(『新・人間革命』第2巻より編集)
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〈錬磨〉 9
山本会長の姿を見て、皆の顔が一斉にほころんだ。
「先生! ようこそ銚子においでくださいました」
「お世話になります。さあ、お座りください。この雄大な海を眺めながら、語り合いましょう。ここは、いい所だな。すばらしい景色です」
伸一は、にこやかに語りかけた。
「今日は、聞きたいことがあったら、なんでも聞いてください。友人と友人の語らいですから」
日焼けした初老の男性が手を上げた。
「私は漁師をしておりますが、戦後、米軍が九十九里浜で高射砲の演習をするようになってから、漁獲はめっきり減りました。
もう演習は終わりましたが、まだ、魚は戻って来ません。どうすれば、魚が戻って来るでしょうか」
「それは大変ですね。ただ、結論からいえば、皆さんの一念で、国土世間を変えていくことができると教えているのが仏法です。
根本はお題目です。皆で大漁を祈っていきましょう。私も題目を送ります」
この時、一人の老婦人が言った。
「先生! 私たちの”大漁節”を聴いてくださいますか」
「ありがたい。ぜひ、聞かせてください」
感無量の顔で、老婦人が歌い出すと、皆が手拍子を打ち、その声に唱和した。
一つとせ
一番ずつに積み立てた
歌声は夕空に広がり、潮騒に溶けていった。歌う友の顔も、見守る伸一の顔も、夕焼けに染まっていた。
「ありがとう。すばらしい歌です。感動しました。大漁を願う皆さんの決意があふれています。
皆さんに何かお土産を差し上げたいが、残念なことに、今日は何も持ってないものですから、花を摘んで贈らせてもらいます」
「さあ、皆さん、私からのプレゼントです」
大変にお世話になりました。