(『新・人間革命』第8巻より編集)
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〈布陣〉 28
理事長の原山幸一がつぶやいた。
「やはり、奄美は遠いな。それに、あの船の揺れにはまいったね」
すると、すかさず伸一が言った。
「やっと念願の奄美に来たんだ。来たからには、精魂を込めて道を開くよ。まず、五年分の広宣流布の布石をしよう!」
気迫にあふれた山本伸一の言葉で、同行の幹部たちの雰囲気は一変した。
副理事長の石川幸男が口を開いた。
「確かに、わざわざ奄美まで来たんだから、大いに健闘しなければ意味はありませんな。私もしっかり、信心指導にあたりますよ」
伸一は、笑みを浮かべて言った。
「石川さん、指導するという発想ではなく、奄美の同志から、信心を学んで帰ることだよ。
ここの支部長や婦人部長は、この遠く離れた奄美から、毎月、船と列車を乗り継いで、東京の本部幹部会に来ているんだ。
それだけでも、一週間はかかってしまう。その間、仕事もできないし、送り出す家族の苦労も大変なものだ。
そして、会員の激励に島から島を駆け巡り、命がけで広布の道を開いてきた。生活だって犠牲にしなければできなかったはずだ。
一人ひとりが広宣流布の大功労者だ。
幹部で役職が上だから、信心が強盛とは限らないし、偉いわけでもない。話をさせれば、みんなの方がうまいだろうし、教学力もあるだろう。
しかし、それと信心とは、必ずしもイコールではない。
大事なことは、実際に広宣流布のために何をしてきたかだ。どれだけ折伏をし、どれだけ同志を立ち上がらせ、どれだけ動き、どれだけ汗を流し、悔し涙を流してきたかだ。
奄美は確かに遠い。しかし、奄美の同志の心は、私に最も近い。私とともにあるといってよい。学会本部にいても・・・」