我が家には、一度も使ったことのないカップ&ソーサーがある。
あれは忘れもしない、17年前。
結婚と同時に夫が食器の中で「唯一」新居に持ってきた、ある食器。
内心思った。
「これ、完全に私の好みじゃない」
でも夫は、それだけは譲らなかった。
「これだけは持って行きたい」と。
私は渋々受け入れ、キッチンの棚の一番上の、さらに奥の奥へと収納した。
そして、17年が経った。
見事に一度も使われることはなかった。
カップとしての仕事、ゼロ。
完璧な保管状態を維持していた。
先日、前の家に残していた食器類を取りに行ったとき、そのカップに再会した。
懐かしさ...というより、「まだいたのか」という気持ち。
17年もの間、出番を待っていたなんて、もはや健気を通り越してミステリアス。
「これ、もういらないよね?」
そう思った瞬間、ふと夫の言葉がよみがえった。
——これ、高いんだよ。
またまた。
高いって言っても、1万円もしないでしょ?
そんな気持ちで、ちょっと検索してみた。
“Haviland カップ&ソーサー” と、楽天で検索。
...出てきた。
44,680円
ちょっと待って。
私が持っているどのカップ&ソーサーよりも高い。笑
あの頃の私、どれだけ夫の言葉を軽んじていたのだろう。
数字のマジックというのは本当に恐ろしい。
値段を知った途端、そのカップが急に素敵に見えてきた。
現金な女だ。
慎重に梱包し、大事に持ち帰る。
かつて“奥の奥”に追いやった私とは思えない丁寧さ。
割れたら泣くもん。もはやこれは資産。
帰宅してから、17年目にして初めてティーを注いだ。
軽いのにしっかりとした重み。どっち?!笑
持ち手の角度も、飲み口のなめらかさも、なんだか上品。
いいよ、凄くいい。
あの若かった頃の自分には分からなかった良さが、今になってじわじわ染みてくる。
そうか、物にも“出会い直し”ってあるのかもしれない。
あのとき、ただ「高い」と言っていた夫。
夫なりにあのカップに思い入れがあったのかもしれないし、単に値段だけでキープしたかっただけかもしれない。
でも、どちらでもいい。
今、わたしがこのカップを好きになれたのだから、それでいい。
これからは、奥の奥にはしまわない。
ティータイムに使っていこうと思う。