(『新・人間革命』第7巻より編集)
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〈早春〉 30
その夜遅く、一行はホテルを出発して、午前一時十分の便で、イランのテヘランを経由して、インドのニューデリーに向かうことになっていた。
ところが空港に着くと、一行が搭乗する便は、強風のためにキプロス島に退避しており、まだ、到着していなかった。
航空会社の話では、確かな出発時刻はわからないが、おそらく十時間以上は遅れるだろうとのことであった。
ホテルに戻り、朝になって空港に電話してみたが、まだ出発の目途は立っていなかった。
ホテルで朝食を取りながら、十条潔がイライラした口調でつぶやいた。
「どうも、海外での移動はスムーズにいかないな。何があるかわからないんだから」
それを聞くと、伸一は、笑いながら言った。
「それは、人生も、広宣流布の道も一緒だよ。全ては波乱万丈のドラマだ。でも、だから面白いんじゃないか。いっさいが計画通りだったら、つまらないものだよ。
私は、試練や障害に出あうたびに、これでまた一つ、人生のドラマができたと思い、勇んで立ち向かってきた。
人間は皆、わが人生劇場の主役なんだから、どうせなら堂々とヒーローを演じようじゃないか。青年には、その気概が大事だよ。
何かあるたびに、いちいち驚き、慌て、嘆き、悲しんでいたならば、ヒーローにはなれない。せっかくのドラマも台無しになってしまうよ」
その言葉には、伸一の人生哲学ともいうべきものがあった。
結局、ベイルートを出発したのは、二十四日の午後五時ごろであった。十六時間ほどの遅れである。