疫学研究がありましたので、紹介します。
 
研究は、米国とノルウエイとの共同の作業になっています。ノルウエイでは、妊婦の大規模な集計が行われていて、妊婦の同意をとり、妊娠中に使われた薬を記録し、生まれた子供の病気との関連を調べています。
 
このデータによると、合剤ピルを内服していた母親19786人、黄体ホルモンProgestinのみの薬剤3286人、ピル内服歴のない人36548人の女性たちから生まれた子供の健康の経過を観察しています。子供が1歳半になるまで観察できた子供の数は、42520人 3歳まで観察できた子供の数は24472人でした。

経過観察の結果は、母親が黄体ホルモンProgestin剤を内服していた群では、子供の病気が起きやすくなるというものでした。

母親が合剤(エストロゲンと黄体ホルモンProgestin)のピルを服用していた場合は、子供の1歳半、3歳でのアレルギー、下気道の呼吸器症状とは、関連がありませんでした。しかし、母親が単剤の黄体ホルモンProgestinを内服していた群の子供では、子供が6か月の時点では、下気道の呼吸器症状1,41倍になりました。補正後は、1.19倍

糖尿病の治療に使う、インスリンのように、病気により体に足りなくなってしまった物質は、補わないと生命維持ができません。人工的な薬が、人類の病気に貢献しています。しかし、避妊薬とは、本来、機能しているしくみを、人工的に変調させるものなので、母子に望ましくない影響がおきることがあります。
 
こうした事実関係を、ていねに積み重ねていくことは、女性の健康問題に大事なポイントとなるでしょう。
日本は、安全基準が厳しい国と言われる。しかし、そのバランスはとても日本的だ。すなわち、日本の安全対策は、必ずしも世界水準ではないように思う。

11月23日の毎日新聞に、狂牛病BSEの検査が全頭検査でなくなる理由について解説があった。この記事によると、日本は、いつまでもBSEの全頭検査を続けていると書かれている。

2001年、日本でBSEが問題になった時、とにかく、国は消費者の安心を確保しようとしていた、全く未知の病気が持ち込まれた当時,、知識のなかった政府や地方自治体は大混乱になり、厚労省も右往左往、各都道府県に知事直属の対策本部などが作られた。しかし、行政内部の役人たちは、十分な知識を持たなかった。
 
当時の社会の価値観から、BSEの検査は、どんなにお金がかかっても、徹底的にやるべきことと位置づけられた。全頭検査をやれば安全性が確保されると信じた人が多かった。というより、厚労省は、安全徹底の世論に押されたのである。議会や政治家から圧力がかかれば、正論より民意に従うのが行政の役割である。
 
それでは、民意とは、何なのか?民意とは、国民自身が勉強して、自らが主張する方向性であるが、現実の民意は、マスコミから多くの影響を受ける。しかし、マスコミは、標準的で優等生的な意見は好きではない。
 
今回の放射能事件でも、NHKに登場する大部分のコメンテイターや専門家は、標準的意見を述べていたが、民放は、標準意見を言う専門家を御用学者と呼び、権力へすりよる人とけなした。そして、民放は、個人的見解や、危険を唱える学者を選ぶ傾向があった。ええっ!と思うコメントも多くあった。話題性が高いことが、民法では求められるからだ。

放射能問題も、BSE問題も、多くの国民は、専門家ではない。そして、政治家や役人も専門家ではない。その結果、多くの混乱が起きている。
 
昨日の毎日新聞記事を読みながら、私は、放射能問題とBSE問題には、似た部分が多いと思った。
 
安全を厳しく追及する日本の価値観が、BSE全頭検査を続けた理由であろう。そして、今は、福島より遠くはなれば場所でも、放射能の除染対策が進められている。
 
BSE問題にもどって、考えてみよう。獣医学に限らず、世界の医学は常に進歩している。一旦は信じられた事実も、その後の研究で新事実に置き換わり、元の考えは上書きされ、それに基づき、BSA対策は変化していく。全頭検査の位置づけは変わったのは、全頭検査の限界が医学的に証明されたからだ。費用をかけ全頭検査をしても、その効果が小さいと判断されたのである。
 
欧米の科学者は、自ら英語情報をリードし、それは政治にも直結している。先進国の政府内には、実務と知識を兼ね備えた学者がいる。英語が日常手段である国では、科学は日常と直結している。全頭検査をしても、所詮、脳の一部を調べるだけで、その一部が陰性でもすべての脳脊髄が陰性であることを保証するものでない。
 
こうした科学知識は政策にも反映され、諸外国では全頭検査はされることはなかった。発展途上国は、賢く、欧米の知識にならった。
 
しかし、日本は、独自の安全性が主張された。マスコミも大いに騒ぎ、政治家が動いた。
 
しかし、費用をかけ、そこまでしても、所詮、完全なBSA排除はできなかったのである。
 
牛を賭殺する時に、牛の脳にピッシングという麻酔処理をするらしいのだが、その時に、感染ブリオンが飛び散る危険があるという。諸外国では、ピッシングをしなくなったが、日本ではいつまで続けていたらしい。
 
2008年、そうした世界の情報をかんがみて、厚労省は全頭検査への補助金を中止した。しかし、それでも、地方自治体は全頭検査を続けたという。地方自治体は、全頭検査をやめるための理論武装を欠いていたのだろう。
 
安全対策を必死にやっているつもりでも、日本のやり方は、意味のない作業にとりつかれていたのである。学術的に弱い日本の現状を露呈した。学者の政治への影響力が足りないのである。
 
今後、日本の行政システムの中に、世界水準の知識を日常的に反映させる組織づくりと人が必要だ。公務員試験が難関である今は、役所内のレベルアップは期待できる。

マスコミに扇動された民意や、政治家の誤解から来るごりおしで、政策がねじまがらないようにしてほしい。世界水準の知識や理論で、政治が機能するようにしてほしい。特に、病気の対策では、とても大事な問題である。世界標準で対策すべきである。
 
日本の医療行政が、世界水準からずれることは、今もしばしば起きている。例えば、新型インフルエンザ騒動である。
 
刻々と変わる医学情報の把握が不十分で、厚労省も自治体も的確な対策ができなかった。日本に入ってくる頃には、かなり病気は軽くなっていることを、臨床医はすぐ理解した。

元々、呼吸器に感染するウイルスによる急性の病気を、水際作戦などで防ぐことはできない。しかし、政治家やマスコミは、不可能な安全性を唱えた。新聞にも、水際作戦を徹底しろとの大学教授のコメントなどが載った。こうした記事を書いた人は、臨床現場をしらない学者であった。WHOの日本人長官も、おかしなことを言っていた。当時の舛添大臣も病気がわからなかった。厚労省の中には、すぐに病気の理解した人もいたと思うが、政策に生かせなかった。
 
厚労省内には、水際作戦が無駄であることを知る専門家がいたが、そういう医師の意見は通らなかった。この経緯については、講談社:の村重直子医師による”さらば厚労省 :それでもあなたは役人に生命を預けますか”に詳しい。
 
村重直子氏は、1998年、東京大学医学部卒業。横須賀アメリカ海軍病院、ニューヨークのベス・イスラエル・メディカル・センター、2005年に厚労省へ医系技官の課長補佐として入省。2008年3月から大臣直属の同省改革準備室、7月に改革推進室、2009年7月に大臣政策室、10月に内閣府特命担当大臣(行政刷新担当)付。2010年3月、同省退職。 http://www.amazon.co.jp/%E3%81%95%E3%82%89%E3%81%B0%E5%8E%9A%E5%8A%B4%E7%9C%81-%E3%81%9D%E3%82%8C%E3%81%A7%E3%82%82%E3%81%82%E3%81%AA%E3%81%9F%E3%81%AF%E5%BD%B9%E4%BA%BA%E3%81%AB%E7%94%9F%E5%91%BD%E3%82%92%E9%A0%90%E3%81%91%E3%81%BE%E3%81%99%E3%81%8B%EF%BC%9F-%E6%9D%91%E9%87%8D-%E7%9B%B4%E5%AD%90/dp/4062161486/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1322134171&sr=8-1
 
流行が始まる前から、空港検疫所の医師らが、水際作戦などでは、流行は防げない事を知っていたにもかかわらず、水際作戦は実行されていたのだ。
 
成田日赤にも、足止めをされた健康な乗客が多く出た。乗客も医師も我慢した。誰かの圧力で、成果のないことをやらされたのだ。
 
今回の放射能対策に戻るが、私もこのブログで、広島長崎の原爆被爆での長年にわたる疫学調査の成績を紹介した。この発がんのデータは、世界に誇る日本の科学データであるが、マスコミで、原爆被爆者の発がんについて議論する番組には、お目にかからなかった。一般向けには難しく、マスコミ受けがしないのである。
 
長年、広島長崎の原爆の疫学調査に参加してきた専門家の医師が、「心配するレベルではない」など言っても、今も、危険や不安をあおる報道は後をたたない。
 
放射線専門とする医師の中には、政治家(枝野長官)の「直ちに健康に障害はない」との言い方を、無責任発言で問題視すべきとする人がいる。
 
押し並べてさまざなレベルの人たちの不安を除き、パニックにならないためには、政治家は、この言い方しかできなかったように思う。緊急記者会見の政治家は、専門的知識があるわけではない。枝野長官は、がんばったと思う。しかし、言い方に対する批判を高かった。
 
もし、枝野長官の知識が深ければ、もっと胸をはって、「心配しないで!」と言えたのではないだろうか?
 
放射能の微妙なリスクを理解するのは、基礎知識が必要である。ゼロまたは100ではないのである。
 
世の中にはリスクの度合いというものを、理解できない人がいる。安全か、安全でないかの結論しか、理解しようとしない人もいる。慢性障害と急性障害の違いが理解できない人もいる。
 
 多くの人は、心配だけど、よくわからなし、心配してもしかたないと感じていた。これは、人の強さであると思う。そして、時間がたてば、本当に問題があれば、議論は消えていくことは無い。ここは、人の賢さである。
 
急性期のみ騒いで終わりというのは、科学が生かされていない。
 
爆発後に降った雨の影響で、東京の飲料水が一過性に100ベクレルを超えたことがあった。この時、都は、水道水を子どもに飲ませないようにとの行政指導を出した。これも行き過ぎていると感じた。ペットボトルでお米を研ぐ人は、やりすぎである。リスクを全く、理解していない。

医師の中には、原発反対の人も多いため、その医師たちは、今回の事故を、原発反対の材料にして、危険性をあおる。しかし、原発反対と、目の前の危険は、わけて論じて欲しい。専門家でない医師でも、危険と言えば、当然、影響力が大きいのである。
 
リスクを理解できる人には、どのような言い方をしてもかまわない。しかし、理解できない人向けには、不安をあおるだけだ。原発反対の手段として、放射能の危険性を説くような事を止めて欲しい。
 
放射能の専門家は、リスクの理解が不十分な人に向けては、理解が深まるような方向付けをしてほしい。今後の日本人がかかえる放射能リスクについて、時間をかけて医学の情報提供してほしいと願う。
 
今、妊娠している女性、乳児をもつ親などが、理解が不十分なまま、不安だけが高まるような専門家アドバイスは、マイナス効果の方が高いと思う。
 
非専門家、専門家を問わず、未知の問題が起きた時には、入り乱れて意見が出る。
それ自体は、民主国家が健全であることを示すものだ。

狂牛病対策と、今回の放射線性対策には根本的な違いがある。今回の放射線対策の問題点は、教えてくれる欧米という名の頼もしい先生がいないことである。
このブログでは、加齢に伴う変化を、病気ととらえることのないよう、いろいろな情報提供をしていきます。
体の現象を、多角的にとらえることのアドバイスです。
 
女性の健康疫学についての情報提供です。シリーズでお伝えしている日本の代表的疫学研究JACC研究です。

日本の女性の閉経は、平均51歳ですが、ちょうど、このころの女性たちは、家庭的や身体的のトラブルを抱えています。女性たちは、過去のいやな経験を積んで、より物事の見通しが立つようになっています。

先の見通しがたつと、やりたくないこと、やりたいことのメリハリが、出てきます。
それは一種の学習効果ですが、それをネガティブにとらえる人では、やる気がおきなかったり、がんばれなくなってしまったとの気持がおき、落ち込むことが多くなります。

そうした更年期の不調は、ホルモンが低下するせいとの宣伝が、街にあふれています。
モノを売りたい人の言葉にふりまわされても、良い事はありません。モノでは解決しない問題が多いと思います。
 
閉経の年齢は、昔とくらべてあまり変化はしていません。これは、何を意味するのでしょうか?
閉経年齢が意味するものは、人はその周期で生きる動物であるということでしょうか。
 
今日は、閉経ではなく、初潮の話題です。初潮研究からも、いろいろ見えてくるものがあります。
初潮が早い人と、遅い人を比べると、何が発見できるでしょうか?

初潮と死亡率の関連は、疫学で良く観察されるUカーブの現象です。
Uカーブは、例えば、酒と死亡率の関連、コレステロールと死亡率などで現れる関連です。

酒が少ない人(コレステロールが低い人)と、酒が多い人(コレステロールが高い人)は、死亡率が高くなり、平均的な人では死亡率が低くなります。
横軸に酒やコレステロールの量をとると、縦軸で示した死亡率はU-カーブを描く現象です。
 
初潮との関係も、同様の結果です。
すわなち、初潮が早い人、遅い人は、標準的な人と比べて、早く死亡するとの事実でした。
Eur J Epidemiol. 2011 ;26(10):771-778.  PMID: 22006230

40-79歳の55,128 人の日本人女性を、1988-1990に募集し、その女性たちを 2006年まで経過を追いました。
初潮年齢と、追跡期間中の死亡についての関連を見ました。14歳で初潮が来た女性たちを基準年齢の1として、それより若い年齢と、14歳以上の年齢群で、死亡率を比較しました。
 
カッコ内は、95%信頼区間です。いろいろな条件を組み合わせて計算をするので、こうした幅のある値となります。
信頼区間が狭いほど、その数値の信頼性が高いのです。1を超えていると、確実に死亡率が高いと言えます。1をまたがる値は、確定的でないという意味です。今回は、早く初潮を迎えた女性群で死亡率が高くなっていました。

以下が結果です。
9-12歳での初潮した人の、死亡率は1.16 (1.01-1.32),倍
13歳での初潮した人の、死亡率は1.01 (0.92-1.11) 倍,
14 歳での初潮(基準年齢) 1.00,
15歳での初潮した人の、死亡率は0.97 (0.90-1.05) 倍,
16歳での初潮した人の、死亡率は0.98 (0.91-1.05) 倍,
17歳での初潮した人の、死亡率は0.92 (0.84-1.01) 倍
18-20での初潮した人の、死亡率は1.05 (0.96-1.14) 倍
 
初潮が早い人、遅れる人では、何らかの身体的トラブルを抱えている場合があります。
この対象女性たちを、長い年月にわたり追跡していければ、初潮年齢の影響が強くなる可能性があります。すなわち、追跡観察年数が増加すると、初潮年齢と健康度の関連がより正確に把握できることになります。
 
基準年齢で初経を迎えた女性の死亡率が、それ以外の年齢群の死亡率との差が拡大しそうです。その結果、平均年齢で初潮を迎えた女性は、死亡率が低い(長生きできるう)との事実がよりはっきりでるかもしれません。しかし、これも、実際に追跡してみないと正確なことは言えません。

いづれにしろ、動物の老化は、宿命的なものなので、それを人の叡智がどのように変えていけるか?期待はできます。
本日は、もうひとつのThe JACC 研究を紹介します。
 
ストレスと心疾患の関連を、日本人の男女で検討し、女性でのみ、ストレスの関連がでました。ストレスの多さは、本人の自覚的な評価によるものです。Circulation. 2002 3;106:1229.
 
一般的に、脳溢血や冠動脈疾患は、男性に多く発症します。しかし、外国の疫学調査では、男性の方が、職場や家庭でハッピーであるとの成績が出ています。
 
結婚している男性は、していない男性より、心疾患や脳溢血が減少しますが、女性では逆に増加するとのデータがあります。
 
男性であることは、仕事上、ストレスは多いものの、自覚的なストレスを多く感じる男性と、少ないと感じる男性間では、必ずしも、健康状態に違いが見られないようです。

しかし、ストレスを多く感じる女性はそうでない女性とくらべ、かなり健康状態は低下するようです。夜間の睡眠なども、健康維持に多いに影響するようです。
 
1988 年から1990年までの間に, 40-79歳の30 180人の日本人男性と、40-79歳の43 244人の日本人女性を、追跡研究に組み込みました。

1997年まで追跡したところ、女性は、脳溢血 316 人、冠動脈疾患113 人、総心疾患643人が、起きました。一方男性は、 脳溢血341人, 冠動脈疾患168人, 総心疾患778人がおきました。

質問票により、高いストレスを感じていると答えた女性は、ストレスが少ないと答えた女性と比べ、年齢補正後、脳溢血、冠動脈疾患は2倍、全心疾患1.5倍の死亡率でした。
 
さらに多因子を考慮すると、脳溢血は2.24 (95% CI 1.52 to 3.31, P<0.001) 倍の有意上昇、冠動脈疾患は2.28 (95% CI 1.17 to 4.43, P=0.02) 倍の上昇、全心疾患は1.64 (95% CI 1.25 to 2.16, P<0.001) 倍の有意症状の結果となりました。

こうしたストレスと脳溢血・心疾患との関連は、男性ではほとんどめだたず、心筋梗塞でのみ、ストレスと弱く関係しました。
文科省が後援している日本の健康と疾病に関する疫学調査の成績を紹介します。大阪大学の成績です。
 
以前に、9月16日にもThe JACC 研究として、紹介しています。
脳溢血、心疾患共に、男性が多く発症していました。

今回の結果は、塩分を多く取る人では、脳溢血で、亡くなりやすくなるとの結果です。それって、当り前ではないの?と疑問を持つ人も多いでしょう。
 
疫学というのは、あたりまえでも、実証することが大事で、一般的に言われている事実とは違った結果が出ることがあります、そうした時は、その原因を推定するものが大事です。
 
今回の研究では、塩分が多いと、脳溢血しやすいと、実証できたということです。しかし、塩分の多い人と、少ない人の死亡のオッズが、1.2倍となっており、この数値をめぐっては、人々の感想は色々であろうと思います。
 
あなたは、ええっ!それしか違わないの?とお思いでしょうか?
 
今回、心疾患との関連については、はっきりしなかったのですが、その理由としては、心疾患の方では、塩分制限をしている可能性があります。従って、塩分制限をしている人が影響し、塩分が少ない群で、心疾患による死亡が多くなる可能性があるのです。

Prev Med. 2011 Oct 28.
1988 年から1990年までの間に, 40-79歳の35515人の男性と、40-79歳の49275人の女性を、追跡研究に組み込みました。そして、16.4年間の追跡中に, 1970 人の脳溢血死と、心疾患死 922人が出ました。この人たちの、食事の嗜好、特に塩分の摂取量との関連について、調べました。

脳溢血による死亡は、千人あたり、男性2.0人, 女性1.3人でした。心疾患による死亡は、男性1.1人, 女性 0.5人でした。
 
心疾患全体の罹患(病気を持つこと)は、千人あたり、男性4.6人, 女性 2.9人でした。
 
塩分多い群と、少ない群で比較すると、脳溢血による死亡は、男性は1.21(0.99-1.49)倍、女性は1.22(1.00-1.49)倍となりました。
 
ヘビードリンカー(≥46gエタノール換算/日).の男性では、死亡と関連する結果が出ました。
慢性肺疾患を持つ女性における女性ホルモンの影響について、ご紹介します。BMC Womens Health. 2011 Jun 3;11:24.
 
過去のブログでも、女性は、呼吸器の病気が起きやすいことを紹介してきました。喫煙が、女性でまだまだ男性より少ないことを考えると、女性の肺の病気の多さは、驚くべきことです。
 
女性は炎症が起きやすく、病原体の排除には好都合ですが、一方では、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症(CF)のような炎症性肺疾患が悪化しやすいです。時に、これらの病気は、致死的なため、死亡率は、女性で増加します。
 
喫煙の影響は男女共にうけるものの、女性は、喫煙の影響を受けやすく、そこにも女性ホルモンの影響があるようです。
 
興味あることに、病気のない健康女性では、月経周期に関係なく肺機能が保たれますが、上記のような病気がある女性患者では、月経のサイクルの間、肺機能が低下してしまうことが疫学研究で示されています。エストラジオールと黄体ホルモンが気道を縮めてしまうことに関与するようです。
 
女性ホルモンの増減を感じる部分は、受容体と呼ばれ、αとβがあることは、以前のブログでも紹介しています。エストロゲン及びその受容体は、胎児の肺が出来上がる時に重要で、これらの物質の相互作用で、肺は作られていきます。αは肺胞構造を、βは肺間質(肺胞以外の部分)をつくっていきます。α受容体は、炎症に対して抑える働きをしていますが、βにはこうした抗炎症作用はありません。
 
喫煙女性では、タバコの有害物質を代謝する能力がエストロゲンによって阻害され、さらに、エストロゲンから生じる有毒な中間代謝物も、できやすくなります。その結果、女性で、タバコによる酸化ストレスが高まります。
 
マウスモデルを人工的に操作して、喘息マウスを作れます。喘息をおこさせる原因物質には、卵が用いられます。マウスに卵白を吸わせて、免疫グロブリンのIgE,IgGを調べると、メスマウスの方が良く反応します。もちろん、喘息発作も起こします。
 
卵巣を摘出したマウスでは、気道炎症が抑えられますが、卵巣摘出マウスに再度、エストロゲンを投与すると、気道炎症は元にもどります。
 
エストロゲンの1種であるエストラジオールは、免疫の遷延化がおきやすいTH2表現型の方へ適応可能な免疫を左右に動かします。
 
閉経すると女性の喘息は軽くなる傾向ですが、その効果は、女性ホルモン療法を行うと、元にもどります。
 
この論文は、カナダのデータですので、日本には少なく白人に多い嚢胞性線維症CFが重くなります。この病気は、男女とも発症する遺伝子異常からくる肺の病気です。女性ホルモンは、気道上皮細胞のMUC5B遺伝子の働きを強めます(痰が多くでる)。 黄体ホルモンは、気道炎症を増やすことに加担します。

気道の分泌が亢進していても(痰が多くても)殺菌能が悪く、何度も細菌感染を繰り返します。そして、致死的な緑膿菌の慢性感染となっています。死亡率の高さは、30年間の観察で、女性は常に男性より高く、1989年には大きく水があきました。その後、女性の生存率も上昇したため、男女差は減少しています。

その様子は、以下の英語サイトでご覧になれます。http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3129308/figure/F1/
最近、マイコプラズマ肺炎がはやっている。この病気とは限らないが、咳や痰のでる人が多い。咳と共に、気管から痰が上がってくる時は、気管支炎が起きていると考えて良い。
 
さるやんごとなき方も、気管支炎とかで入院と報道されているが、普通の人の、普通の気管支炎ではまず入院はない。
 
しかし、気管支炎になると、すぐには治らない。咳と痰をすぐに止める薬はない。睡眠時間を増やして、温かく休むことが一番である。そして、発熱とか、痰の増加とか、さらなる病気の進展だけ、気をつければよい。
 
痰は、気管支での病原体と生体の戦いのなごりであり、痰には、脱落した気道の上皮細胞や、多くの白血球の死骸を認める。ドロっとしたその形は、粘液・ムチンと言う物質が多いからである。
 
このムチンは、高分子糖蛋白であり,蛋白骨格(コア蛋白,アポムチン)に、糖側鎖を多数結合した巨大分子からなる.痰中ムチンには、人の体を守る働きをしている。分泌型ムチンは、上皮細胞から分泌され,ゲルを形成する.正常臓器の消化器、呼吸器には、多数のムチンが存在する。ウイルス・細菌に対して殺菌的に働く。
 
そう考えると、痰は、きれいなものではないが、臓器内の免疫細胞が頑張った結果であるとも言える。痰の経過を観察して、病気の判断に役立てて欲しい。
 
感染症が起きると、気道のムチンがすみやかに産生され、上皮細胞は、粘液でパンパンにはち切れそうな状態となる。これを、上皮細胞の粘液変性(杯細胞化)という。
 
本日は、ムチンの働きは、私たちを寄生虫から、守る働きもしているという話を紹介する。J Exp Med 2011;208:893

日本では、患者さんの数は、極めて少なくなった回虫だが、戦後の子供の間には、回虫症は蔓延していた。
 
今回の論文では、マウスを用いて実験をしている。ムチン(MUC5AC)の産生が低下・欠損しているマウスでは、回虫などの線虫を駆除できないのである。ムチン(MUC5AC)をつくる遺伝子が欠損しているマウスでは、線虫の追いだし作業が、とどこおってしまった。そして、この欠陥マウスは、線虫が長く体内に留まることを許してしまう(慢性感染)。
 
論文では、線虫の追い出し作業には、ムチンが大いに活躍していることを証明したが、さらに、ムチン(MUC5AC)は、回虫を殺せる直接作用も持っていたことも明らかにした。
 
人にも同じ物質があるので、人の回虫感染でも、この物質は回虫に殺菌的に働くであろう。
 
ムチンは、IL-13というサイトカインの刺激をうけて増加する。IL-13の増加やTh2型の免疫反応は、アレルギー反応を起こす時に増強する免疫系である。つまり、現代人ではアレルギー反応として、きらわれもののIL-13,Th2サイトカイン、ムチン(MUC5AC)であるが、これらの物質は、元々は、寄生虫の攻撃から、人を守ってきた大事な免疫系なのである。