(『新・人間革命』第7巻より編集)
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〈早春〉 27
しかし、レバノンにあっては、それぞれの宗教は、共同体を形成し、政治的な結束力をもち、生活習慣にも深く根を下ろしている。
いわば、精神的にも、社会的にも、各人の存在を支える基盤となっているのである。
しかも、時には、支配権力と対峙してきた歴史をもっている。
レバノン社会の、この強い宗教性は、政治にも顕著であり、”宗教主義”といわれる政治制度がつくられている。
各宗派の人口比率を基準に、政治上のポストが割り振られているのである。
伸一たちは、ホテルに荷物を置くと、早速、ベイルート市内の視察に出かけた。
中東というと、”砂漠”のイメージが強いが、紺碧の地中海に臨むベイルートは暖かく、緑も多く、南欧を思わせた。
ベイルートは、中東の金融・経済の中心であり、当時、レバノンの人口は約百六十万人であったが、このうち、三分の一が、ベイルートに集中していた。
それだけに、街は活気にあふれ、しかも、商店の看板には、アラビア語のほか、フランス語や英語も混在し、豊かな国際性を感じさせた。
また、イラクなどでは、街で出会うのは、大半が男性で、たまに見かける女性は、黒いチャドルという服に全身を包んでいたが、ここでは、女性も数多く街を闊歩していたし、服装も多彩であった。
市内には、各宗派ごとに居住区ができており、ある地域にはマロン派キリスト教徒が、また、別の地域にはスンニー派のイスラム教徒が住んでいた。
青年部長の秋月英介が、山本伸一に語りかけた。