TICADに際して思う事。アフリカの教育とその出口戦略
——学ぶ意味が見えなければ、学びは続かない——アフリカの教育支援に関わっていると、よく「アクセスは改善してきた」と言われる。たしかに、この20年で学校に通える子どもの数はずいぶん増えました。でも、実際は…サブサハラ・アフリカの初等教育純就学率はまだ約78%(UNESCO-UIS, 2022)。そしてもっと深刻なのが、10歳になっても簡単な文章が読めない子どもが多数いるという“学びの危機”です(World Bank & UNICEF, 2022)。「通ってる」ことと「学べている」こと、そしてその“先”が、つながっていないのが現状です。教育と経済をつなぐ“橋”がない教育って、本来は未来への投資のはず。でも、アフリカの現場ではそのリターンが見えにくい。親たちは言います。「学校より牛の世話をしてくれた方がありがたい」「勉強しても、仕事がない」ケニアでマサイのご家族と話したときもとても印象的でした。 子どもは多いけれど、誰を学校に行かせるかは真剣に考える。 学校に行かずに牛の世話を覚えた方が、すぐ役に立つ。 学校に行っても家畜の世話はできないし、 町の子どもより勉強もできない。 そんな“二重の落ちこぼれ”になるくらいなら…行かせない方がいい。リアルな声です。失われた接続:学んでも働けない現実教育と仕事の世界をつなぐ“橋”が、最初から架けられていない。農村に必要な教育は、農業や家畜の知識かもしれないのに、都市部モデルのカリキュラムばかり。しかも、就職先もない。「学んでも働けない」「学んだことが役に立たない」そんな二重のミスマッチが起きています。イラクで教育のリターン分析をしたときは、女性の教育リターンが計算不能でした。女性の就職先が「政府職」にほぼ限定されていて、教育を受けても活かす場がなかったからです。教育の出口がふさがれている社会では、誰も“橋”を渡ろうとは思いません。だからこそ「出口戦略」が必要教室・教材・教師の数…「教育の質」「インプット」の議論は増えてきました。でも、教育政策の議論で、“その先”が語られることはまだまだ少ない。教育の出口戦略って、そんなに難しい話ではない。✅ 地域産業に合わせた職業教育✅ 学校と企業のインターンシップ連携✅ 卒業生の進路調査(トレーサースタディ)✅ 起業や家計管理など生活スキル教育こうした取り組みがあれば、「学ぶ意味」が目の前にある状態になります。アフリカのように都市と農村で事情が違う国では、一律の教育モデルではなく、現場に合った“出口の設計”が必要です。教育の未来は「出口」を見据えて最近、TICAD(アフリカ開発会議)などを通じて日本を含む企業のアフリカ投資が注目されています。でも…投資先の教育水準が伴っていなければ、持続可能な成長にはつながりません。産業育成と教育支援は、切っても切り離せない“セット”で考えるべきではないでしょうか。教育は、未来をつくるインフラ。“出口”を見据えた設計を、もっと現場に根ざした形で進めていけたらと、そう願っています。