(『新・人間革命』第2巻より編集)
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〈先駆〉 14
彼は、全国を駆け巡り、自ら民衆の海のなかに身を投じて大波を起こしていった。
彼は走った。
そして、川崎市民会館での鶴見・京浜・横浜の三支部合同幹部会にやって来た。
鶴見は、伸一にとって、懐かしい思い出の地であった。
戸田城聖の事業が暗礁に乗り上げた、あの試練の時代に、彼は仕事で、この地に毎日のように足を運んだ。胸を病み、体も最も憔悴していた時代である。
彼は、その思いから、語り始めた。
「戦後の学会の最初の難は、戸田先生の事業が窮地に陥ったことです。先生は最も苦しまれていた。
その時、かって、先生にお世話になった三人の幹部が言ったことが、私は忘れられません。
ー そのなかの一人は、伸一にこう語ったのである。
「戸田なんかに使われるのはやめ給え。体まで壊してしまって、つまらないじゃないか」
恩知らずな厚顔無恥の言葉であった。
伸一は、胸が煮えたぎるような憤りを覚えながら、毅然として言った。
「戸田先生は私の師匠です。師に仕え抜くのが弟子ではないですか」
さらに、別の一人は、ささやくように語った。
「もう戸田になど付かないで、俺について商売をやらんか。うんと儲かるぞ」
しかし、ある一人の幹部は、彼にこう言ったのである。
「今こそ信心で立つべき時だ。決して御本尊様を疑ってはいけない。また、戸田先生を守りきることだ」