私の息子が、私の母校である地元の小学校に入学したとき、びっくりしました。私がその小学校に通っていたのは1970年代、まだまだ日本が貧しかった頃です。それから25年以上たち、日本も経済成長し、小学校もどれくらい立派に変わっているだろう、と期待していたのですが、私たちの頃とほとんど変わっていなかったのです。学校の設備も授業内容も、ほとんど変わっていない。「大丈夫か日本」と思いました。
それから20年経ちますが、まだほとんどそのころと変わっていなさそうです。子供たちは学校に通っても、パソコンもタブレットも使いこなせないままなのです。
これで大丈夫なわけないですよね。日本は先進国中、教育にかける国費が一番少ない国の一つらしいです。日本の物価の安さを考えると、その少なさは群を抜いているのでしょう。
「日本の教育の水準は昭和の頃と変わっていない」つまり日本の教育水準は驚くほど低い、のです。
これは公立学校だけの話ではありません。わたしはいわゆる「有名私立」に中学から通いましたし、息子たちも公立中学から有名私立高校に進みましたが、「有名私立」が公立より水準の高い教育をしている、という事実はありません。私立の方が公立より1クラスの人数も多く、教師にしても、公立の方が給料が良い場合が多いので、必ずしも良い教師がいるわけではありません。生徒が受験勉強をくぐりぬけてきたのでレベルが高い、と言うだけのことです。
「なぜ日本人は英語が喋れないのか」
今までいろいろな説明がされていますが、こうしてみるとなんてことはない、それは「日本の教育水準が低い」からで、ちゃんとした英語教育を学校で受けられていないから英語が喋れない。昭和の時代のままの水準の学校教育で英語が喋れるようになるわけありません。
この「きちんとした語学教育を受けていない」ということの影響は、第3外国語を学ぼうとするときに顕著に現れます。
日本のアニメは海外でも大ファンがたくさんいます。アニメを通して日本に興味を抱き、日本にやってくる外国人たち、彼らの多くが日本語を勉強し、それなりにしゃべれるようになっています。
ひるがえって日本では、ものすごい「韓流」ブーム。新大久保の人出はすごいです。でも、これだけ若い人が「韓流」が好きでも、その中で一体どれだけの人が韓国語を学ぼうとするか。海外のアニメ愛好家で日本語を学ぶ人に較べれば、その数は圧倒的に少ない、と思われます。
なぜ日本の若者は韓国語を学ぼうとしないのか。
それは「学校でちゃんとした語学教育を受けていないから」です。学校で英語をちゃんと学んで、外国語を学んでしゃべれるようになるプロセスを経験していない。だから、自分が外国語を学んで喋れるようになる、というイメージが全くないし、そのやり方もわからない。学校でちゃんとした語学教育を受け、英語で外国人とそれなりにでもコミュニケーションが取れるようになっていれば、次は韓国語を学んでみよう、というモチベーションも湧くし、外国語を学ぶプロセスも経験していますから、学べばある程度喋れるようになる。アニメ好きの外国人はだから日本語が喋れるのです。
でも、そのプロセスを経験していない日本の若者は、そもそも韓国語を学ぼうともしない。それは、「今の若者が内向き」だからではありません。「ちゃんとした教育が受けられていない」ことが原因です。
この「学校で水準の高い教育を受けていない」ということは、語学だけでなく、日本社会のあらゆることに影響しています。
さっきも言いましたが、日本では、有名私立学校と言えども、決して公立より高い水準の教育をしているわけではありません。現に、有名私立学校出身でも、たいてい英語は喋れません。そんなもんです。
ということは、有名私立学校から一流大学を卒業するような「富裕層」の子弟といえども、決して高い水準の教育は受けていないのです。政治家になったりエリートビジネスマンになったりする人たちのほとんどは、庶民と大差ない、水準の低い、昭和の時代のままの教育しか受けないまま、日本の支配層になっていく、ということです。
今、世界は「アートバブル」現代アート作品がすさまじい高値で取引され、アートを買うことは世界の富裕層にとって投資であるとともにステータスとなっています。
でも、日本ではアートが全然売れない。欧米はもとより、中国や韓国、台湾あたりと較べても、マーケットの小ささは歴然としていて、全然売れない。日本には真っ当なアート市場がない、と言われています。
なぜ売れないか、これもまた、日本の富裕層が「水準の低い教育しか受けていない」ことの結果です。アートを理解し愛するような高度な知性と教養を持つような教育は、富裕層の子弟と言えども受けていないのです。そういう教養こそステータスだ、と考えて、そういう教養を持つよう努力するようになる、そういうレベルの教育は受けていない。
富裕層、という日本の支配層ですら、頭の中は庶民と大差がない、というのが日本の貧困な教育のもたらした現状なのであります。
どんなに韓流が好きでも、韓国語を学ぼうなどとは思いつきもしない若者。
お金はあってもアートは買わない富裕層。
これは、昭和の時代のままの教育を放置し、教育への投資を怠ってきた日本社会がもたらしたものです。
そして、私たちの社会は、教育の貧困によって、実際にどんどん貧困になっています。
このコロナ禍、ヨーロッパの100分の1の感染者数で「医療崩壊」を起こしかねない貧困な医療体制の国に私たちは住んでいることに気付かざるを得なくなりました。イタリアの医療体制がどうの、スペインがどうの、などとニュースは言ってましたが、日本でイタリア並みの感染者数が出たら、惨状はイタリアの比ではないでしょう。私たちはどうも、とても貧しい国に住んでいるらしいのです。
その貧困をもたらしたのが、教育の貧困だ、とわたしは思っています。それによって、このまま、日本はゆっくりと滅びていく、と私は思います。